ヤりたいからヤるんでしょ? - 岩切一空『花に嵐』感想

PFFアワード2016・コンペ部門の準グランプリ作品(PFFアワード2016『花に嵐』|第38回PFF)。ツイッタ−でフォロワーさんが絶賛していたので青山シアターにて鑑賞(公開は10月23日まででした)。

大学に入学した主人公が映画研究部に入り、部室の置いてあるカメラを借りて日々の生活を撮りはじめる。そこで花という先輩に出会い、ある映画を完成させるために彼を振り回すことになるが、、、(略)本作はPOVフェイクドキュメンタリー方式で撮影されており、心霊ビデオ系の作品群や白石晃司監督作品からの影響は根強いだろうと思う。ただそういったフェイクドキュメンタリー史のみで構成された作品ではなく、まず人間を撮ること(映画を撮ること)を追及しており、映画にとても真摯に向き合っていると思えた。

この映画はメタ構造を有効活用して、映画を「作ること」行為について物語っている。それまで映画はおろか、何も作ることをしてこなかった主人公が自分でも映画を作ることができるんではないだろうか?と考え始めるようになる。パンクの世界でよくDIYというが自分でレーベルを立ち上げて自分たちでレコードを製作して、販売も自分たちで行う…などの行為のことをいう。『花は嵐』はそれの映画版であり、主人公が身の回りで起きたことを編集して映画にすること、映画研究部で作られた『花は嵐』という謎の映画、そしてこの映画(自主制作)といった階層で構成される。「やりたいからやる」といったシンプルな考え方なのだが、めんどくさかったり(精神)、やりかた(技術)がわからなかったりと、だいたい物怖じしてしまうだろう。

「やり方を知っているからやるんじゃないんでしょ。やりたいからやるんでしょ?」

本作は主人公が出会う花という少女に「行為」を問われていく。これは花が主人公にいう台詞だ。映画を撮るにも、女の子と一夜を過ごすにしても、、主人公がカメラを回すことで自主(DIY)映画とは何なのか?といったことを問いただしている。下手にやればたんなる説教になってしまいそうであるが、作り手の精神と映画の持つテーマにズレがないから、素晴らしい作品に仕上がっているのだろう。そのDIYの精神的な意味では白石監督の『暴力人間』(1997)に近しい感覚ではないだろうか。監督自身が主演となり、身を挺して赤裸々に語るから人に迫っている感覚があり、どこかいびつな心霊・SF的な物語にも調和が生まれ、胸を打つ青春映画になっている。

DIYといえば、まるでドローンで撮影したのか?と思わせる海岸のシーンがある。このシーンPFFのサイトでみるとどうもドローンを用意できなかったので風船40個つけてカメラを浮かせ紐でひっぱりながら撮影したらしい。そんなところからもDIY精神を感じる。たまたま最近“海”が重要な意味を持つ映画を立て続けに見ているので気になるんだけど、映画において海は“どん詰まり”として機能する場合が多い。『大人は判ってくれない』(1959)でも、少年は海岸まで走っていき行く場所がなくなり振り返る。しかし、本作での海はまるで希望のように美しく描かれる。映画『花は嵐』がクランクアップしたあと、主演の花が急に海岸を駆け出す。背景が白飛びしているように撮影され、まるで夢の中を駆けているように見える。なぜかその場にいて彼女を追いかける主人公。そしてその夢はふっと終わりを告げる*1。この海岸のシーンを見ているとどうも『心霊玉手匣4』を思い出してしまい、あの感動が再び帰ってきたように涙が出てきてしまった。

それと主人公の扱われ方も妙に生々しいのが気になった。恐らく着色されていると思うが、少なからず実体験に沿った内容に基づいているのではないか?と思う。恋愛モノばかり撮るチャラい先輩。しかもモテまくり、自宅(?)に女の子を呼びハーレム状態。対して「脂」というあだ名をつけられる主人公。経験によって蓄積されてきた憎悪をもってこの映画を完成させたのではないか、と考えるほど生々しく表現されている。こういったところもDIY精神として面白いなと。(ホントかどうか別として)あと『恐怖分子』(1986)っぽい写真オマージュがあって、それが夢なんだなあって繋がるところも。とても素晴らしい映画だった。フェイクドキュメンタリーファンであれば楽しめること間違いなしだと思うし、こういった新たな才能は逃さずチェックしていきたいと思いましたよ。

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*1:このシーンを見ていると小説だが『S&M』シリーズの四季と犀川を思い浮かべてしまった。