「あの花」を期待して『1999年の夏休み』を見るとズッコケる。

最近「あの花」を見た先輩があまりにも「あの花」面白い・ヤバい・泣けると絶賛していて、言われている僕はあまりあの花が好きではないので「『あの花』の嫌いなところ選手権〜♪」とか、エントリーしようと思ったけど、そんな怨念ばかり募らせても不毛だなと…それで、あらすじだけ見ると「『あの花』じゃん!」とおセンチ期待して観るとズッコケそうな金子修介1999年の夏休み』を再見。


まず、Amazonに掲載されているあらすじを見てみましょう。

舞台はある全寮制の学院。初夏、悠(宮島依里)が湖に飛び込んで自殺し、そして夏休み。和彦(大寶智子)、直人(中野みゆき)、則夫(水原里絵=現・深津絵理)の3人だけが家に帰らず寮に残った。悠は和彦に想いを寄せていたのだが、それを拒絶されたために自殺したのだと自分を責める和彦を、リーダー格の直人が優しく包み込む。そして下級生の則夫もまた、和彦を慕っていた。そんなある日、悠そっくりの薫(宮島依里)という転入生が彼らの前に現れた……。

このあらすじを見ると、「死んだ子が現れて…」で終わっているので、少しミステリアスだけど「おセンチなのかな?」と期待すると思います。仲の良いグループの一人が亡くなって、ある日現れるというのは、「あの花」っぽい展開。ただ、その者の正体が何者か不明な分ミステリアスな作品になっている。それで話を進めると「あの花」っぽいかと言うと、全くそんなことはなくて、逆に異様な「死」の雰囲気を感じる作品。多分「あの花」期待するとズッコケる。

少女革命ウテナ』はこの映画というか、原作の『トーマの心臓』の影響*1を受けていて、同性愛・閉ざされた学園生活・女が少年を演じる(ウテナ自身は女が男の制服を着る)・デミアンの引用・ヘンテコな学園造形、と似たような要素が多い。それに、この映画の明らかに棒読みのような台詞まわし(「壊しても壊しても壁だらけ。多少居心地の良い壁を探すだけさ」「母親との眠り姫の話」)も「ウテナ」っぽく感じるし、直人と薫が電車に乗って母親のアトリエにいくシーンは、ウテナと冬芽が車に乗って学園外に出るシーンと似たような効果を持っている。

デミアン (新潮文庫)

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ウテナ」は外へ出る話だったけど、この映画は「少年の死を背負った3人の成長話」と「死んだ少年の思い残したことの実現」と二つのお話が入り交じる。ある少年は、この平穏な夏休みがずっと続けば良いと思っていたし、また、ある少年は彼の死を引きずっている。そして、死んだ少年はこの均衡を崩そうとする。均衡を壊そうすることはPCのようなガジェットが動かなくなるのことで演出。彼ら以外の人物は全く登場しないのに、彼らは規律を守ろうと自習をする。これは均衡を保つ為の演出。
妙なガジェットの登場や上記のような演出・設定のおかげで、まるで、悠だけが死んでいるんではなくて、全員が死んでいるような異様な雰囲気がある。台詞まわしもそうだけど、どこか現実を帯びていない。外界からは完全にシャットアウトされた空間。狂った感触。先に言ったように「ウテナ」は学園の外へ出る話だけど、この映画は奇妙な終わり方をする。まるで、何も解決されていないような、果たしてこれは現実なのか虚構なのか…

それと、「光」がよく出てくる映画である。例えば、深夜校内を歩くときのランプスタンドやカーテンの隙間から見える木漏れ日、深夜の冷蔵庫の照明など…どこか「光」に向かって行っている。奇妙な電車移動も存在するが、実はココは死んだ者が生活する箱庭なのかとそんな怖いことを想像してしまう映画だ。


「あの花」も一応「死人」が関わっているけど、ここまで語る口が違うとズッコケるどころか怖くて泣き出すんでなかろうか。全くおセンチではない。金子修介の初期作品が見たい方はぜひぜひ。以上

1999年の夏休み [DVD]

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*1:幾原邦彦が初めて読んだ少女漫画は『トーマの心臓』らしい