心霊ビデオのキャラ立ちについて『厭-見てはいけない呪いの動画-』を見た。
今、心霊ビデオ*1が自分の中でなかなか熱い市場となっており、実際に『コワすぎ!』は勿論のこと、『ほんとうに映した!妖怪カメラ』は昨年の映画秘宝ベストテンで2名(ギンティ小林さんと餓鬼だらくさん)がベストに入れた効果があったのか、最近TwitterやFilmarksでの投稿が少しずつ増えいる傾向にある。心霊ビデオは月に何十本もの新作がリリースされるなかで、今回、満を持して『厭〜見てはいけない呪いの動画〜』が2作同時に年始に発売になった。『厭』シリーズは、基本的に読者が投稿した心霊映像を流すスタイルだが、短編の他に投稿された映像の地に訪問して実際に心霊映像を撮影しようとする中編が収録されている。今回は主に物語仕立ての中編について触れていこうと思う。
短編ー中編(物語仕立て)といったスタイルは『監視カメラ』などでも見られるが、『厭』シリーズの出演者のキャラが際立っているので、キャラ立ちについて考えていきたい。本シリーズでは、以下の3人のクルーが心霊現象を撮影しに行く。
・カメラマンを担当するチーフ(男性) → なぜかAD安藤の言いなり
・AD安藤(男性) →極度にADチャングーを嫌っている。(裏チーフ的存在)
・ADチャングー(女性) →一番下っ端でAD工藤の言葉は絶対
また、撮影までの流れはシリーズ通して以下のようになる。
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(1)投稿者からある動画が届く(調査要請)
(2)ADそれぞれがネットなどを駆使して情報収集
(3)現場にいき撮影を開始
(4)AD安藤が撮影をADチャングーに押し付ける
(5)ADチャングーがひとりで撮影を開始
(5’)AD安藤とチーフが街で聞き込み調査を実施
(6)AD安藤とチーフが”それらしい回答”を得る
(7)ADチャングーのカメラで幕を閉じる。
流れは上記の通りで、実際に心霊現象を取りに行ったのにチャングーひとりがAD安藤に強引にその場に残されてしまい、ひとりで撮影するといった鬼畜対応をさせて結局心霊を撮れないまま終わる。AD安藤の性格は一言でいってしまうと屑である。タイトルを『厭』から『屑』に変えたほうがいいくらいの性格の悪さだ。心霊スポットでの撮影を全てチャングーひとりに任せたり、パワハラまがいの口調で彼女をどんどん追い詰めていく。名前からしても『コワすぎ』の工藤Dを連想してしまうが、工藤Dは「映像」に執着していて立ち回り的にも魅力感じるキャラクターである。しかしAD安藤にはそういった魅力はない。ADチャングーがいじめられていて不快感*2を覚えると思う。
だからキャラは立っていても工藤Dと違って、魅力的とは到底思えないキャラクターなのだ。ただ、60-70分とキャラ作りにあまり尺が取れない心霊ビデオの都合上、極端なキャラクターは物語を転がしやすいので手法としては悪くない。行動を起こすための論理的な説明を、論理をぶっ飛ばす極端なキャラクターを投入することで、半ば強引に「動機づけ」が出来るということだ。『コワすぎ』が放送禁止ワード垂れ流しの工藤Dを投入しても、不快感がないのはAD市川に指示するだけではなく、例えば『コワすぎfile.3 人食い河童伝説』であれば超高速で動きまくる自ら河童を殴ったり、身の危険をかえりみずに「映像」に徹底的に執着している姿に多くの人が魅了されるからだ。
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確かにADチャングーの扱いは酷いものだが幕引きは素晴らしい。というのも、チャングーが置き去りにされても結局は心霊現象には合わないというのがシリーズ2作とも繰り返される。これはひとり残すことにしたAD安藤への皮肉とも取れる(本人は絶対に思っていないが)。それにAD安藤が追及して発見した真相が「本当に真実だったのか?」といった前段でも書いた心霊現象の本質に迫る回答になる。それに、チャングーが怖がりながら廃墟に入っていくところは、こちらも本当に恐怖感が生々しく伝わってくるので、ホラーとしての一面を垣間見ることができるので決して悪いところだらけではない。
長々と書いてしまったが、娯楽作品として十分なポテンシャルを持っていると思うし、中編以外にも短編*3の出来がなかなか面白くて見入ってしまった。キャラ立ちと考えると少し滑っているかもしれないが、それが演出なんだと理解すると自ずと楽しみ方が見えてくると思った。たとえパワハラまがいな扱いに不快感を覚えても、今後どう転んでいくかわからないし継続して見ていきたい。また、今後シリーズを重ねていつかチャングーが安藤を殴る瞬間を目撃したいと淡い期待をよせながら、続編を楽しみに待っていたい。*4
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