ゲートを抜けるとジャングルクルーズ『モンスターズ/地球外生命体』

ハリウッド版「ゴジラ」が公開直前ということで、ギャレス・エドワーズ監督の『モンスターズ/地球外生命体』を再見したところ、やっぱり傑作だった。

公開時からラストのあれはどうなんだ?という意見も飛び交っていたけど、モンスターが出るパニック映画として鑑賞すると拍子抜けしてしまうのも無理がないとは思う。メキシコの一部が危険地域として隔離され、モンスターがはびこっているというと、『第9地区』を思い浮かべるし、「低予算」と「モンスター」というキーワードから『クローバーフィールド』のような映画を期待するのも無理はない。ただ、この映画はストーリーの牽引の為に、モンスターを使っているだけで、作品の中では執拗に「家族」の話をしている。

第9地区 [Blu-ray]

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メキシコに撮影に来ているカメラマンは、上司の命令で社長令嬢をアメリカまで送れと指示される。社長からは、「娘をよろしく」的な会話をされるし、車で移動する途中、彼女が「こわくないの?」と問うと、運転手は「逃げられない、仕事も家族もここだ」と話す。カメラマンの男は、自分の子供との絆を深めたいが、子供には既に父親がいて、自分が父だとも言えず、離ればなれになっている。社長令嬢の女は、フィアンセがいるが、躊躇することなく結婚指輪を帰国の資金に充てがい、他の言動からもフィアンセへの気持ちが薄れているように感じられる。また、途中で合流する家族が殺されたり、モンスターもまるで「鮭」のように自分が生まれた場所へ戻り卵を産んでいくという一生を背負っている。


そして、極めつけのラストが物語っているように、家族の「破壊と再生」を語り尽くした映画なのではないかと感じた。だからタイトルも「モンスター」と単体ではなく、「モンスターズ」と複数形が使われている。まあ「家族」というキーワードを除外したとしても、主人公たちが「外から見たアメリカ」と言っているように、アメリカを客観的に見て云々語っている映画でもある。結局、政府は巨大な壁を作っても、突破され壁の中にもモンスターがうようよ蔓延ってしまっている。あの「パシリム」だって巨大な壁を作っていたが、政府の考えは無惨にも打ち砕かれていましたね。


また、面白いのは危険地区のゲートをくぐった後、ジャングルクルーズのような体験を与えてくれたこと。川を進むボートや、廃墟、ボートの残骸など緊張感溢れるシーンを非常にゆったりと見せる。そして、最初のモンスターとの遭遇では、向こうから攻撃を仕掛けてくることなく無事に逃げるなど、このゆったりとした緊張感は、ジャングルクルーズジョーズUSJ)のようなアトラクション的快楽と同じように感じる。この緊張感は、低予算の代名詞「POV」式の撮影方法では、恐らく出せなかった要素だと思った。「POV」いいところは、突如、思いもしなかったことが、カメラに映るという緊張感であり、ましてやモンスター映画であれば『クローバーフィールド』のような傑作があるので、同じ方法じゃ駄目だと思ったのだろう。


監督は「ゴジラ」について、初めは爬虫類などの造形をモデルにしていたけど、途中から「ゴジラ」そのものに感情移入出来るようにしたとインタビューで語っていたので、やはりこの映画で使った手法を活かし、素晴らしい「ゴジラ」を見せてくれると思う。夏の超期待作「ゴジラ」前にいかがでしょうかね。傑作です。

モンスターズ / 地球外生命体 [DVD]

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