まさにトンデモな映画!マルコ・ベロッキオ『ポケットの中の握り拳』

土曜日はスラッシュドミネイションにてソドムを堪能し、「Agent Orange!!」という感じで名古屋へ日帰り。やっぱり大好きなバンドを見れるのは楽しいし「ああ生きてて良かったんじゃああ〜」な気分で帰宅すると、それにマシマシで最高な映画『ポケットの中の握り拳』が届いていたので再見することに。

『ポケットの中の握り拳』はマルコ・ベロッキオの処女作であり、家族、宗教、階級など既成概念の否定する強烈なパワーを堪能できる映画だ。物語はイタリアの田舎に住む病んだブルジョア一家を舞台とし、無職の弟(ルー・カステル)が、盲目の母親や結婚して家を出たがっている兄貴、そんな兄貴に好意を抱いている妹、そして、癇癪持ちの弟と病んだ家族に嫌気がさし、母親や弟を殺してしまう狂った映画。

ブルジョア一家が壊れていく様を描いているので一見破壊的な物語か?と考えるが、少し違うような気がする。破壊されるというか、終息すると書いたほうがニュアンスが近いか。例えば、木の上から人が飛び降りたり、母親を突き落とす、母親の家具を二階から捨てる、その家具を燃やす、弟を溺死させる、妹が階段から落ちる、音楽が止まる叫びも止まる…。と挙げたように、今まであった既成の運動エネルギーをゼロにしていくように感じられた。

劇場パンフ*1で、青山真治が『勝手にしやがれ』に少し触れているけど、確かに『勝手にしやがれ』の若さがあるし、同時期にデビューしているイタリア監督ベルトルッチの『殺し』や『分身』あたりのイカれた若さの雰囲気もなくもない。それにも増して音楽はエンニオ・モリコーネが担当していたり、意外と豪華だ。

それと田舎のブルジョア一家を舞台としているが、こう言った家族関係のトラブルは日本に置き換えたって起こる可能性があるのではないだろうか。癇癪持ちだってどこにでもあり得るし、それがなくたって家族を介護しながら仕事をしている人は沢山いるし、無職で鬱憤のたまっている若者だって日本には沢山いるだろいう。介護に疲れた家族が、親を殺してしまったという事件はニュースで聞くし、そういった意味では65年の映画でも古いテーマではない。生きているといつかぶつかるだろう。普遍的なテーマだからこそ、破天荒で不安定な映画だけれど「怖い」映画であったのだ。

処女作にしては単なる破壊衝動だけではなく、既存のフォーマットをゼロにする。”恐れる若者”のポケットに隠された握り拳が映画に暴力を、そして観客に右ストレートをぶっ放すトンデモな映画。紀伊国屋DVDなのでレンタルなしだけど、面白いので購入せよっ!と煽って終わります。

*1:初回版DVDに付属されています