天ノ川きららと演出の”遊び心”/『Go!プリンセスプリキュア』第43話「一番星のきらら!夢きらめくステージへ!」感想

38話、39話ではるか、40話でトワが…とプリキュアたちの深掘りを行うなか贅沢にも42話、43話と2週も割いてきららを深掘りするとは…恐れ入りました。プリキュアのなかでも黄色ってあざといポジションってのもあるんだろうけど、きらら主演回は遊び心を感じる演出が多い。

◼天の川きららの人物像
きららは自分の夢に忠実で努力家であり、既にモデルの仕事をしていて他のプリキュアよりも一歩先に進んでいる感がある。しかも、大事なコレクション前でも新人のりんりんを任されたりしている。彼女の夢に対するモチベーションというのは中学生というか、飛び級して大学生くらいの高さじゃないだろうか、ただそんな彼女もまだ中学生なのである。

彼女は自分の夢を捨ててまで後輩の夢を自分の手で守ろうとゼツボーグと戦うが、プリキュア−モデルに揺れ動くと、中途半端が嫌いな彼女はモデルを辞めるという。これは彼女のモチベーションの高さや真面目さが裏目に出ていて、救われたりんりんにしてみれば、憧れていた先輩が自分のせいでモデルを辞めなければならなくなったと落ち込むしかないだろう。きららは真面目で考え方は大人っぽいキャラだけれども、”完全には周りが見えていない”「まだ中学生だったんだ」と改めて実感するエピソードだ。

◼演出の遊び心について
42話、43話はシリーズ終盤に感じるキャラクターの成長(時間の経過)について語られる。17話できららとステラのエピソードがあったが、きららがそれまで憧れる側だったのに対して、42話では憧れられる側の人になっている。このエピソードは彼女の核心を突いた重要な回だけど、二つのエピソードあるいは2つのカットが表裏一体になっているような演出が多く、”遊び心”も忘れない素晴らしい回だった。

42話の最初のきららが空をドーナッツ越しに覗くカットとりんりんが焼いてきたドーナッツを食べるカット。似たような2つのカットを別のシーンで繋げる遊び心。(後に書くがドーナッツ越しに見るのは夢の象徴になっている)こういったカットが他のシーンでも応用される。

例えば、42話のファーストカットを見ると、ドーナッツ越しに”青空と飛行機”が見える。そして次に42話終盤のりんりんを救ったカットに注目すると、ここでも”青空と飛行機”といったカットに繋がる。彼女がドーナッツ越しに捉えていた夢の象徴としての飛行機(意識していないとしても無意識に”見ている”)が、終盤では夢が逃げていってしまう象徴として飛行機を描く。また、ファーストカットでは青空だったが、42話のラストカットではきららが夜空を眺めるカットで締めくくっている。これは彼女が遠退いてしまった夢を見ている。38話ではるかが夢を失ったときのような、目に見えた絶望とは違うが幼い頃から夢見てきた、努力してきた人が、諦めきれない夢を思う儚さを感じるいいカットだと感じる。

《遊び心が溢れるカット》

一瞬42話を見ているのか?と錯覚するが、実はドーナツを食べるきららたちを2週連続でアバンで描いている。やりたい放題な”遊び心”を感じる演出かもしれないが、他のプリキュアが次のカットで戸惑っているように、遊び心だけでなく悲壮感が生まれる。主題と演出の遊びがいい塩梅になっているのだ。また42話の個別のきららの物語が、暗転でカットが変わる演出がされていたことに注目したい。

暗転は演劇でよく使用される手法で暗くなっているうちにシーンを変えることだが、暗転は「状況が悪いほうへ変化する」といった意味合いもある。ここで「時間の経過」の問題があげられる。30分アニメにおいて時間を表現するには、かなり気を使っていないとできない芸当だと思うが、暗転を使うことで人はシーンの連なりを意識する。「状況が悪いほうへ変化する」といった意味合いでも、実際にきららは夢を諦めてしまうなど暗転の特性をうまく利用した演出だ。

《時間といえば出崎演出》
故・出崎統といえばハーモニー・繰り返しショット・画面分割・入射光といったような極めて特徴的な演出が見られる。出崎演出そのものに目がいきがちだが、そのような演出はキャラの体感している時間を視聴者側にも感じさせる意図及び効果があると思う。『Go!プリ』でもハーモニーやらが多用される。存分に出崎オマージュなるものが光った12話。

12話ではアイドル志望の一条らんこがきららと張り合ってマーブルドーナッツの紹介番組でゆるキャラデザイン、リポート、マラソンで白熱バトルする物語。ここでもはるかのリボンの遊び心が多数見られるのだけど、思わず面白くて爆笑してしまうのが、らんこが最後のマラソンのゴール手前で転んでもなおゴールを目指すシークエンス。ふらふら歩くところに入射光は『AIR』っぽさがあるし、最後のバタンキューは『あしたのジョー』かのようにハーモニーでキメる。途中の応援シーンではみなみまでギャグに使う荒技(笑)。一見ギャグ回にしか見えないが、カットバックやハーモニーを効果的に使用することで、まるで視聴者がその場にいるかのような臨場感を与えてくれるのだ。

◼最後に
まだまだ書き足りないことは沢山あるけれど長くなるので最後に、43話は「きららは春になったら学園を去ってパリに行ってしまう」と、ちょっぴりビターな幕引きとなっている。「グランプリンセスになってパリへ行く」といった意味合いと、プリキュアは4クールものなので視聴者にとってみれば「プリンセスプリキュアが終わってしまう」といった番組の終了(時間の意識)の2つの意味合いをはらんでおり、最後まで視聴者に何かを残してくれる素晴らしいエンディングだと思った。やっぱりきららは「きらきら輝くいちばん星!天ノ川きらら!」ひたすら空を(夢を)感じさせてくれるいいかキャラクターだ。

どうでもいいけど、思い浮かべるんだよねこのシーン(笑)