川、川、川と言えば…『共喰い』※ネタバレあり

[あらすじ]
昭和63年。高校生の遠馬(菅田将暉)は、父(光石研)と父の愛人・琴子(篠原友希子)と暮らしている。実の母・仁子(田中裕子)は家を出て、近くで魚屋を営んでいた。遠馬は父の暴力的な性交をしばしば目撃。自分が父の息子であり、血が流れていることに恐怖感を抱いていた。そんなある日、遠馬は幼なじみの千種(木下美咲)とのセックスで、バイオレンスな行為に及ぼうとしてしまい……。(yahoo映画より)

[感想]
青山真治、これぞ傑作!」と、映画館の一番後ろの席で身体を前に乗り出しながら見入ってしまった。まず『共喰い』と何とも気持ち悪いタイトルである。こちらは田中慎弥氏の原作通りになっており、僕は原作未読だったし、たいして原作読もうと思わない人なのだが、是非読んでみようと思ったくらい傑作だった。
傑作!と言ってばかりでもつまらないので、先に進むとすると、『共喰い』というタイトル通り生理的に気持ち悪く、何も知らずふらっと映画館に迷い込んでしまったカップルだったら途中で席を外すだろうと思うくらい全編すさまじい緊張感に溢れた映画だ。

注目すべきところは川の存在だろう。川の流れ、水の流れが、映画そのものの主題にもなっていて、1シーン目から特徴的な川のシーンだし、ラストにしたって1シーン目と同様に川のシーンで終わる。川の流れと同様に、父+母→遠馬なのだけど、実はもう一人息子か娘が居たはずなんだけど中絶していたり、遠馬は風呂場で自慰行為をして精子を下水へ流す、親父の愛人に子どもが出来れば、恋人にも自分の種をぶちはなしたい…物語そのものが、すべて一本の川に流れていくようにストーリーが進んでいく。(中絶も堕ろす・流すにかけているのだろう)
原作読んでいなかった身としては、「共喰いとはなんぞ?」という気持ちで観ていたんですけど、そんな共喰い要素がチラホラ見受けられ、息子が川で釣ったウナギを親父が食べたシーンで「ああ!これが共喰い!まさしく共喰い!だよ!」って、ものすごく気持ち悪いシーンだったんですけど、はしゃいでしまった。そして、川の流れ、血の流れは止められずと言ったものか、息子がとうとう殴ることに快楽を覚え、最後には親父の愛人ともセックスしたりもうはちゃめちゃっぷり。もう冗談みたいな話が続いていくんですが、青山真治の演出力で最後まで緊張感を持ちながら観れました。特に、母親が包丁?をもって親父を殺しにいくシーンのホラー度が半端じゃないし、長回しで親父が商店街で愛人をひたすら探すシーンとか凄く良かった。

最後の親父と母親の対峙の緊張感もすばらしい!殺されて川に入っていくのは、青山さんなりのユーモアな気がしてちょっと笑えたんだけど良かった。これだけ緊張感を持てたのは演出・音楽・演技もあるけど、やっぱり川の存在。川、川、川付近での殺しって言えば、『ミスティック・リバー』あの対峙とかモロな気がしますし、作品自体は好きじゃないけど『ヒミズ』の長回し殺しも良かった。また僕がああ!と思ったのが、黒沢清『叫』あっちはホラーで、忘れられた都市の記憶だったりしたけど、『共喰い』で雨漏りのための桶がウナギでピシャッってなったシーンは、『叫』地震で揺れる桶だったり、桶のなかに吸い込まれる感じだったり、意識的にも無意識的にも影響が感じられました。

青山真治は『エリ、エリ〜』が好きなんですけど、これも凄まじい傑作でしたね。面白かった。