『悪魔の起源–ジン–』のオチがアレな理由

映画は「映像を見せる」媒体であり、アクションが第一前提としてある。勿論ストーリー、役者、演技、演出、脚本、構図、照明、隠喩…と映画の見方はいくらでもあるし、基本的にはどんな見方をしても、一人の感想であれば「好き/嫌い」「面白い/面白くない」は人それぞれだ。また、「終わりよければ全て良し」という言葉があるように、映画に期待されることとして「オチ」の存在がある。例えば、「オチが完璧な映画10」今では映画が簡単にまとめられ、簡単に消費される。「オチ」が全てだと言わんばかりのように。確かに、ミステリ系の物語はどうしてもオチが必要であるし、それが見事であれば観客動員を見込め、顧客満足度を上げることが出来る。ただ、同時にオチが納得いかないものであると、『シックスセンス』で世界的メジャー監督にのし上がったシャマランのように、あの映画以降、けちょんけちょんにけなされてしまう映画監督もいる。(僕は大好きだけど)まあ、彼なりのオチではなく物語への追求が『レディ・イン・ザ・ウォーター』で、オチを求める者に抗ってみせた。それが失敗かどうか別として、やっぱり映画は最後の「結果」が全てではなく、そこまでに至る「行為」だって大切だと。今回見た『悪魔の起源−ジン−』もそのような映画に感じる。

※ネタバレしています。

悪魔のいけにえ』や『スペース・バンパイア』(ちなみに僕は『スペース・インベーダー』と『ファンハウス』が好き)を撮ったホラー映画の巨匠トビー・フーパーの新作である。あらすじをざっくり話してしまうと、子供を亡くした夫婦が再スタートを切る為に、実家のアラブへ帰郷するというお話。そこであるマンションから出られなくなりアレやコレやの事件に巻き込まれるのだけど、プロットとしては新鮮味が無い。ある場所に閉じ込められ、不思議な体験をするってのも、昔から使われているネタだし、街から出られない、濃い霧で前が見えないなど『ミスト』や『サイレント・ヒル』をイメージする。”家族を殺した人がやってくる”や、Jホラーのように急に人が後ろに立っていたり、窓から人が見える、鳥が何十羽もぶつかって死ぬなど、既視感を感じる演出だらけである。また、悪魔の子供が生まれるってのは『ローズマリーの赤ちゃん』だし、舞台もマンションだったし、妻がノイローゼになるというところも意識していると感じる。

それにクライマックスをアッサリと撮ってしまっているので、正直言って盛り上がらない。逆に言えば、もっと早く結果に到達出来そうなのに、なかなか進まないので、85分という短いランタイムでも長く感じてしまった人がいるのではないだろうか?もう少しさくっと撮れるし、全然大したことのない映画じゃんと言えばアッサリと切り捨てられる。

「だったらこの映画って何なの?」という疑問が残る。

僕が考える答えとして、冒頭書いたように「結果」を求める人たちに対して、映画は「行為」であると表明した映画なのではいか?

と、言うのも、「ジン」に襲われる話(イメージ)であったり、妻を説得する会話だったり、冒頭から「こういう物語なんだよ」ってことを丁寧に説明している。1年間ふさぎ込んでしまっている妻は、「前に進めといったり、戻れと言ったり、一体なんなの?」と苛立つ。ここで夫は「前に進む為には、戻ることも必要なんだよ」と説得しているように、結果を得るにはまず「行動(行為)が必要だよ」と映画のテーマについて話しているのである。この映画の結果を見た観客は、「オチは読めていた」と言うが、そもそもこの映画は、隠すところか「オチ(結果)」を初めから隠そうともしていない。逆に丁寧に説明することで、映画は結果ではないと表明している。

この映画の軸となる「ジン」の話は、ジンに襲われた男の話(映像)として、そのイメージ内で更に「ジン」の言い伝えをイメージしてみせる。そして、本編でも伝説として言い伝えられている「ジン」をなぞることで3層の物語となっている。そして、夫の起源を妻の起源を巡る話に見せている点を含め、シンプルに見えて意外と複雑な構造になっている。物語を反復させることで「物語」を強い印象にする効果を担っている。

正直言って強引に進めれば、この映画のラストの結果までイッキに撮れてしまいそうだ。だけど、そこは映画なので「行為」を撮る必要があった。そこで既視感溢れる映像を撮り結果ばかりを求める人たちへ、ホラーの記憶をフラッシュバックさせ、もう一度映画とは何か?と問いただした。

そして、ラストはアッサリと突き放すように「ほら、こうでしょ」と言わんばかりの悪魔のクローズアップ。まるで「結果」待ちの人をあざ笑ったかのように、軽やかに撮ってみせる。まあ、この映画を撮った経緯は知らないが、アラブ資本で「綺麗な姉ちゃん痛めつけて、ぶっ殺す映画を作っちゃおう」と、さくっと撮ってしまった映画じゃなかろうか。

ホラーとしては十二分に仕上がっているし、あそまでアッサリと突き放したクライマックスを撮れるのは、なかなかいないでしょう。傑作とは言わないけど面白かったですよ。