祝!出崎統『劇場版 エースをねらえ!』『劇場版 あしたのジョー2』のBlu-ray再発!-アニメと映画の関係について-

廃盤になってからAmazonマケプレやオークションでプレ値がついていた出崎統の『劇場版エースをねらえ!』(1979)と『劇場版 あしたのジョー2』(1981)が、Blu-rayで再発売されることが決定した。

出崎統監督の傑作劇場アニメ「エースをねらえ!」「あしたのジョー2」Blu-ray再発売決定 | アニメ!アニメ!

特に『エースをねらえ!』についてはレンタル店では殆ど置いていなく、VHSで限られた場所にひっそりと存在していた作品である。またセル版の『劇場版 エースをねらえ!』のBlu-rayにはDVDで収録されていた出崎統のオーディオコメンタリーが収録されていなかった。しかし、今回のBlu-rayはそちらも収録されているということでやっと完全版の『劇場版 エースをねらえ!』が発売されることになるのだ。

『劇場版 エースをねらえ!』は出崎全部盛りといった出崎演出の宝庫であり、アニメを映画にする方法が記録されている。かの押井守は、うる星やつら オンリー・ユー』(1983)でアニメを映画にすることができずに悩んでいた時、本作を見ることであの伝説的アニメ映画うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984を生み出したといった話がある。90分間、手に汗をかくような演出の乱れ打ちをこれを期にぜひ味わってもらいたい。

自己満足的な『エースをねらえ!』の話はここまでとして、「アニメを映画にする方法」とはなんぞや?ということを幾つかの作品とともに考えてみたい。

押井守が気づいた「間」について
アニメファンならずも映画好きでもファンが多い押井守。学生時代は年間1000本見るシネフィルだったとかそんな情報もありますが、やはり映画へのこだわりは強い。

WEBアニメスタイル_特別企画

「アニメで映画をつくること」旧WEBアニメスタイル押井守特集で書かれている。そこでは、いかに「間」(=時間)をつくること。例えば、とにかくカット割りが早くてインパクトなる画をガンガン見せていけば映画になるかというと違う。ここでいわれる「間」とは結果的に観客がそのアニメの世界に没入してしまう時間を指しているんじゃないだろうか。画面から伝わって来る雰囲気や音(音楽)をじっくり味あわせ、ありとあらゆることを思考させることで観客から時間を奪う。それがよくいわれる「ダレ場」の話。そして『エースをねらえ!』から着想を貰い『ビューティフル・ドリーマー』を完成させ、完全に自分のものにして生まれた傑作が機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993)だろう。

機動警察パトレイバー2 the Movie [Blu-ray]

機動警察パトレイバー2 the Movie [Blu-ray]

押井守の映画のなかで『パトレイバー2』が一番好きで見るたびに「すごい」といった感想は出るが、どこか掴みどころのないというか、この映画を完全に理解するに何十年かかるんだろう…と、同時に途方もない気持ちになる。これは「ダレ場」の効果が発揮されているからだろうし、生み出された「虚構」にまんまと足を突っ込んだ結果である。

まあ、ただ押井守のいう「映画」だけが映画なのか?と言われると、劇場公開してしまえば映画っちゃあ映画だし、そんなことはないといった意見もあるだろう。

ゼロ年代以降のサービスてんこ盛りの劇場版
藤津亮太の著書『チャンネルはいつもアニメ』「見せ尽くすことが招く〈映画〉の変質」の項では、魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』(2010)涼宮ハルヒの消失』(2010)を元に近年の劇場版の変容について触れている。それまでのアニメが目指した映画は、おそらく「映画的」であることが一種のキーワードになっていて、TVよりも短い尺の劇場版ではいかに使用するエピソードを絞って作っていたが、いまでは上映時間を延ばしてでも見せ場をとことん見せる手法にシフトしてきている。

涼宮ハルヒの消失 限定版 [Blu-ray]

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確かに『リリカルなのは1st』では「劇中劇」設定ともいわれることがあり、TV版に比べとにかくド派手になっている。特に、なのはとフェイトの戦闘シーン「スターライトブレイカー」のくだりはアニメ映画史に刻まれる傑作シーンだったと思う。そう思うとTV版より派手にすることで「映画」としての価値を新たに見出したのだろうなとも思うし、何よりTV版では冷たく突き放したフェイトとプレシアのラストシーン。劇場版では「救い」を感じさせるシーンに改変していて何よりもサプライズだったと思う。

◼TV版に逃げず「映画」を目指した作品

天空のエスカフローネ』(1996)は『エヴァ』以降の作品の中でもファンが多く、坂本真綾デビュー作としても有名な作品だ。しかし劇場版のエスカフローネ』(2000)であまりいい評判を聞かない。それはおそらく、ひとみの感情がやたら唐突なこと、キャラが劇画タッチになっていることが挙げられると思う。ただ全26話のTV版を単に編集したものではなく、まったく新しい作品として90分程度の時間で納めたのは評価せざるを得ない。それと、ひとみがガイアから地球に戻るラストシーン。微妙にTV版とも変わっていて、引っ張らずさっといなくなりながらも余韻を残していく最高のシーンだ。あのような雰囲気を作り出すのはなかなかできるものではないと感じる。今でもたまに見返している好きな作品だ。

◼「OVA?いえ、劇場版です。」
近年だと『コートギアス 亡国のアキト』(2012-2016)など続々作品が増えているが、1話=60分程度の作品を数章にわけて映画館で上映するといった作品が数多く見られる。この手の作品で僕が好きなのは劇場版 空の境界』(2007-2013)。もともと同人で書いていた奈須きのこ原作作品。伝奇小説から発せられる独特の”湿気”や、空虚感といったような作品のもつ雰囲気がめっぽう好きである。この辺りは京極夏彦の小説や昔よくV系を聞いていたので自分の趣味が露骨に出ているのだが、今作の中でも矛盾螺旋』(2008)は別格級に作品の出来がいい。『矛盾螺旋』は物語自体にギミックがあるので、『俯瞰風景』(2007)のように雰囲気で持って行くような作品ではなく、わかりやすい面白さがある。

見ていると世界は別に自分のためにあるわけではないんだという諦めと、それでも戦っていかねばならぬといった覚悟を背負った作品のように感じる。アクションをとっても、ラストシークエンスの式と荒耶の戦闘は本シリーズ内でも随一だろう。*1同シリーズであれば『痛覚残留』(2008)未来福音』(2013)も素晴らしい作品だ。

◼日本の初期アニメ映画
いまではオリジナル・アニメとして最初から「映画」に挑戦する作品よりも、TVシリーズから映画に進む経路のほうが多いだろう。ただ実際にはTVアニメがバンバン放送される前から映画としてアニメはあった。日本の劇場アニメ(長編漫画映画)としては白蛇伝』(1958)が最初と言われている。この辺りだと高畑勲の『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968)が有名だろうか。今回は『空飛ぶゆうれい船』(1969)に触れていきたいと思う。

空飛ぶゆうれい船 [DVD]

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『空飛ぶゆうれい船』は開始15分で主人公の家族が巨大ロボットに殺されるという不運に見舞われたり、悪のボスだと思っていたものが案外ただの使いぱしりだったりと、わずか60分間のランタイムの中で目まぐるしく物語が展開されていく。東映関連だとこの69年近辺では『長靴をはいた猫』(1969)『太陽の王子ホルスの大冒険』などが公開されていたが、その中でも社会風刺色が強い作品である。初めて鑑賞したときには低年齢層向けのアニメなのにここまでブラックなネタをぶちこむのか!と思ったものだが、実写でも本多猪四郎の『マタンゴ』(1963)とか相当ブラックな作品があった時代だしなと納得した。また海外アニメでも『やぶにらみの暴君』(1952)なんかは代表格だろうし、少なからず影響がなくはないのかなとも思う。また物語のラストでは『パシフィック・リム』に影響を与えただろうと思えるシーンがあり、この作品自身の影響力も強い。同じく池田宏が演出したどうぶつ宝島』(1971)も素晴らしい傑作である。

◼自覚的に映画を目指した傑作

近年の作品で映画ファンをも唸らせたたまこラブストーリー』(2014)。実際『たまこまーけっと』(2013)は見ていなかったけど『たまこラ』は見たひとたちや、『たまこラ』を見た後に『たまこま』を見たといったひともいた。高校生の甘酸っぱい青春ラブストーリーながら、「投げる」「落とす」「受ける」といった行為が大変効果的に扱われており、いわゆる運動論なんかで映画を見ているひとたちにも好評だった。またロングショットや望遠レンズを使ったショットも凝っており、近年の「劇場版アニメ」において最も自覚的に映画を目指した作品だったと言えるだろう。

自己満足で色々と書いてみたが、自分でも「映画」ってフォーマットに縛られて頭がコチコチになることがたまにあるので、ちょっと広い視野で俯瞰してみるとまた新たな発見があるかもしれませんね。とにかく祝!『エースをねらえ!』再発おめでとう!

チャンネルはいつもアニメ―ゼロ年代アニメ時評

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勝つために戦え!〈監督篇〉

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*1:『痛覚残留』の浅上藤乃 戦も素晴らしい