『バケモノの子』公開前なので、何となく細田守 5選+α

昨日『バケモノの子』公開間近と思って、『おおかみこども』再見してた。公開時は前半パートがどうしようもなく苦手で、後半の三人が雪をかけるシーンとかはアリだな〜と思ってたのだけど、あまり印象変わらず。でも、さらに苦手になっていた。終盤の雨をエグってくるあたりからは面白くなってきて、そこからはよかった。やっぱり細田守はエグってこそ、橋本カツヨが「情念の人」と言われていた所以が残っているのかな。いまさらカツヨ名義になっても『世紀末オカルト学院』の写真の見守るような、やさしい眼差しなんだろなあ…。と、ピンク髮にやられた世代としては、生き恥を晒して、余生を過去にすがってジリ貧で生きていくしかないのですが、細田守5選でケリをつけようと。普通に選ぶと『ウテナ』から多く選んでしまうので、苦しいけど一作品ごとで。これが、俺の最後の怨念になれば…。


◼『少女革命ウテナ』29話「空より淡き瑠璃色の」
脚本:白石千秋 絵コンテ:橋本カツヨ 演出:岩崎良明 作画監督:たけうちのぶゆき

橋本カツヨこと細田守が『ウテナ』で絵コンテを担当したのは、全部で7話あるけど、「情念の人」を言わしめる最高の仕事は29話じゃないだろうか。樹璃さんをエグりまくる。しかし、物語の最後、エグられていたと思った樹璃さんは、自分もエグっていたんだと気づくことになる。そして、これぞ世界最高峰の「椅子」演出。橋本カツヨ・ベストとともに『ウテナ』のベスト・エピソードかなあ。


◼『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』29話「史上最強の宿敵!襲いかかる非情の牙」
脚本:菅良幸 絵コンテ:遡玉洩穂 演出:清水明 作画監督:小林利充

遡玉洩穂名義で参加した、みんな大好き『るろ剣』。斎藤一が剣心と十年ぶりに再会する。この回、剣心不在の緊張感が極上。演出ゲロうま。赤木と斎藤一の会話シーンから狂ってる。剣心の「不在」の緊張感を高める演出でもあるんだけど、二人で会話しているシーンで花のカットが入る。そのまま二人は会話し続ける。その画面上にいないんだけど、そこにはいるって奇妙な感覚で、その後の机越しのカットも妙な緊張感を煽る。次の薫と恵の会話シーンでも、途中で斎藤一を混入して同じように繰り返す。

それと、レンズ効果。斎藤一が「日村抜刀斎いますか」と訪ねてきたシーンのレンズの歪みを使った緊張感あるシーン。ここまで来るとホラーアニメかよ、と錯覚するような恐怖。斎藤一と剣心の十年間を、時計をオーバーラップさせて表現するのも見事。これぞ最高の仕事って感じがするいい回でしたね。

最後に原作だと、すこし剣心を引っ張るだけなんだけど、剣心が遠くに行ってしまうような気がして、後ろから抱きつく薫のシーン。これも妙技。


◼「明日のナージャ』26話「フランシスの向こう側」
脚本:ルージュ・ドゥ・ルーン 演出:細田守 作画監督川村敏江

「26話がやりたかったから」と『ナージャ』の演出を引き受けただけある。ここではフランシスが二人いる?とナージャが困惑しますが、そこまでに至る場所的な演出が素晴らしい。場所的演出とはスペインのグラナダの気候の扱い方。摂氏50度近くなるこの都市では、日中暑いので昼寝をするらしい。そこでフランシス(実際はキース)と再び出会うんだけど、出会ってからしばらく二人以外誰も登場しない。(暑いからみんな寝てる)



ナージャがひたすらテンション高くて再会を喜んでいる。トマトのカット連鎖最高。
現実なのか夢なのか、って雰囲気たっぷりある奇妙な回だ。それは、フランシスが複雑な心境だからなんだけど、それを際立たせるのは宮殿に対する発言。

「だがこの宮殿の本当の美しさは、華麗なアラベスク装飾や巧な造園技術にあるんじゃない。本当の美しさは、大いなる価値の逆転に運命を翻弄された、そんな儚げな存在、そのものにあるんだ」

どこか、彼自身のことを話しているような。寂しいような顔。
ナージャはフランシスが好きだというけど、本当に好きなのは自分。
自分への気持ちは本物だと…。
どことなく『天使になるもんっ!』20話「近いゆめ、遠いひと」のラファエルの天使としての寂しさにも似た雰囲気。
儚いな…。。
エグってくるな、エグリスト細田守

宮殿内を歩くシーンや雰囲気、少しながら『アドゥレセンス黙示録』冬芽との再会シーンを思い浮かべてしまう。


ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島

ハウルの動く城』の悲劇があって、その怨念が『オマツリ男爵』に向かったとよく言われる。細田守名義としては一番橋本カツヨよりで、彼の「情念の人」最終編じゃないだろうか。ルフィはあそこで生きてきたけど、橋本カツヨは死んでしまったんじゃないだろうか。じゃあ『世紀末オカルト学院』の写真は誰が撮ったのか。橋本カツヨなのか、細田守なのか。フランシスとキースみたいな流れだ…。

オマツリ男爵は自分の世界に(檻に)囚われてしまった人。
御影草時と一緒。
御影はウテナの未来の姿になるはず…だったのか。
オマツリ男爵は一体誰だったのか。
橋本カツヨは置いてきたのか…

ONE PIECE』関連だと、199話「迫る海軍の捜査網! 囚われた二人目!」も面白い。
原作にはないエピソードを担当している。OPウソップとロビンの絡み最高。


◼『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』40話「どれみと魔女をやめた魔女」
脚本:大和屋暁 演出:細田守 作画監督馬越嘉彦

細田守最高傑作!」とよく言われる。細田守の職人芸「同ポジ」「分岐点」が見事に炸裂する。魔女を「ガラス」に見立てた最強の演出。執拗にガラスばかりを捉える。未来は吹っかけたけど、どれみは本当に向こうにいきたかったのかな。その場になったらどう選択しただろう。

留学しなかった青木れいか
彼氏とアメリカにいかなかった『海街』の綾瀬はるか

ちなみに『どれみ』でいえば、
49話「ずっとずっと、フレンズ」の「雪」演出もゲロうま。
40話と同じく語り継がれるべきお仕事。

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【次点】
◼『ひみつのアッコちゃん』3期 14話「チカ子の噂でワニワニ!?」
脚本:吉田玲子 演出:細田守 作画監督:出口としお

細田守の得意技「同ポジ」の頂点に立つ回じゃないだろうか。
「繰り返しの美学」ここでもエグってる。
でも、実際チカ子よりハートブレイクになっているのはアッコという。
冴えきった妙技。

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【終わりに】
特に順位関係なく選んだんだけど、書いた順に好きかもな。『ウテナ』なら7話、20話も捨て難い。特に20話は主役ではなく、サブキャラに焦点を当てている。これは、すべてのサブ・モブへの追悼の思い。

さて、『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』ケモノアニメが続きますが、思えば次点であげた『アッコ』でもワニになるし、『鬼太郎』でも魚に変身するんだよね。ケモノへの気持ちってのは昔から強いのかもしれん。そういえば、この前読んだ『SWITCH』の宮崎あおいのインタビューで細田守についてこう答えてた。

細田監督の作品だから絶対に参加したい」
「監督が好きだからです。監督が作るものが好きだから」
「優しいからです。監督の作る作品は優しさが溢れている感じがして、見ていて幸せになるんです」

エグることで、「何か」から目を背けることを許さなかった橋本カツヨ
今度は見守る視線で「優しさ」を与えているのか…。

さようなら、橋本カツヨ

SWITCH Vol.33 No.7 細田守 冒険するアニメーション

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