日本も格差社会と言うけれど…『罪の手ざわり』※ネタバレあり

土日の名古屋は35℃まで気温が上昇したらしく、夏そのものだったようですが、僕はちょうど実家に帰省していたので逃れました。と、言っても東京もクソ暑かったんですけどね…。まあ、そんなクソ暑い日でも映画館に行ってしまい、ジャ・ジャンクーの新作『罪の手ざわり』を見てきました。(名古屋だとシネマテークで公開ですね)

本作は、中国で起きた4つの事件を題材としており、タイトル通り罪の「手ざわり」がする映画だった。世界的なものかもしれないですけど、特に中国では貧困層と富裕層の格差が広がっているらしく、今回の作品ではその中でも貧困層側から見た中国の近況を描いています。

複数の事件を扱っていますが、群像劇のようなものではなく、あくまでも個々の事件が独立して進行します。だから、話が絡み合うということはありません。ただ、正確に言うと、同じ場所・時間に主人公が存在したり、冒頭のカットあたりのある事象が、ある事件に地味にひょっこり登場したりってのはあります。

そんな別々の事件を取り扱っているが、共通点・映画のキーなるものが、冒頭で語られています。冒頭、一台のトラックが横転して荷物のリンゴが道路に転がっているシーンから始まります。リンゴというのはご存知の通り「禁断の果実」として知られており、「善悪」だとか「知恵」だとか言われているかと思います。この映画では冒頭シーンにそういったカットをもってくることで、これから始まるお話はリンゴ掴む事が出来なかった世界の話ですよ〜とアナウンスしている。特に、最初の事件の主人公に関しては、そのリンゴを食べようとした瞬間、後ろの山で爆発が起き食べ損ねるというカットでオープニングが終わります。

この「リンゴを食べ損ねる」という行為が、最初の事件において非常に重要な意味を持っています。彼は、村と実業家の共有物であった炭坑での利益をまるまる実業家にもっていかれていることに憤怒し猟銃を取り出し、実業家・グルになっている村長等を殺してしまいます。まさに、富(リンゴ)を掴み損ねた男の末路を描いている。

また、他の事件で出てくる夜のマッサージ屋の受付として働く女は「不倫」の罪を背負っています。彼女は冒頭に、家に帰る彼氏を見送りにいきますが、彼氏が手持ち検査で果物ナイフを取り上げられてしまいます。ここでも「リンゴ」の皮を剥くなどとキーワードがでたり、彼女が道を歩いていると蛇が横切ったり、メタ演出が随所にされています。

細かくなると、長くなるので後の二人は省略しますが、特に好きだったシーンという事でいくつか。

カメラワークの話で、最初のリンゴを掴み損ねた男の事件が特に顕著に見られましたが、Aという人物からBに話しかけたときに、カメラがまずAを向き話しかける。そして、カメラが動き話しかけられたBの反応を捉えるというカメラワークを多用していました。それによって、猟銃をぶっ放す瞬間は、対象のBの反応で明らかになるという演出が成立していました。

またジャ・ジャンクーの映画を全て見ているわけではないので、ハッキリと言えませんが、今作はカット割りが多かったように感じられました。特に、猟銃での殺しのシーンで、印象的に残るようなカット割りをされており、受付に座っている人を殺す時は、(1)銃を撃つ (2)銃弾が相手を貫通し壁にぶつかる (3)人が倒れる という3カットで撮っていたり、車中で殺すシーンでは、急に車中から車の外からのシーンに切り替え (1)窓が割れる (2)地面に血が飛び散る (3)ロングショットで車を真横から捉える (4)車中の犯人を捉える のようなカット割りをしていました。

随所にロングショット、長回しというのは使いますが、こういったカット割りでテンポを変えることで印象的に殺しを演出しているように感じました。また、殺しはワンモーションに抑え、犯人は殺すだけの行為をするという渇いた殺しが多く、必要以上にカメラを動かさないことで、シーンの迫力よりも映画としての立体感というのでしょうか。上手く言い表せないですが、映画的なものを感じれました。


全体的に概ね満足という感じです。まあ、少し長かったかな(129分)という印象はありましたが。6月は待望のウェス・アンダーソンの新作もありますが、時間があれば是非見てもらいたい映画でしたね。

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