2016年に見た新作映画ベスト10

2016年もグラインドコアのように音速で駆け抜けました。もう目の前に2017年が立ちふさがっています。年末最後の更新なので総まとめ的に……今年も音楽とアニメを両立させてたくさん映画が見れました。素晴らしいバンドに出会ったり、人生ベストに入るアニメにも出会えましたし、トンデモナイ映画にも出会いました。前段は短く……ってことで、ベスト10選の発表です。例によって、選外作品や心霊ビデオベストなども下のほうで上げているので長くなりますが。

※今年のメインキャラでオープニングを飾ります

  1. 中島みゆき 夜会VOL.18 「橋の下のアルカディア」−劇場版−
  2. ホース・マネー
  3. レッドタートル ある島の物語
  4. 風に濡れた女
  5. ソング・オブ・ザ・シー 海のうた
  6. 花に嵐
  7. エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に
  8. ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE
  9. 呪われた心霊動画 XXX2
  10. 傷物語

2016年上半期に見た新作映画ベスト10 - つぶやきの延長線上
2015年に見た新作映画ベスト10 - つぶやきの延長線上

上半期からだいぶ変わっていますね。それと去年のランキングもついでに。
では、各映画の短感想です。

今年の映画ベストどころか人生ベスト入り決定!人生のすべての“痛み”を抱えた大傑作!自分のいちばん弱い部分を死ぬほどエグられてしまって、涙が止まらなかった。本作は中島みゆきの「言葉の実験劇場」と呼ばれる演劇でもミュージカルでもない『夜会』を劇場版として公開したもの。黒が奇妙に浮かび上がっていて、カメラワークもそうなんだけど、空間設計がものすごいことになっている。現在と過去が交錯し合い、しまいには輪廻転生的な話になったり、中島みゆきの歌唱力も相まってすさまじい空間に仕上がっている。V系ミュージック(特にムックの『ママ』)好きにはたまらないんじゃないだろうか。そこに『神無月の巫女』や『風立ちぬ』になったりして泣きすぎて死ぬかと思った。これぞ満を持してのナンバーワン!

悲痛なまでの”痛み”を物語った大傑作/『中島みゆき 夜会VOL.18 「橋の下のアルカディア」−劇場版−』を見た(感想) - つぶやきの延長線上

半年前に見たときは『コロッサル・ユース』(2006)が21世紀ベストだと思っていたけど*1、思い返すたびに『ホース・マネー』のすさまじいショットに泣けてくる。やっぱりある種のドキュメンタリー映画なんだよね。孤独な男が記憶をめぐり転々とする……。映画にする方法としては少し違うが、今年見たアランレネの『ミュリエル』(1963)とのシンパシーを感じた。ライティング、レイアウト、オン/オフ、音、と映画技法のオンパレード。とてつもない強靭なショットがずっと続く。ただただうっとりと眺めていました。

ジブリに感謝しかない。鈴木敏夫は確信犯だろうと思う。ドゥ・ビットの作品をシネコンの大きなスクリーンで、しかもゆったりと見ることができた。こんな贅沢な空間を提供してくれただけで太っ腹だ。谷川俊太郎の「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」コピーがあまりにもこの映画を的確に表現をしていて他に評論なんて必要ないんではないだろうかと思うほど。とにかく縛られた過去なんてものはなく、ただただ、現在が続いていく。強靭なショットとオン/オフや音響の使い方といい『ホース・マネー』に負けず劣らず*2ジブリ本当にありがとうございました。

ショットと音響による演出 - マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット『レッドタートル ある島の物語』感想 - つぶやきの延長線上

冒頭、神代辰巳のオマージュから物語が始まっていくが、捉える長回し+カメラワークが広々とした土地と海を捉えていてとても気持ちがいい。その後にドワイヨン的なフィジカルバトルが始まるが、「蝶のように舞い蜂のように刺す」って感じで、引用先よりも遥かに身軽さがある。あのドンずまりの小屋も安っぽい効果音などによって、どこか現実感のない、フィクションでしかない空間を成り立たせている。随所に笑いが設置されているし、終盤のトンデモナイ出来事のバカバカしさが最高!大傑作でした!

  • 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』トム・ムーア

アイルランドから東映アニメへの挑戦状かはたまたラブレターか。『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)のキャラデザ意識や神話をベースにした物語など、東映アニメへの愛があふれている。紙芝居的な2D画面や滑らかな線の動き。手法は違えど今年でいうと『父を探して』との親和性を感じた。また物語も「円環」が意識され、円環のモチーフが神話という起源の物語を強調している。最高のアニメーション映画でした。

起源をめぐる冒険/トム・ムーア『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』感想 - つぶやきの延長線上

  • 『花に嵐』岩切一空

PPFの準グランプリ作品。心霊ビデオにも知見があるフォロワーさんがほめていたので便乗して「青山シアター」(公開は終わりました)で見たのだけど、いやあこれはすごい。近年『コワすぎ』がブームだったけど、『コワすぎ』やその他のPOVフェイクドキュメンタリー史をまとめて見ているようだった。しかもそれがやり過ぎで嫌とかではなく、監督が自ら身体を張って役をこなしているってのもあるんだろうけど、映画に対して真摯なんだよね。それが伝わってくる。昨年『心霊玉手匣4』といった人生ベスト級のフェイクドキュメンタリーに出会ったのですが、その感動がまた蘇ってきたようだった。これは新たな才能!傑作です!

ヤりたいからヤるんでしょ? - 岩切一空『花に嵐』感想 - つぶやきの延長線上

人生を意味なんて見出さないで無意味に消化している人たちの映画が大好きで、それはそもそも人生なんて意味なんてないってことを前提に考えているかもしれない。特に映画は総合芸術といえど無意味の集合体のようなもので、人生に意味づけなんてしなくても絶対に楽しめる娯楽。もちろん芸術でもある。リンクレイターの新作は大学野球部の新学期前の乱痴気騒ぎをカメラに抑える。音楽の使い方がゲロウマでシーン移行が音楽によって音から記号へシームレスに繋がれとてもクール。『6才〜』はリアルに意味を見出しすぎていて苦手だったのですが、今回は一安心。何よりも途中退場するあるキャラクターにもっていかれた。彼が今年のMVPです。

今年これほど映画に愛された作品もないんじゃないか?と思うくらい奇跡的な展開・瞬間を見せてくれたドキュメンタリー。in台湾ということで土地勘もなく言語もわからない3人が路線バスに乗り右往左往と動いていく。これだけとどまらないで動く映画が面白くないわけがない。しかしそこに台風直撃で波乱の展開となっていく……。蛭子さんの奇跡的な瞬間を捉えたり、まるで劇映画のような展開にひっくり返るほど面白かった。映画っていいね〜と思えた作品のひとつ。

  • 『呪われた心霊動画 XXX2』

今年の心霊ビデオ部門ベストということで劇場公開ではないが、無理やりランクイン!*3心霊ビデオは予算が少ないなかのやりくりを頭で考えて解決しようとする努力がよくわかる。黒白映画時代に映画監督たちが光と影を意識して演出したように。それだけオン/オフや音響の扱いが研ぎ澄まされている。特に本作は「反復」が意識され演出されており、間違いなく映画として称賛されていい作品だった。傑作です。

人生ベストの『傷物語』が3部作となってしまいちょっとなんだかなあという気持ちはあるのですが、それにしても尾石達也は天才でしょう。ギャグ/シリアス、キャラ/背景のレイヤーやショットの扱い方といい抜群のセンスがある。何よりもキスショットがかわいい!冷血篇はまたすごいことになっていそうだ。3部作合わせて何とか文章書きたいなあと考え中。とにかく本年いちばん楽しみにしていた映画でした。傑作です。

「日陰」と「階調」/尾石達也『傷物語〈II熱血篇〉』感想(演出メモ) - つぶやきの延長線上


■次点(順不同)

たくさん次点がある(笑)それくらい面白い映画が多かったんでしょうね。軽く触れます。『スポットライト』はレンタルで見たのですが、とても地味な物語ながら、とてもいいショットが積み重ねられる。しかも過剰ではないところに惚れ惚れしました。フランコフォニア』はそのまま記憶の映画ですね。光の映画としてのピートと秘密の友達』『BFG』『ブリッジ・オブ・スパイさすがは、デヴィッド・ロウリーとスピルバーグですね。スピルバーグは「おや?」っとするシーンもあるのですが、最後は泣いてしまうんですね。『ドロメ』は下手したら内藤監督のベストかもしれません。ダゲレオタイプの女』愛についての映画。聲の形イメージの洪水のような映画。山田尚子はここにきてトンデモナイ作家になった。『同級生』漫画のコマ割り演出もいいですし、何より背景がいいんですね。『鬼談百景』墓場での鬼ごっこのやつがサイコーでした。死霊館振り切れたパワーが魅力的。『リサージェンス』ぐるぐる回転するところはゲームみたいでしたね。タートルズこれぞアクション映画。まったく止まりません。『ヤクザと憲法』『Fake』現実と虚構の揺らぎが画面に反映されています。とても面白い。スティーブ・ジョブズアーロン・ソーキン最高の脚本!言葉がマシンガンのように迫ってくる。『ロブスター』人間を信用していないところがとても信頼できる。あとプールシーンに映る横乳のほくろが最高にセクシー!『ジョギング渡り鳥』現実と虚構の関係やメタフィクションとしてめちゃくちゃ面白かった!関係性についての映画。傑作です。


■苦手だった映画

  • トイレの花子さん新章〜花子VSヨースケ〜』
  • 『ジェーン』
  • 『サラダデイズ-SALAD DAYS-』
  • 『SCOOP!』
  • 『眼球の夢』
  • 『イレブン・ミニッツ』
  • 『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
  • ズートピア
  • ライチ光クラブ
  • 『ヘイトフルエイト』
  • 『マジカル・ガール』

『花子ヨースケ』不必要に画面は揺れるし役者と役者がカメラに被るし、カメラ向ける方向おかしいところあるし、ただただ見ているのがつらかった。『ジェーン』西部劇なのでバンバン撃ってほしいのですが、たまに撃てばショットが弱いし、見せ場のシーンも見にくい。回想がかったるいしドヤ演技が見てられなかった。『サラダデイズ』衝動が皆無。説明だけの映画。『スクープ』夜のシーンが夜の映画にならない。キャパにもピンとが合いませんな。『眼球の夢』「認識」することの映画なんだけど、エログロのわりに長くてつらかった。『イレブンミニッツ』スコリモフスキがこのような映画を撮ってちょっとつらい。ヤングアダルトニューヨーク』どうしてもノア・バームバックという作家とは相いれないらしい。ズートピア多様性について語っているように見えてリスクなんてまるで考えていない。よくできているけど行儀がいい映画。フィルムノワール調に謎解きだけに専念すれば面白かったと思う。ライチ光クラブセット凝っているけど虚構感が薄い。多分ショットの狭さの問題。顔ショットが多いわりにみんなおなじに見える。ただ中条あやみはめちゃんこかわいい。『ヘイトフルエイト』セット以外に見どころを感じなかった。あとネタ探し。『マジカル・ガール』まどマギというよりゆゆゆだろうか。かったるくて面白さがわからなかった。


■心霊ビデオについて

  • 『呪われた心霊動画 XXX2』
  • 『厭〜見てはいけない呪いの動画〜』
  • 『厭〜見てはいけない呪いの動画〜其ノ弐』
  • 『心霊闇動画16』
  • 『ほんとにあった!呪いのビデオ70』
  • 『ほんとうに映った!監死カメラ16』
  • 『心霊〜パンデミック〜フェイズ3』

例によってもっと見なければならないのですが、昨年の『流出封印動画5』や『心霊玉手匣4』と比べると少し落ちる。『厭シリーズ』は中編モノのADパワハラは嫌気が差すのですが、二作目までは投稿モノの出来が抜群にいいです。あと8が面白かったですね。『心霊闇動画16』は投稿モノの「ロッジ」これは心霊のあり方についての作品だと思います。すごい。『呪いのビデオ』は「Fake」が面白かったです。あと投稿モノの犬ネタの犬がかわいい。『監死カメラ』廃墟シリーズ大好き。パンデミックは投稿モノのレヴェルが高いですね。「ちかよる」が素晴らしいです。あとシリーズ5作目も面白くて特に「おりてくる」は泣ける。

あと年末に出た『闇旅』シリーズに今後期待かな〜という感じでしょうか。心霊ビデオはもっと見て感想を流してくれる映画ファンが増えるといいのですが、『コワすぎ』がブームになりましたが結局のところ白石監督の力が大きいんだろうな。強靭な物語に引き付ける脚本やキャッチーなキャラクター設定といい演出もすごいけど総合的に光っている。投稿モノはタイミングや時間間隔の演出勝負的なところがあるから、キャッチーではない。その分『心霊玉手匣』が後を継ぐかと思えば、次のリリースは難しそうだし残念な限り。心霊ビデオはまとめて『心霊ビデオベスト100選』とか秘宝的なムック本が出ればまた変わるんじゃないかな……とか思っているのだけど、どうなんでしょうね。あまりにも毎月リリースが多すぎてファンだってすべて追える人は限られているし、どこから見ればいいのかわからないだろうから。入門誌が出ればいいと前から思ってる。まあ心霊ビデオはどこから見ても大体は見れるのだけど……


■まとめ
今年も劇場で見た新作は90作品くらいで新作BD・DVDが30本だったかな。昨年はもっと新作見ようと思っていたんだけど、なんか今年は見過ぎた気がする。調整が難しいもので来年は心霊ビデオと旧作を多めにしようかなとか考えています。新作でいえば『ミッドナイト・スペシャル』がDVDスルーらしくて残念ですが、出たら速攻見ようと思います。またジェームズ・グレイの新作やボネロの新作(やるのかな?)と楽しみな映画がいくつかありますね。来年も人生ベストと出会えるといいな〜と夢見る年の瀬でした。来年もよろしくお願いします。

夜会VOL.18「橋の下のアルカディア」[Blu-ray]

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呪われた心霊動画 XXX2 [DVD]

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*1:ペドロコスタとして。作家ベストとしては『血』を選択したい

*2:ただ『ホース・マネー』は使っているというよりも、そこに立っているだけですごいといった途方もない境地だけど

*3:秘宝でも心霊ビデオが集計されているしいいでしょう。