新千歳空港国際アニメーション映画祭2017

ユーリーノルシュテインの研究をされている土居伸彰さんがディレクターを務める新千歳空港国際アニメーション映画祭2017(11/2〜11/5)に遊びにいってきた。1日目は仕事だったので2日目から参加。以下に見たプログラムと大まかな感想。(見た順番通り)


印象深かったのは『Silence』でしょうか。ダンスすること(音を出すこと?娯楽すること?)が規制された国で、それでもダンスすることを求めるキャラクターが夜な夜な踊ったり。長編にも出来そうな題材だと感じた。アニメーション・ドキュメンタリー(例えば『戦場のワルツ』)枠でしょうかね。それと『Airport』もよかった。

  • サリーを救え!

フィリピンのアニメーション作品。主に背景美術がアニメーションでキャラクターが実写ベースに制作されている。イメージだと『コングレス未来学会議』のように明確にアニメートされた世界と実写世界が分かているのかなと思っていたのだけど、思った以上に分け隔てなく両者が入り交じった作品だった。バランス感覚がいいのか、ストレスなくナチュラルに融合されている。というのも物語基盤がしっかりしていたとうことが大きいだろうか。主人公は、漫画家を目指す高校生で地元の本屋に自主制作漫画を下している。ヒロインのサリーは、血のつながりのない両親のもとでほぼ監禁ともいえる状況で発明家として日々何かの発明に明け暮れている。主人公は虚構を生み出したい欲求。サリーはその両親から逃げたい欲求というものがあり、共に虚構を欲求している。そういった物語が求める欲求と、実写―アニメーションを使用する手法が上手くマッチしていると印象を受けた。確かに実写―アニメーションというレイヤーの隙間のようなものはあるかもしれないが、限りなくゼロに近づけた印象だ。

今回の目玉の一つは湯浅監督だったと思うんだけど、『マインド・ゲーム』爆音上映とても素晴らしかった。あれだけの音がくっきりと前面に出てくるとそれだけ映像との調和が生まれてスクリーンへの没入感が生まれる。

フィルムロイ『Endgame』とデヴィッド・オライリー『Everything』が特によかった。特に後者は今年のベストクラス。もとはEverythingのゲームトレイラーということですが、それすら映画になりうるという可能性を示している。『プリーズ・セイ・サムシング』と彼の美学論から一貫しているなーと感じた。それとハーツフェルトのビル3部作にもいえるけどナレーションモノに弱いんですよね。淡々とした語りが泣けてくる。

爆音『ルーのうた』満員で入れない人がいたほど。事前に指定席を購入していて正解でした。さすがにラストめちゃんこエモい。これが公開ぶりの2回目ですが、当初思っていた印象とガラッと変わった。初見時はアニメーションの運動というものを起点にスクリーンのオン/オフで起こることを考えてみていたのだけど、今回はより散文的にというか、シーンごとにぶった切ってみることに。そう見ていくと、例えばオライリーとは対極で作品に一貫性がないように思えた。起こることが突拍子もなかったり、キャラクターの行動規律がバグって見えたり、ある種ドラッグムービーなのかな?と。まったく論理的ではないけど、ラストのエモさで振り切って見せるのはすごいよねって。こういう映画祭で見るのも短編アニメーションと比較して見れたり、いい刺激がある。

次は『デビルマン』のトレーラーとトークショー。湯浅監督、チェウニョンさん、牛尾さんをゲストに。皆さんがしきりにいっていたのが、思っている以上に「エロ、グロ」といったこと。確かに『デビルマン』の原作はエログロ要素が強い。映画とかアニメになっちゃうとこのあたりの要素は制限されがちであるが、ネトフリさんはこのあたりが寛大なので「やっちゃってください」でGOサインだしたとのこと。どんな表現になっているかかなり楽しみ。また、牛尾さんがいらっしゃっていたので、劇伴を数曲聞かしてテーマを語ってくれることに。ふつうこの手のアニメだと劇伴が20〜30曲らしいですが、デビルマンでは40〜50曲(だったはず)とのこと。ギリギリまで曲を作ったり、制作現場はすごく楽しそうだった。数曲聞きましたが、かっこよかった。サントラ出たら買うと思う。前日に『聲の形』のサイレントver(牛尾さん生演奏)があったらしく、行った人に聞いたらすごかったらしい。来春ネトフリ配信予定ですが、もう少し早くお届け出来るかも〜的な風に聞こえたので楽しみ。

こちらも本映画祭の目玉だったんではないだろうか。『話の話』はスクリーンで見ること自体が初めてだったこともあり、今回の映画祭すべての上映でも飛びぬけて感動した。

  • リュウ・ジアン監督インタビュー

土井さんとひらのりょうさんを迎えて中国のアニメーション監督リュウ・ジアンへのインタビュー。これまでに2本長編を発表し、本映画祭でも公開されいた。タイミングが合わず見れなかったのだが、トークの前にトレーラーを見せてもらったらフィルムノワール調であり、中国なのにアメリカ映画を観ているような感覚があり、興味深かった。監督は元々画家らしく、その他にも小説書いたり、音楽も漫画も好きっていう。だけど、アニメーションは元々そこまで興味がなかったようで業界的なことはあまり知らないが、日本だと宮崎駿押井守は知っているとのこと。実写にも影響を受けていて特に北野武が好きらしい。

いろんな国々の活動を見ていると、お国事情が少なからず聞こえてきて面白いですね。日本はマーケットが出来上がっているけど、逆にそこが弊害になっている部分がある。特に短編アニメーション作家なんかは感ずるところなんだろうけど。そういった意味で、商業や映画祭から離れたところで動画配信が一般的になっているので、上手く活用して這い上がっていかなければならないだろうな。何もかもやりつくされた時代だからこそ別モノも生まれる可能性が出てくるわけだし。(例えばオライリーだって)

  • 黒坂圭太「ゆらめくかたち」

氏の作品はDIRのMVくらいしか見たことなかったのだけど、上映されたドローイング3作はとてもパンクな作品だった。いちばんわかりやすい作品だった意味で『陽気な風景たち』を見ていて思ったのが、表現において可能性は無数にあるなってこと。自分の中で記憶/体験した風景が、ドローイングによって浮かび上がる。例えば、自分がモヤモヤしたことやメモ的な意味でブログを書くことと本質的な意味では違いはないのでは?と感じた。氏は3.11以降、書くべき主題が見つからず、衝動のまま鉛筆で殴り書きしていた時にこの手法を見出したらしいのだけど、描いた「行為」が作品そのものになってしまう。正直作品として面白いとかは思わなかったんだけど、こんな思想・表現もあるんだなっていい刺激を受けた。大体の表現者ってのは同じことをしているんだと思うんだけど、そのアウトプット方法がみなそれぞれ違うだけなんだろうなと。氏はそれを原形のまま(ある意味わかりやすく)提示してみせたのではないか。また、今回上映された3作は音響がなければまったく成立しないものだろう。映像/音楽を限りなくゼロ距離まで近づける試みだ。完全に同じものを再現することが不可能な音楽ライヴを想定したほうがいいかもしれない。映画なりアニメというものはスクリーンやモニタといったものを通して間接的にアーティストの表現を受け取るわけで、音楽ライヴではアーティストから発せられたものを直接的に(楽器やスピーカーを通しているが)受取る。そんな行為と似たようなものではないかな?と色々と考えることができてよかった。

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