『アート鑑賞、超入門!』から見る映画の鑑賞方法について

僕は日頃「鑑賞すること」について関心があって、例えば、この映画をどう見ればいいんだろう?他の人はどのように見ているのだろう?と気になることがしばしば。興味を持つ理由の一つとして、映画の鑑賞方法を教わってこなかったからではないだろうか。教わらないのは、映画はそもそも一般的な学問ではないからだろう。音楽も似たような性質があるが、音楽は演奏することが出来る。ただ、音楽も映画と一緒で鑑賞することに関してはあまり教わらないだろう。映画に至っては、楽器一つで演奏を奏でられる音楽と違って、映画を作るといっても授業でやるには時間が足りない。それに、映画や音楽にせよ作ることは「鑑賞」ではないのである。つまらないことを考えていると思われるかもしれないが、アートの世界でも「鑑賞」について考えた本があった。

まず、アートと言っても『アート鑑賞、超入門!』で語られるのは主に「絵画」である。本書では「アート」と「アートを鑑賞する」といったことが必ずしも同じテーマではないということ。アートを鑑賞する人の方が多いのに、学校では創作する授業が多いことから、アートをどのように見ていけばいいのだろうか?を考えた本。ここでは、本書で語られるアートを鑑賞することについて、「映画」に置き換えられるのではないか?と思い、使えそうなものを5つほど取りあげてみます。


1.「ディスクリプション」をしてみる
最初に絵画が提示され自由に鑑賞する。そして、次は絵画を隠され、何が描かれていたか問題が出される。たった一枚の絵であるが、意外とそこに描かれていることが把握できない人が多いという。「ディスクリプション」は説明方法であり、そこに何が描かれているのか(様態)を言葉に変換すること。

例えば、上記の写真であれば「茶色いコートを着た男が、車のような物の上に乗っている。ここでは霧が立ち込めている。男の後ろには7〜8人の人がいる。そのうち一人は奥からこちらを見ている。」になるでしょうか。ここで難しいのは静止画である絵画ですら、何が描かれているか理解できないのに、動画である映画でこれができるのか?と。それがこの後の項目での説明に繋がる。

2.「時間をかけて見る」
前項の「映画でこれができるか?」の回答としても、時間をかけることは正しいと感じる。映画に置き換えると「繰り返し見る」。僕の体験談としても、ミステリなんか特にそうですけど、1度目の鑑賞は物語を追ってしまうことが多い。画面に何が描かれているか?は頭に入れているつもりでも物語に引っ張られて「あれ?あのシーンどうなっていたっけ?」と映画を巻き戻すことがある。物語・画面の全てを把握するってのはかなりの訓練がいるだろうし、はっきり言って1回で理解するのは不可能かもしれない。レンタル可能である映画であれば、一度目は物語。二度目に画面集中したり、台詞をメモる。などで自分なりに映画を何度か見るのがいいかもしれない。一つの作品を見続けることで、新しい発見が生まれるかもしれない。

3.「数多くの作品を見る」
何事も「習うより慣れろ」っていいますからね。僕の体験談としても映画を見始めの頃と今の見方ってかなり変わったと思う。本書では、「鑑賞力は精神発達に比例するのではなく経験に比例する」と文献(上野行一教授『私の中の自由な美術ー鑑賞教育で育む力』)を引用している。

「たとえば、作品の部分と部分の関係や部分と全体の関係など、作品を把握、理解する力は多くの作品を見れば見るほど養われるといいます。」

僕も思うことがあって、苦手だった作品を数年後に見直した際、面白かったことがあるんですね。数多く見たり、本を読んだりすることで映画文法を意識していくので、変化したなと実感する。ただ、数量も鵜呑みにしてしまうのではなく、前項の「時間をかけて見る」とセットにしたほうが効果的。また、絶対的な指標があるわけではない。僕の経験としては、映画好きになりたての頃は無差別に見まくっていた。まず、名作と言われるものや巨匠と呼ばれる監督を中心に。それから、気になった監督がいたらシラミ潰しに見るといった鑑賞法。一般的には1日1本見ろとか聞きますけど。まあ、数も絶対ではないので。

4.「感性で見る」
ここでは「感性的見方」と「知性的見方」について触れらており、「感性で見ることが本当に悪いことか?」と踏み込んでいる。「感性的見方」を作品が求めている場合もありますよね。感覚で何かがひっかかれば、後から知識を得ていけばいい。そう言った見方もありだと思う。

「感性的見方」の鍛える方法として、一枚の絵をみてたくさんの言葉の中から幾つか選びながら、感想書くって鍛え方が書かれている。

作品名:クロード・モネ『チャリング・クロス橋とテムズ川
修飾語:清々しい、寒々しい、懐かしい、寂しい、神秘的、薄汚い、輝かしい、ほこりっぽい、暑苦しい、明るい、活発な、崇高な、深みのある、落ち着いた、モダンな、古臭い、静かな、穏やかな、やぼったい、悲しい、上品な、瑞々しい、暗い、賑やかな、

上記の修飾語から感想を作ってみるといったもの。単語を見ることで、自分が作品から感じた単語と違うものも出てきたり、それを使ったらどう語れるか?などの練習になる。

絶対に感性を鍛えられる方法があるとは言い難いですが、映画を見る以外にも普段の生活から鍛えられるかもしれませんね。一般的には、綺麗な景色を見たり、人と話したり、笑ったり、泣いたり、怒ったり、感動するってことかな。

5.「知性で見る」「知って見る、知らないで見る」
前項の真逆で「知性的見方」についてです。これは映画でいうと映画評論家の町山智浩がいい例かも。作品を語るんであれば、作者の意図や発言等をしっかりと理解する。映画史的にどういう位置づけなのか。社会情勢と結びつけると?どのような作品に影響を受けているのか、どういった技術で撮られているのか。

この観賞方式は、「知る」ことで喜びを覚えるでしょう。「こんな意図だったから、こういった技術で撮られていたんだ」という事実を知る喜び。

町山智浩の映画塾!|映画|WOWOWオンライン

ただ、ここで気をつけるのは、今ある事実が本当に「真実」であるか否か。例えば、とある評論で書いてあることを鵜呑みにしていたら、事実は違っていたとか。しかも困ったことに、正しいものと判断してそういった評論が頭に入っていると、そういった目でしか見れなくなることがある。「見方とかえろ」とかよく言うけど、実際難しい。まあ、「知識」だけで語るなってことなのかもな。

映画とは何か(上) (岩波文庫)

映画とは何か(上) (岩波文庫)


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『アート鑑賞、超入門!』から数点ひろってみただけで、これだけの鑑賞法が出てくる。ただ、ここで登場してくる内容は、どれも基本的な鑑賞する際の姿勢への取り組み。映画を語る方法は幾らでも存在する。前段で名前を挙げた町山智浩なんかは、映画史や監督が意図すること、どういったものに影響を受けているか?など映画の外堀を埋めるのがとてもうまく、話を聞いているだけで面白いと感じるだろう。彼は徹底的に調査する。他人がめんどくさくてやらないことを積極的に実施していく。それが、仕事としての映画評論家だとか語っていたと思う。

一つの見方が正しいとは思わない。例えば、同じ映像作品でも実写とアニメでは、それぞれ映画ファン・アニメファンと見方が変わる可能性が十分あり得る。映像を作るアニメと、あるものを撮影する映画とは、同じ映像でもそもそも根本から違う。ただ、語りのベクトルの違いはあれど、「好き/嫌い」は同じになり得る。

例えば、昨年のアニメ映画たまこラブストーリーでは、『たまこまーけっと』からのファンが多いのと思いきや、映画ファンの年間ベストを見るとこの作品を挙げている人が多かった。それは、『たまこま』を見ていなかった人でも入りやすいスピンオフ的な作品であり、純粋なラブストーリーを描いていたからだと思う。また、蓮見重彦ジョン・フォード解説「投げること」の運動論で語られるような作品だったこともあり、映画ファンも唸っただろう。

講演「ジョン・フォードと『投げること』 完結編」

『たまこラ』は「投げる」「落とす」「受ける」で見ていくと本当に作り込まれた作品だと思うし、完璧な作品だなと思うけど、これが全ての見方ではなく、”劇場版”なのであるから『たまこま』からの陸続きとして語るのも面白い。そうするとみどりを、たまこともち蔵のバトンのバランスポイント的な緩衝材として扱われていることに、難色をしてしている人がいたり。反復である餅を喉に詰まらせる演技をするみどり、木を登らないみどりに不満を漏らす人もいた。また下記のように撮影や音についての評もあったり面白い。

『たまこラブストーリー』の美意識 山田尚子監督の美意識 - OTACTURE

列挙したように、語り方にも種類が豊富であり、全てが「正しい/正しくない」ってのはないと思う。それと実体験なんだけど、会社の上司が「名前忘れてしまったんだけどな、めっちゃ面白い映画があってん!」って、映画について熱く語られたことがあったんだけど、その人は本当に楽しそうに語っていた。映画を見たり、本を読んだりして映画について考えているけど、上司の話を聞いてやっぱり、映画って良い意味で娯楽だなと強く思った。


【まとめ】
アートと映画は違うものですが、アートの鑑賞方法は映画にも応用できるのではないのか。それは、「観賞」と「創作」といったように本質から違うものではなく、あくまでもどちらも鑑賞することに目的としているからと思って取り上げました。映画を作れば、また面白いのかもしれないけど、平日仕事して、休日にしか映画を見れない人が多い。そんな時「鑑賞」について考えてみると、映画の新たな愉しみに出会えるかもしれないなと思う。これからもたくさん映画を見ていきたいね。