あまり映画のサントラは聴かないけどFantômasの『The Director’s Cut』は名盤だよね/ジャンルのクロスオーバーについて

僕は映画を見ていて、かっこいい劇伴だな〜と思っててもなかなかサントラまで手が出ない。普段、メタルやハードコアのCDを狂ったように買っていても、劇伴には真面目になれなかったりする。まあ、それはキャパオーバーしていて、得意なジャンルに逃げていることもあるだろう。まあ、サントラって普段聴いてないけど、唯一好きなのが、マイク・パットン率いるFantômasの『The Director’s Cut』。こちらは映画の劇伴カバーした名盤。

Director's Cut

Director's Cut

マイク・パットンってFaith no moreなんかが有名だけど様々なプロジェクトをやってる。その中でもFantômasは、MelvinsのギターやSlayerのドラムDave Lombardoなどを集めたぶっ飛んだアヴァンギャルド・メタル及びハードコアをやっているプロジェクト。最近活動しているんだかよくわからないけど、4枚アルバム出していて『The Director’s Cut』はその中の一枚。そして、映画マニアのマイクパットンの趣味が100%反映された作品じゃないだろうか。

ートラックリストー
1.The Godfather
2.Der Golem
3.Experiment In Terror
4.One Step Beyond
5.Night Of The Hunter
6.Cape Fear
7.Rosemary's Baby
8.The Devil Rides Out
9.Spider Baby
10.The Omen
11.Henry: Portrait Of A Serial Killer
12.Vendetta
13.Investigation Of A Citizen Above Suspicion
14.Twin Peaks - Fire Walk With Me
15.Charade

上記トラックリストからわかるように、王道の『ゴッド・ファーザー』から、そしてホラー映画の鉄板オーメン』『ローズマリーの赤ちゃん。そして、『悪魔の花嫁』『スパイダー・ベイビー』などのマイナーどころもついてきて彼の映画に対するアツい想いが伝わって来る。サウンドは基本的に原曲をリスペクトしながら、メタルのリフやハードコアの爆心力で怒涛に攻める。そして、何と言ってもマイクパットンの変態声やグロウルまで披露され、彼のヴォーカル力が伺えるものだ。さらに声にエフェクトかけたりして、全体的に不気味なパフォーマンスに仕上がっている。映画好きでエクソトリームミュージックも聴ける人なら是非聴いてほしい。


◼︎映画の劇伴
さらにマイク・パットンは自身のバンドは飽き足らず、実際にプレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(2012)の劇伴も担当している。こちらも彼らしいアヴァンギャルドサウンドで、映画より音楽に夢中になってた。


◼︎マイクパットン以外にも…
彼のように音楽から映画への関わりってのは、ロブ・ゾンビなんかが有名だろう。やっぱり、ロック〜メタル出身ってのはホラー映画が好きなようで、『ハロウィン』のリメイクや『デビルズ・リジェクト』などの傑作を生み出している。自身のバンドも過激ながら、映画もバイオレンスに満ちている。この映画⇄音楽のクロスオーバーは、音楽で培ったものが映画へ影響を与えているのだろうか。そして、僕が特にすごいなと思ったのが、彼の2012年の作品『ロード・オブ・セイラム』

ロード・オブ・セイラム [Blu-ray]

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魔女裁判」という古典的なものをテーマにしながら、ローズマリーの赤ちゃんを下敷きにしたり、メリエス月世界旅行の垂れ幕をそっと後ろにかけておいたりと、古典ホラーを内包した作品。そして、そういった古典的手法の中に、比較的新しいメタルのジャンル(それでも80年代)であるブラックメタルを取り入れてしまうことだ。

確かに、ブラックメタルは「魔女裁判」にうってつけな音楽だろう。黒い衣装、コープスペイントに、悪魔崇拝、音質の悪い音源、トレモロリフ、がなる・叫ぶボーカルスタイル等々…。見た目や音の性質にこだわったスタイルの音楽である。ロブ・ゾンビは映画内で架空のブラックメタルバンドを立ち上げラジオ番組で流す(PVが流れる)。「ブラックメタルバンドを商業映画に出す」という荒業をやってしまうのだ。そもそもブラックメタルは様々なジャンルから派生したジャンルであり、スラッシュメタルハードコアパンクに影響を受けたバンド。Emperorを筆頭にシンフォニックアレンジをするものとジャンル同士がクロスオーバーして生まれた音楽である。

『ロード・オブ・セイラム』は古典ホラーを下敷きとしながら、ブラックメタルをクロスオーバーさせ、そこにアヴァンギャルドな劇伴を入れて化学反応が起きポスト・ブラックメタル*1を感じる映画だった。

日本のアヴァンギャルドブラックメタルバンドSigh川島未来氏によるブラックメタル
Speak Off the Cuff ! | EXTREME TEH DOJO

ブラック・メタルの血塗られた歴史 (Garageland Jam Books)

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◼︎ジャンルのクロスオーバー
ここまで書いたマイク・パットンロブ・ゾンビなどの作品や彼ら自信を通して感じるのは、映画や音楽のみならずジャンルの垣根を飛び越えて、互いにクロスオーバーさせている。例えば、「映画好きによる年間映画ベストテン」っという企画はツイッターやこういったブログを通じて毎年発表される。もちろん、映画好きがどのように選んでいるか?っては面白いし、その理由を探っていくのは面白い。ただ、僕自身が、音楽、映画、アニメ、を軸に趣味が展開されているので、バンドマンとかが映画のことをつぶやいていたりすると、「どういった見方をしているのだろう?」とか、自分と違った見方をしていると、それまた面白いものだ。だから、バンドマンが選ぶオールタイムベスト映画!とか見てみたい。

もちろん映画だったら映画的文法で見ることが基本だと思っているし、音楽であれば、LIVEで受けるエモーションが重要だと思っている。ただ、僕はシネフィルじゃないし、全ての音楽に精通しているわけでもないし、自分の好きなもの同士がクロスオーバーする感覚を大切にしていきたいと思っている。

◼︎映画が意図していなかった音楽的体験
最後に映画や音楽に紳士的じゃないかもしれないが、こういったジャンルのクロスオーバーが自身の記憶と大きく関わってくるときが、突如訪れることがある。それが、僕にとってオールタイムベスト映画の二本『続・夕陽のガンマン』と『エクソシスト3』。

『続・夕陽のガンマンの劇伴(2時間経過した頃かな?)で『The Ecstacy Of Gold』という曲がある。これは、メタルファンであれば誰でも一度は聴いた事があるだろう、METALLICAのLIVEの冒頭SEで流れる曲だ。僕はLIVE映像でこの曲を聴いたり、実際に来日したときLIVEへ参加し、生で聴いた事がある。観客が一斉に歌い出し、物凄い高揚感を味わえるのでとても印象に残る曲。恥ずかしながら、僕はMETALLICAから知った曲であり、『続・夕陽のガンマン』の曲だってのは知識として知っていたのだけど、そこまで気にしてなくどこかで忘れていたのだろう。そして、初めて『続・夕陽のガンマン』を見たときに、トンデモない衝撃を受けた。身体中に電流が走るという感覚だろうか。ここから、1時間METALLICAのLIVEが始まって欲しいと、映画に対して失礼な思いを抱いたもんだ。そりゃあ子供の頃から聴いていたメタルの伝統的SEがここで流れてしまえばノックダウンだろう…

それと、エクソシスト3』の悪魔の咆哮と、カナダのデスメタルバンドCryptopsyの名盤『None So Vile』1曲目『Crown of horns』とのクロスオーバー。詳しくは前の『エクソシスト3』の感想を参照して頂けると幸いです。

黒沢清も影響を受けた『エクソシスト3』を見た! - つぶやきの延長線上

こちらも結局は『続・夕陽のガンマン』と同じ現象です。身体中に電流が走って、そのままプッスンと黒焦げになった感覚。そして、このクロスオーバー感覚で重要なのが、映画自体もトンデモない傑作だし劇伴も素晴らしいってことでしょうね。映画が当初意図していなかった、ジャンルのクロスオーバー。音楽記憶のフラッシュバック。ただ、これは映画と音楽だけじゃなくて、普段映画を見ている中でもアニメのフラッシュバックだ!とか感じることがあります。だから、もっと様々なクロスオーバーがあっていいと思う。

映画の見方として正しいかどうかはわかりませんが、僕はこういったクロスオーバーやられると本当に弱い。しょっちゅうLIVEや映画行っていると、こんな生活していて良かったのかなと思うことがあるんだけど、LIVEへ行って、映画のDVDを買ってっていうことが、こういったエモーションに繋がるならどんどん続けていきたいなと思う。

*1:スタイルは様々だが、ポストロック、ブラックメタル、シューゲーザーのクロスオーバーが多い。