最終話を見る前に!『SHIROBAKO』平岡の変化について

先日、23話の感想をアップしましたが、劇中劇演出とは関係がないので書かなかったことがあります。実際、それは自然に見えるんですけど、そのキャラの最初を思い出すと「おっ?このキャラにこんなこと語らせるか。」とキャラの変化に気付きます。個人的にちょっと気になったので、明日の夜、最終話が放送されますが、その前に番外編としてまとめようと思いアップしました。その変化とは、ずばり、平岡でした。

「俺、この原作大好きで、関わるの楽しみだったんだけど・・・」

これは平岡が、以前アニメ化された野亀先生の作品に関わっていた時のエピソードを語るシーンです。平岡は5年のキャリアがあるので、なんとなく話の流れ的には普通に感じます。ただ、改めて14話に初めて平岡が登場した時のことを思い出すと、嫌な奴だし、こんなことを言うようになるとは思えません。それが、23話で自然だったのです。それは、14話〜22話までで平岡を意図的に変化させたいと思っていなければ出来ないことだと思います。それでは、少し過去を振り返ってみましょう。

これは初登場の14話「仁義なきオーディション会議!」ですね。この時、急にみゃーもりの前の席に座りますが、彼から挨拶は全くなしにもかかわらず、「この椅子安いやつだな」と愚痴をこぼしています。その後、紹介されますが、彼はみゃーもりと視線を合わせません。みゃーもりからすれば「なんだこいつは?」と初デスクにもかかわらず、変な奴が入ってきたな〜と思ったはず。そして自己紹介は淡々と、「長所は顔の広さ、短所は強引なところ」と自分から挨拶しないのに「顔の広さ」なんて言っていますからろくなやつじゃない(みゃーもり目線)。しかも、「えくそだすっ」をディスられたわけですから、激おこって感じですね。

そして、16話「ちゃぶだい返し」では、「融通きかねえな新人デスクは、原画を進めておいて、後から作監作業で直せばいいだろう」「教科書通りじゃ現場は乗り切れないだろ」とみゃーもりに対して上から目線で言います。しかも、ここでも彼はみゃーもりと視線を合わせようとしません。

17話「私どこにいるんでしょうか…」では、急に浮上したPV制作について、「ダミー!ダミー!PVなんて余計な作業なんだから、適当で〜」なんて言ってしまいます。正論から言えば、お客様に対しての初映像化にあたるわけで、ここで手を抜いていると期待値も下がってしまいます。まあ、5年制作進行やっていれば、なんとなくやれば誤魔化せるよっていう逃げ道(16話でみゃーもりが新人にいきなり覚えさせたくないと言っています)を知っていると思うので、本編に負荷をかけたくないと思えば、まあわからなくないかなと思いますね。もちろん、このアニメの目的がどこに向いているかと言えば、アニメを夢として語っていますので、それはNGな訳です。

そんな平岡のモチベーションは、18話「俺をはめやがったな!」でもわかるように、デスクに行き先を言わなかったり、「帳尻合えばいいだろ」と吐くようにわかってしまいます。「帳尻合えばいい」というのは、結果論があっての言葉だと思うので、結果も出ていない時点での「帳尻合えばいい」はやっぱりダメですよね。

モチベーションの低さがうかがえる平岡でしたが、19話「釣れますか?」で矢野さんが復帰してきたときに、ちょっと様子が変わります。その後、同じ専門学校出身だったということはわかりますが、ちょっとプライベート的でも何かあったんじゃないの感が漂う演出。23話を振り返ると、19話が平岡の変化のキーだったと感じます。

20話「がんばりマスタング!」いわゆるりーちゃん回でしたが、ここで平岡が初めて情っぽくなるんですね。脚本家からチャンスを与えられているりーちゃんに対して「素人がこの仕事なめてんじゃねえぞ」と言います。これまで彼には全くチャンスがなく、自分の夢も社会によって潰された人なので、気持ちはわからないでもないですが、彼の年齢的に大学生にいう言葉ではないし、やっぱりカッコ悪いですよね。ただ、初めて彼が抱えている問題についてわかった言葉だと思います。

それから、あの大げんか。社長に図星だったんだよね。と言われて、ビクッと反応しているあたりから、本当にやりたいことがあるのに、それに対してまっすぐ向き合えていないことがわかります。でも、仕事って自分が思っているより、動けないことって多々あります。それは上司を使ってうまく解決できればいいいのですが、それさえも出来ない時がある。それに本当にやりたいことがあっても一度夢を潰されれば、立ち上がるまでには相当大変だと思う。結局クリアするのは自分ですが、全てがうまく行くとは限りませんからね。

21話「クオリティを人質にすんな」で初めて彼はみゃーもりに感情をぶつけてしまいます。瀬川さんから来たクレームによるものですが、彼の抱えている闇が明るみ出てくるシーンでした。専門同期の磯川は自分で会社まで作っている。それなのに自分は…という思いはどこかにあるでしょう。だから、彼が訪問してきてもいい顔はしません。磯川はそんな平岡は「怒りだけなら、とうに辞めてる。どこかで思っていることがある」とみゃーもりに言います。矢野さんも彼をここで外したら、終わっちゃうかもしれないと語るように、同期は思うことがありますが、直接平岡に言いません。それは人から言われるのではなく、平岡は自分でなんとかする必要があると感じているからじゃないでしょうか。だって、SHIROBAKOの舞台は「仕事」だから。サポートはあっても気付くのは自分。それが社会人だと思います。

それに彼の部屋のシーン。「世界アート「アニメーション」」の本を読んでいます。少なからず、彼はまだアニメに夢を持っている。矢野さんには夢を見てるやつなんて嫌いだと言っていましたが、あれは自分への裏返しの言葉だったのでしょう。猫(ケメコ)と接する彼は優しいので、根はいい奴の筈なんですよね。

22話「ノアは下着です。」ここでタローと飲みに行きます。みゃーもりは、ここまでの効果を生むと思っていなかったかもしれませんが、タローのアホさが平岡に感情を吐かせます。特に「プロデューサーになりなさい」とタローに言われた平岡はピクッとしました。おそらく、彼がやりたかったことの一つ。そして、酔っ払いながら「アニメで初めてカンヌである視点部門の作品賞と、国際批評家連盟賞を取りたかった」と語ります。タローのアホさ天然さが、功を奏しており、彼にタローを絡ませたみゃーもりの采配というか、水島監督はここまで考えていたのか〜と考えるとすごいなと思います。多分、平岡は気を使わずに、ストレートに物事を言ってくれるタローが可愛く見えるんでしょうね。さすがに、30歳近い(大学、専門での5年目なら29歳?)年齢になると、他人も気を使うだろうし、本人に対してストレートに物事を言いません。だからこそのタローなんですね。久乃木さんが彼に話しても伝わらない。それは絵麻ちゃんと対になっているから。タローは他の人から適当に扱われるけど、平岡と対になれる。

2クールでは『三女』をキーとした心象風景・心情描写などの演出が冴え渡りますが、19話・23話でみゃーもりが夢を見て泣くように、この作品は「夢」テーマとされています。それは、今自分がいる場所が不安でも、目の前の好きなことをやっていただけと語る大倉さんのように、実は、今いる場所と夢の舞台が大きく違わないこと。そう言ったことをSHIROBAKOでは語っていると思っています。だからこそ、夢を失った平岡にどう夢を見させるのか?ということは、主人公たち(高校時代の5人)語り以外にも、非常に重要なポイントだと感じます。それに、僕はなかなか平岡という男が嫌いになれないんですよね。割と仕事という面で、難しさはわかるし、(それでもダメだけど)夢を失っても業界に居続けてしまうっていうところの歯がゆさとか。抜けるに抜けれらないんですよ。やっぱり好きだからってところがなんとなくわかる。さて、最終話でどうなるか!楽しみですね。

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