出不精の親父がアウトドアしたがるワケ 『マップ・トゥ・ザ・スターズ』

昨今は、いつでもどこでも仕事ができる環境にある。重いTUMIの鞄にレッツノートを常備させ、電車に乗っている間はメール。電車から降りれば電話の対応と忙しい…。そして、最近はスマートフォンの普及によりiPhoneiPadで仕事関係のメールを見ている人も目立つ。便利になればなるほど、スピードが増し一人のこなす仕事量が増えるってのは皮肉なもんだ。確かに便利な世の中だが、情報に支配されているのではないか?と疑問に思う。そこで、近年では「情報(束縛)」からの「解放(自由)」なのか、電波のない山に登ったり、キャンプなどのアウトドア流行っている。*1

デヴィッド・クローネンバーグ監督の『マップ・トゥ・ザ・スターズ』は、まさに「解放」についての物語だ。

映画好きからカルト的人気があるように、彼はこれまで映画という媒体を通じて色々なものを”見せてきた”。『スキャナーズ』や『ヴィデオドローム』などで、グチャグチャヌルヌルを”見せる”。また、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』では得意のグチャヌルを抑え、映画の源流に戻りアクションを”見せた”。『コズモポリス』では、左右対称・非対称の対がなされる物語を視覚的に”見せる”。『ザ・フライ』では人が変身することを”見せ”、『イグジステンズ』ではバーチャルリアリティの世界をイメージして”見せた”。

執拗に何かを見せ続けたクローネンバーグは『マップ・トゥ・ザ・スターズ』でハリウッドスターたちのゴシップを”見せる”。

火傷、肉体、ゴシック、P・T・アンダーソン*2、犬、拳銃、薬物、幽霊、トラウマ、セラピスト、ダミアン、親子、子役、運転手、脚本家、レズ、姉弟

情報過多に陥ると逆に何を見ているのかわからなってくるのはよくあることで、ネットで幾ら情報を得ても、実際には広い海のコップ一杯程度しか見えていないかもしれない。ハリウッドスターのゴシップ物語を見にきた筈だったが、それ以上の無数の情報に翻弄され、次第に論理的な世界にズブズブと踏みこんでいく。

その情報の断面から、”セラピー”・”薬物療法”・”断薬”という「治療」のキーワードが見えてくる。これは『スキャナーズ』や『シーバース』のような「感染」するお話ではない。では、上記の通り「治療」だろうか?いや、それも違う。ミア・ワシコウスカが○を○○た後「自由」と言うように、「治療」という束縛から「解放」される物語なのである。

シーバース』(感染)したら病院で『危険なメソッド』(治療)する。次に続く言葉は…『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(退院)。つまり、束縛からの「解放」の物語。

彼のフィルモグラフィーを圧縮させたような、そんな映画に感じた。この映画見たら、家族とキャンプでも行ったらいい。たまには解放しましょう。

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*1:ファッション業界にもアウトドアは手を広げていて、今では登山ブランドではなくてもマウンテンパーカーをリリースしたり、「GO OUT」などアウトドアファッションに特化した雑誌もある。

*2:「PTアンダーソンではない」劇中の台詞