突き刺さる視線(眼力) – 吉田大八『紙の月』を見た。

今年の邦画で突出している(個人的には『パズル』推しですが)って話題の宮沢りえ主演の『紙の月』を見てきました。監督は『桐島、部活やめるってよ』で一躍メジャーな監督になった吉田大八。

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ネタバレ感想は山ほどありますので、僕の気になった眼力についてのお話です。(若干ネタバレ含みます)


例えば、最初に宮沢りえのカット。

このシーンは後の不倫相手・池松君が後ろから着いてきているのではないかと、不安と希望が入り交じりながら振り返ったシーン。この時の宮沢りえは地味な格好をしているけど、彼女のエロチックな雰囲気が出ていることがわかる。僕は原作未読なのでよくわかりませんが、夫との間に子供がいないことが彼女の欲求に繋がっているんじゃないか?未知な世界への憧れ的なものがわかるカットだったと思います。


それと、平林役の池松が宮沢りえが気になって着いてきてしまったときの池松君の眼力。

少しオドオドしながら、大人の女性に憧れていることがよくわかるシーンです。ちょっとバックパックの紐に手をかけていることからも何やら緊張している・取り繕うとしているようなカットだとわかります。二つのカットに言えるのは、やっぱり、未知な世界への憧れ的なものでしょうかね。


それで僕が鑑賞中に一番「あっ」っと思い、印象的だったシーンがあるのですが、流石に公開中の映画ということで画像が存在していないので写真不在です。ごめんなさい。

それが、宮沢りえと池松君が夜、街を歩いているシーン。
ここでゼミ?クラブ?(定かではない)をサボった池松君が、宮沢りえと一緒に歩いているとそのサボったグループ(ゼミかクラブ)の女子二人にバッタリと遭遇してしまいます。ここで宮沢りえが誰なのか?という(「お姉さんですか?」という質問だったかな)話になり、その時の片方の女子(藤本泉)の眼力がものすごかった。台詞を曖昧にしか覚えていないのですが、「すごく綺麗ですね。」のような台詞だったはず。

この時の彼女の眼が”宣戦布告”しているんですよ。
完全に敵対心を持っている。
そんな強い眼。

この子はラスト付近で、もう1カットしか登場していないので、大島優子小林聡美と比べて印象が残りづらいかと思いますが、僕はこの映画のどんなシーンよりも凄いシーンだと感じた。僕は原作未読なのでより一層強く感じるのかもしれませんが、あのカットは幾つもの想像が膨らむカットです。

というのが、例えば、元々、彼女(藤本泉)と池松君がもしかしたらカップルだったのかもしれない。それで、最近連絡してもなかなか会ってくれない池松君とバッタリ遭遇してしまった(しかも、年上の女性と一緒にいる)。そうしたら、あの眼は説明がつくかと思います。
また、他のパターンとして、”彼女が池松君を狙っていた”ということも考えられる。だから、本当はお姉さんと言われていても、見え透いた嘘に感じますし、ライバル意識で”宣戦布告”の眼をしていた。

ただ、彼女の出るもう一つのカットでの表情を察するに、前者はあまり当てにならないかもしれない。というのが、彼女と池松君の関係がバレたシーンでは「あっ!ヤバい!来ちゃったよ!」って感じの表情をしていたので、どちらかというとNTR路線で考えた方が正解な気がする。

と言ったようなカットから、多分、正解はこっちなんだろうけど、たった2シーンの登場で僕をかき乱す強烈な印象を残した藤本泉さんには賛美を送りたいですね。ちなみに、今度『アオハライド』の劇場版にも出るらしい。

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後、宮沢りえと池松君関係性で面白いのが、最初から破綻することを二人は予見していたと思われること。なかなか、言い切るのが難しいのですが、あの彼女とのばったりシーンで宮沢りえは「あの子たち可愛いね。本当に…」と自分の年齢や不倫という状況から、近い未来破綻が来る。相手は彼女たちかもしれないし、そうでないかもしれない。だが、誰か若い子に池松君をとられてしまう…といったような含みがある演出・演技に見えました。

実際に、池松君は別れの際に「いつまで続くのか不安だった…」のような台詞もありましたし、いつか来る終わりに対しての映画だったのかな〜と思うと考え深いです。ただ、そういった映画だとしたら、ラストで宮沢りえが逃げたことや過去のシーンに繋がらないので、ちょっと違うよな〜と頭をかしげたところなのですが…

まあ、とにかく良い役者さん揃っていますので、好き嫌いは別として見ても損はない映画かと思います。おわり

紙の月 (ハルキ文庫)

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