ジェームズ・ワン『死霊館 エンフィールド事件』を見た(雑感)。

死霊館』より早3年、待望のシリーズ最新作『死霊館 エンフィールド事件』を見た。簡単なメモ書きのような雑感です。

映画の冒頭、ウォーレン夫妻は悪魔払いの調査中のようだ。幽体離脱をしたかのように自分の身体を横目にロレインは、家の中で寝ている家族の前に立ち何やらショットガンを撃つような動作を真似して見せる。そうするとたちまち寝ていた家族たちが撃たれたかのように身体が血だらけになる。彼女が鏡の前を通ったとき、ロレインではなく男の姿が映し出される。どうやらその男はその事件の犯人のようだ。彼女は犯人に「仮装」することで事件を再現して見せていたということがわかる。そして、彼女の実体がうなされるなか、夫はもうやめろと忠告するが、それを無視しさらに何者かに深淵に案内される。深淵を覗いてしまったロレインは夫の危険を察知し休業しようと話す。しかし遠く離れたイギリスでは、新たな事件が始まっていた…。

心霊映画においては心霊現象が始まる(ホラー映画のシステムに飲み込まれる)瞬間というものは、印象的に、まるでシステムに捕捉されてしまったかのように表現されるものと考えている。例えば『貞子vs伽椰子』における現象の始まりは、「リング(貞子)=ビデオを見ること」、「呪怨(伽椰子)=家に入ること」、と境界線を越えた瞬間が目で見てすぐわかるように表現されている。まるでそれは『ドラクエ5』におけるゲマ戦のように、最後に必ずゲマのメラゾーマで殺されるパパスと同様に決まった運命をたどるだけだ。『死霊館 エンフィールド事件』(以後、『死霊館2』と記す)では娘が煙草を吸っていたと学校からクレームを入れられたり、息子がいじめられていたり、娘たちがこっくりさんのような遊びをしていたり…と、キッカケになりそうなものは散りばめられている。しかし、いくらカメラが縦横無尽に動き回り人物を撮り続けていても、『死霊館2』では確証たるキッカケを撮ることをしていない。現象が始まり、ウォーレン夫妻が調査を初めてからも、確たる始まりのキッカケや心霊現象がつかめないのである。映画を見始めて何十分かはどうもそんな基本的な「始まり」のなさに『死霊館2』大丈夫かな?と心配をしていた。そこで今回は、その確たるキッカケや証拠が掴みづらい『死霊館2』は一体なんだったのだろうかと考えてみた。

(以下、ネタバレが含まれます)

死霊館2』ではウォーレン夫妻が調査を開始し、実際に現象が始まっても「心霊を感じない」とロレインが語るシーンがある。たが「子供たちのことは信じる」と彼女は調査を続ける。彼女たちはあくまで調査に来ており協会に対して悪魔祓いをさせる確たる証拠をつかまなければならない。期限は3日間と短い期間である。そんな境遇のなか霊に憑りつかれていたはずの少女が、カメラの前で自ら憑りつかれていることを演出しているシーンが記録されてしまい調査は断念せざるを得ない状況となる。しかしそれは悪魔に欺かれていたと後々わかることになる。『死霊館2』では、起きている現象のほとんどが本来の目的を隠すためのパフォーマンスとして使われており、常に周りの人間を欺くことに徹している。また、それは『死霊館』での事件を経てたウォーレン夫妻のおかかれた事態とも共通項がある。

ウォーレン夫妻は前作『死霊館』の事件以後、テレビなどに出演し世間からの注目を集めていたが、同時に「イカサマだ!」と揶揄されることが多くなっていた。学者が口を開けば「立証されている。あなたは世間をだましているんだ。」といい、ウォーレン夫妻の言葉には一切耳を貸さない。そういった背景から彼らは世間を“欺いている”ように思う人が出てきてもおかしくない。こういったように夫妻の存在自身が批評性を帯びることで、深層下でアメリカとロンドンがつながっている。それはまたロレインが見た夢にもつながってくる。ロレインはロンドン調査前の段階で、夫が死ぬ夢を見ている。その夢を見る前に夫も悪魔の夢を見ており、悪魔の絵を描いていた。悪魔は夫妻に調査をさせないように警告するため、遠く離れた大陸の深層にまで現れていたのだが、結果的にはそれがあだとなり敗北することになる。ウォーレン夫妻の深層に現れる事態が始まりの「キッカケ」だったのだ。

  • 悪魔

前項で「イカサマ」について触れたが、悪魔が仕掛けるイカサマのなかの1つに身体を乗っ取る行為がある。序文でロレインの見る一家の悲劇の一部始終を書いたが、あそこでロレインは犯人に「仮装」することで何が起きているかを体現して見せた。そして悪魔もまた「娘」の身体を前住人に乗っ取らせることで「仮装」することに成功している。互いに身体を自分ではない何者かになりえることで別の人物を表象させた。また、悪魔の存在を示す逆十字架の演出も示唆的で、明確に悪魔がここにいるぞと、ゾクっとするような演出で面白かったと思う。地下の水たまりでの悪魔との対峙寸前のシーンについても、前住民の「入れ歯」によって悪魔が存在を隠すことで仮装をすることができていた。全体的な心霊現象は、視覚的に「厭」な空間を意図的に観客に見せることで、宙づり感を得られていた。ラストのドタバタシーンも心霊オンパレードで家を『エクソシスト』のように破壊してみたりカタルシス的にも見せ場が多数ありいい塩梅だったと思う。また、ロレインがはじめに悪魔と対峙するシーンや、ラストの名前を呼ぶシーンなどでの悪魔の存在感は、『エクソシスト3』級の最強感が感じられて好みだった。

  • 最後に

冒頭の無駄の多いカメラワークに「大丈夫かな?」と思ったりしたが、結果的にかなり楽しめた。『インシディアス』シリーズからも引き継がれているような回想シーンや、おもちゃ箱をひっくり返したような心霊現象のオンパレードに娯楽として楽しめたし、何より大好きな『エクソシスト3』っぽさをどこかで感じられたのもよかった。ただ、『インシディアス』シリーズも含め結構やることやってしまったと思うし、これからのジェームズワンが大作以外のホラー映画を撮ってくれるのか少し不安だったりも。

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