モーレツ!原恵一映画祭で『エスパー魔美 星空のダンシングドール』を再見した。

葛飾北斎の娘・お栄を主人公とした『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』では空から龍が襲ってる、といった描写がある。当時の絵師というものがどのような性質をもっていたのかわからないが、『百日紅』を見ていて、趣味の飽くなき探求。夢を見る/見せる存在だなと考えていた。

名古屋シネマスコーレにて行われたモーレツ!原恵一映画祭でうん年ぶりに再見(スクリーン初)。思えば、原恵一の映画監督デビュー作エスパー魔美 星空のダンシングドール』も、『百日紅』と同じく夢追い人の物語だった。

『星空のダンシングドール』は40分という短い上映時間ながら、人形劇団が子供に人形劇を見せて母親の死を受け入れる前半と、その子供に人形劇を見せた人形劇団が夢を追うことの辛さや、外圧に屈し夢を諦めていくという後半にわかれる。これが宮崎駿であれば、けろりと『風立ちぬ』のようにエンターテイメントに落とし込むのだろうか。ただそこは原恵一であり、彼の繊細な演出に注目していきたい。

前半で扱われた人形劇のなかで有名な童話『赤ずきん』があった。母親を亡くした少女は人形を母親の代替として家に引きこもってしまう。その大切な人形を捨てられてしまって少女は手がつけられなくなる。人形劇だから”人形”をアイテムとして扱っているのみならず、「赤ずきん」を人形劇で公演すると、少女の人形を見つけられずに落ち込んでいる魔美に赤いフードを被せ赤ずきんに見立ててみたり、落ち込んだ少女を人形劇で救うなど決して過剰ではない繊細な演出が冴え渡る。
夢破れて列車で四国に帰ってしまう別れがくる後半では、足の動きなどで感情を表現してみせたり、夢なんて…と思いながらも「人形が…」という言葉には反応してしまったりと、日本人ならではの奥床しい繊細な演出で列車を見送る。この辺りは原恵一木下恵介小津安二郎などの映画が好きな趣向が出ているのかもしれない。

また意図しているかしていないかは別として、夢破れ四国に帰る際に岡山−香川をつなぐ宇高連絡船に乗っている描写がある。映画祭上映後のトークタイムで聞いた話によると、なんでもこの映画の公開前にはすでに廃止が決まっていたようで、夢追い人、人の夢を乗せてきた連絡船と大変リアリティのある意味合いをもたせたのかな?と面白い裏話(根拠ないけど)だと思えた。原恵一の繊細な演出はもちろんのことだけど、アニメ的な魅力もこの映画は素晴らしい。特に冒頭の試着室を捉えるカメラワーク、まさにアニメだからできるカメラワークといったもので、俯瞰で捉えた試着室をぐ〜〜と試着室に入っていき旋回して魔美を捉える。クライマックスの人形劇のシークエンスはエモーショナルな作画的魅力に溢れ、ふとした街の風景(背景美術)は見るものをうっとりさせる。

あと、あくまでも「夢」が主題として扱われているので、人形劇団の男の女が明らかな恋愛関係に発展しそうな雰囲気を持っていても、極め付けの再会シーンで男は彼女を抱き寄せない!たんなる”メロドラマ”にはしないぞ(なっているけど)と、意気込みを感じる演出のように思えた。

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本来トークショー原恵一が出てくる予定だったのですが、何やら体調不良で出席できずとのことでした。まあなかなかスクリーン(フィルム)で見れない作品を見れたので良かったのですけどね。『星空のダンシングドール』自体が現在ではエスパー魔美本編のアニバーサリーDVD BOXに入っているのみの販売ですし、ビデオの方はなかなか入手しづらい現状ですからね。

◼同時上映作品
・第54話「たんぽぽのコーヒー」
・第96話「俺たちTONBI」

こちらもかなり久々に見た。「たんぽぽのコーヒー」は劇伴がやかましくてあんまり好みではない(劇場だと余計にね)のだけど、「俺たちTONBI」は前半の繊細なリアリティのある演出から、ラストシーンのアニメならではの嘘八百な展開が最高に気持ちがいい。最初の飛ぶは”目的”で、最後の飛ぶは”手段”だから悪くないんだよねあれは。楽しい上映会でした。