諏訪敦彦『ライオンは今夜死ぬ』

記念すべきファーストショット思わず、「眩しい!」と言いたくなるような太陽光が顔に反射するショット。気がつけばその老いた俳優(ジャン=ピエール・レオ)もまた眩しそうな顔をしている。ボソボソと独り言を話していると思いながら、映画を見ているとそれは映画の撮影現場であることがわかり、まさに映画を撮っている瞬間なのだと認識する。女優が部屋にこもったまま出てこないとなり、急遽予定が空いたジャンはバカンスに出かける。

映画とシンクロするシーンから始まる映画は、やがてジャンに奇妙な体験をさせることになる。知った街である女性に会いにいったジャンはその女性に「私に会いにきたのではないのね」と諭され、ある古びた屋敷に入っていく。そしてある部屋にいくと廃墟のような屋敷なのに綺麗に清掃され、ベッドまで完備されている。彼を待ち続けただろう写真に映る娘は、彼に鏡の前に立つこと命令し、合わせ鏡になった部屋を横切ると、ふらっとまるで部屋の隅に隠れていたかのように写真の娘が姿を表す。

「訪問」の映画だ。ジャンがベッドで横になっていると、何やら外から騒がしい子供の声が聞こえてきて、ドアをバタッと開く。思い出の場所で静寂な時間を堪能していたジャンは両手を挙げ「わーっ!!」とバケモノのように振舞ってみせる。ジャンがどこへいっても俳優のように演じて見えるのは、映画が複製であり、そこに映るものは幽霊のようなものだからだろう。幽霊のように振舞ってみたジャンは、撮影機材を持った子供たちに後をつけられ、元恋人の墓を訪れる瞬間をビデオカメラにおさえられてしまう。

その後、子供たちは何度も屋敷を訪れ、ノックを繰り返し、彼に屋敷での撮影と映画の出演依頼をする。バカンスだったはずの休暇が、気づけば子供たちのホラー映画に出演することになってしまう。彼は映画から抜け出したところで、映画に組み込まれてしまう運命なのである。元恋人の幽霊に取り憑かれ、子供たちのホラー映画に出て、映画のなかでも幽霊と接触するジャン。映画を撮影するひとりの少年もまた父親の死に囚われ、母親の彼氏を認められないでいる。

最初の撮影風景や少年たちの映画、ジャンと少年の関係といい、メタ構造を持つ作品であったが、少年たちの人数の多さが原因か、そのつながりにおいては薄かったと言えよう。確かに幽霊がふらっと訪問するシーンや、いつの間にかに消えていくシーンは感動的なのだが、せっかくのメタ構造があまり活かされていなかった。また、子供たちの撮り方も少し物足りない。子供に着せるTシャツのセンスは抜群で、柔らかい画面に生えているのだが、ジャンがまずは「脚本だ」というように、少年たちが脚本という規定に縛られてしまっており、子供の魅力である無邪気な運動を阻害させてしまったのが勿体ないと感じた。とはいえ、湖での正面切り返しや、幽霊が消えると共に片ずけられる屋敷も映画の息吹を感じさせてくれた。

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2/デュオ [DVD]

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H STORY [DVD]

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不完全なふたり [DVD]

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ジュリア・デュクルノー『RAW〜少女のめざめ〜』

予見させるオープニングシークエンス。広々とした一直線の公道に走る車。そして、ロングショットでは顔がわからないひとりの人物。急に飛び出した人物に急ハンドルを切る車。切り返して車がぶつかるショット。そして、さらに切り返して元のショットに戻す。出のショットはよかったが、そこで切返さなくてもいいだろう…といったところで切り返してしまう。何かが始まる予見と共に、嫌な予見が同時に来る。

カニバリズムベジタリアン、上下関係、通過儀礼、抑圧からの解放…。カニバリズムは拾った指を深刻そうに食べるといった面白みもない映像に回収され、ベジタリアンはうさぎの肝臓を食べることを嫌がる少女と腫れ上がった少女の身体をカメラにおさめる。上下関係は『キャリー』かよっと血の雨を降らせる。全体的に映画というよりも、映像見せたがりの画面になってしまっているのが面白くない。2回目の事故シーンや、姉が押す車椅子など、せっかくいいシーンがあるのに途中途中混入される詩的だろと言わんばかりのショットやスローモーションにゲンナリ

痛い映像をとっていても、食べるシーンに面白みを感じない。ゾンビ映画のように美味しそうに衝動のまま人間を食べてみてはどうだろうか。いかにもマッチーが好きそうな映画だなと思えば、去年のベストに入れてんだな。

映画秘宝 2018年 03 月号 [雑誌]

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マーティン・マクドナー『スリー・ビルボード』

「娘はレイプされて焼き殺された」
「未だに犯人が捕まらない」
「どうして、ウィロビー署長?」

田舎町に突如出現した真っ赤な3枚の看板。被害者の母親、署長、警察官、3人の主要人物。そして、託された3通の手紙。3つの事柄が互いに絡み合い、さらにその3人にそれぞれ複数の人々が絡み合っている。映画の作りとしては丁寧というか、端正に撮られている。安定感のある作品だったと言えよう。ただ、どうもひとつひとつのシーンが弾けてこないのが勿体ない。

たとえば、先日ブログでも書いた『デトロイト』であれば、事件を描くためにその外周部*1も描いていた。 『スリー・ビルボード』における街は、シーン毎で役者が演技をしていくといった事柄しかなく、街そのものを描く気がさながらないのである。だから、あの看板のある場所や警察署や被害者の母親が働く店まで、一体この街のどこに何があるのか?といった構造がわからないのだ。それは、真相のわからない事件であるから…といったような言い訳は流石に立たないだろう。警察署へ火炎瓶を投げることは映画の魅惑的なシーンになりそうにもかかわらず、サム・ロックウェルに手紙を読ませるといったドラマに回収されてしまい、脚本からすり抜けた画面の魅力として現れていないのである。

確かに端正な画面作りとドラマを心がけているが、今一歩興奮に満たないといった感じだろうか。とはいえ、あの真っ赤な看板の表面よりも、暗闇に満たされた裏面を撮ったのは才能じゃないだろうか?と思えるので今後も新作を撮ったら見ようと思う。それと、サム・ロックウェルの演技は素晴らしかった。彼がいなければ今後も見ようだなんて思わなかったかもしれない。

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*1:事件がモーテル内部で起きたことから、モーテルの外で起きている事象まで捉えていた。事件を描くのであれば街を描くことも必要になると。

キャスリン・ビグロー『デトロイト』

1960年代デトロイトで起きた暴動。その最中で起きた事件を当時の証言をもとに映像化した作品。2時間を超える長尺な映画だったが、これが思いのほか面白かった。モーテルでの警察による胸糞な強制尋問のシーンも素晴らしいが、それよりも、冒頭から夜の撮影に惹かれた。特に警察がパーティー会場に乗り込んで、黒人を理不尽にひっ捕らえたところから暴動が始まるまでの緊張感。顔!顔!顔!この映画はあくまでも顔を執拗に捉える。まるでフレデリック・ワイズマンの映画に出てくるような黒人が、警察の理不尽さに暴動を起こし店のガラスを割り自転車を盗むシーン。思わずため息が漏れてしまうような魅惑的シーン。いつどこで暴動が起こっているのだろう?とドンパチ暴動が起きていて怒り狂う「顔」が浮かび上がってくる。重要な場所(事件)を描くに外界を十分に記録しているのがとても好感を持てた。

また、ドキュメンタリーたっちなルックにぐらつくカメラ。実際にあった事件を生々しく記録するこの手法は大正解だったといえる。顔から浮かび上がる疑心暗鬼。ボタンの掛け違いから始まる人殺しの連鎖。思えば、歌手の黒人と友達が白人の女をナンパして、女たちの友達の部屋で繰り広げられるお玩具の銃遊びも見逃せない。一芝居がまるで本当に撃ってしまうのでないか?というくらい冗談に見えない。それはラジオを消してレコードの音量上げてこれを聴けよ!といった部屋に入ってからの一連のやり取りも重要な効果をあげている。前作の『ゼロ・ダーク・サーティ』よりも好みだった。

湯浅政明『DEVILMAN crybaby』感想

昨年から期待を寄せていた『DEVILMAN crybaby』面白かった。新千歳空港国際アニメーション映画祭のときに湯浅監督他がめちゃくちゃエログロと言っていたので覚悟して見たが、そこまでエロくもグロくもなかった印象を持った。というのも、『マインドゲーム』や昨年の『夜は短かし歩けよ乙女』や『夜明け告げるルーのうた』と似たような湯浅政明らしいポップなデザインで描かれていたので、現象としてはエログロが繰り広げられていても視覚的には見やすい。とはいえ、8話から9話にかけての畳み掛けるような展開には絶望感を味わえたし、世界にひとり取り残される了にも気持ちが入ってしまった。

原作は1970年代の作品ともあり、キャラクターの極端な発言や暴力行為など、今見ると突飛に感じるが、それが現代的にブラッシュアップされていて、違和感なく見ることができた。中でもいちばんの変化は美樹だろう。永井豪の原作では、どこぞの不良よりも口の悪い小娘というように描かれていたが、本作では世間的にも有名なアスリート高校生。性格もこんな子本当に存在するのだろうか?と思うような「いい子」として描かれている。これが、9話のバラバラな身体に響いてくる。原作の美樹であれば正直なところいい印象を得られないので、バラバラにされても「死んじゃったんだね〜」くらいにしか思わなかったのだが、本作では最高潮の盛り上げを見せるようにキャラクター設計されているなと感じた。また、 SNSの扱い方はステロタイプではあるが、デマというかポスト・トゥルースに目配せを送り、そもそも人間とは?悪魔とは?といったアイデンティティの問題にスムーズに移行ができる素晴らしい脚本と演出。

また、虚構内虚構のようなものとして、本作で主人公のpc検索履歴でわかるが、今作ではデビルマンのアニメが放映されている世界だということだ。これはのちのポストトゥルース問題や人間/悪魔の存在とは何か?までスムーズに進めるための潤滑油のようなものだと思う。たとえば、明はデビルマンに変身する瞬間を雑誌社に撮影されてしまうが、持ち込んだ先にはテレビのやつだろうとあしらわれてしまう。(実際には彼もまた悪魔なのであるが)視聴者の前には人間/悪魔といったものが見えているが、フィクションから離れたとき、それを信じるか?と言われたら真に受ける人は少ないだろう。そういった真実/嘘といった問題を物語の前半に仕掛けることで、後半の展開について行きやすいといった効果もあるだろう。美樹が飛びっきりのいい子になっているもの、記者の胡散臭さがより際立ってわかりやすい印象を与えるのではないだろうか。

何より、バトンからラストの解釈が私的に好みであり、どこにも行く当てのない想いが残留していく展開には胸を打たれた。このデビルマンは了目線だったのだと。『まどマギ叛逆の物語』を思い出してしまって辛かったけどよかった。ただ、シレーヌ戦は夜という原作リスペクトだったのか、暗くて見づらかった。夜だから見づらい、他に理由があって見づらいってのは別にフィクションで必要ないと思う。でも、1話のデビルマンへの変身シーンは最高でしたね。

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2017年映画 裏ベスト10

年末年始に熱を出して三が日は寝込み、仕事が始まれば四方八方からの依頼に追われて年末に書いていた記事を今更ながら公開。ツイッターには書いていたけど、裏ならぬ旧作ベストです。順不同

座頭市喧嘩太鼓』三隅研次(1968)
『god sobaki』セミョーン・アラノヴィッチ(1994)
プリンス・オブ・シティシドニー・ルメット(1981)
『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』キン・フー(1967)
『魔王』ジョルジュ・シュヴィツゲベル(2015)
『絶頂姉妹 堕ちる』黒沢直輔(1982)
『ボクシング・ジム』フレデリック・ワイズマン(2010)
西部の人アンソニー・マン(1958)
『競輪上人行状記』西村昭五郎(1963)
『あした晴れるか』中平康(1960)

【特別枠】
『話の話』(爆音上映)ユーリー・ノルシュテイン(1979)※再見(スクリーン初見)

あなたが普段体験しない事柄について「懐かしい」と感じたとしよう。普段体験しないのでほとんどないこと。または初めての体験だ。それが「懐かしい」とはどういうことなのだろうか?私自身ついこの前もそのような体験をすることがあった。出張である田舎町でさびれた商店街を見たとき、胸が締め付けられるようなさびしさ、懐かしさ、といった気持が浮かび上がってきた。私は新潟に母方の実家があるのだが、幼少期から関東(そのほとんどが東京)で過ごしていたので、新潟の記憶はごく少ないもの。この正体は何なのだろうか?断片的な記憶が、体験したこともない、懐かしい記憶が走馬灯のようにやってくる。ノルシュテインの『話の話』はまさにそういった映画だ。オールタイムベストをスクリーンでしかも爆音で体験できてよかった。

座頭市物語』は見ていたのだけど、三隅のシリーズもの(『子連れ狼』や『眠狂四朗』)と比べて面白くなかった印象が強く、真面目に追ってなかったのだが、改めてシリーズ通してみてみると結構面白くてここまで見ていなかったことを後悔した。三隅だけに限ってみると本作と『地獄旅』がよかった。

セミョーン・アラノヴィッチ『god sobaki』は眼福映画といったものだろうか、とにかく全シーン素晴らしい。(語彙のなさ)歳の離れたカップルの逃避行もので、原子炉の被害によって封鎖された村で生活する物語。日常からときはなれた「ここではないどこか」へ連れて行ってくれるような映画だ。

『残酷ドラゴン』同じくキンフーの『侠女』後半のブリブリサイケデリックなシーンがこちらにもあったし、スクリーンで見たのでよりやかましく素晴らしかった。ちょっと西部劇感がある。

プリンス・オブ・シティ』これはすごかった。『インファナル・アフェア』やリメイク作『ディパーデット』の潜入捜査モノであるが、「暴力性」だけ取ってみればこちらに軍配が上がるだろう。ただ、暴力といっても実際のアクションとしての暴力はさほど多くはない。にも関わらず、フィジカルにビシビシと伝わってくる。人間が景色に惹かれるのは(圧倒されるのは)、景色の持つ暴力性と同じである、といったことと似ているような感覚だろうか。このあたりは煮詰めて考える必要がある。

西部の人』アンソニーマンは神の領域。『シャロン砦』も大好きだが、高さとシネスコの横演出を駆使した三つ巴の攻防戦にはびびった。

『競輪上人行状記』人生なんて救われない。人はどこまでいっても孤独である。物語の最後に救いはいらない。とにかく自分好みの作品。

『絶頂姉妹 堕ちる』80年代東京の雰囲気が伝わってくる映画。男女の交わりの変化についてみると面白い。黒沢監督だと『ズーム・イン 暴行団地』もかっこいい映画でよかった。当時の街の様子や風景が伝わってくる映画は好き。

『あした晴れるか』いまのところ中平ベスト!!スクリューボールコメディの傑作であり、なによりも芦川いづみのかわいさったらオールタイムベストだろう!!

※ボクシングジムと魔王は個別記事を書いているので割愛します。

最後に2017心霊ビデオでさようなら。

  1. ほんとにあった!呪いのビデオ71
  2. 闇動画17
  3. 呪家 ノロイ
  4. 闇旅3
  5. ほんとに映った!監死カメラ17
  6. 呪家 ノロイエ2
  7. 放送デキナイ死ノ動画9
  8. 心霊パンデミック フェイズ10
  9. 心霊パンデミック フェイズ7
  10. 封印映像28

2017年新作映画ベスト10

毎年同じようなこと書いていますが、あっという間に今年も終わってしまいます。見逃した映画が山ほどあるような気がしますが、恒例のベスト発表。2017年に見た新作映画縛り。一度渾身のベストを記事を作ったのですが、はてなのダメサーバーに弾かれたようですべて消去になってしまい、一からテキトーに作ったのでごめんなさい。

  1. A Ghost Story
  2. Everything
  3. ほんとにあった!呪いのビデオ71
  4. わたしたちの家
  5. 交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1
  6. 人生タクシー
  7. 女神の見えざる手
  8. 夏の娘たち〜ひめごと〜
  9. 浮き草たち
  10. 西遊記2〜妖怪の逆襲〜


ベストはギリギリまで悩んで僅差で『A Ghost story』を選出しました。この映画おもしろいのが、ケイシーアフレックが演じる幽霊の存在が、白いシーツをかぶっているだけなので実は誰でもいいのではないか?といった点です。というのも、この幽霊という概念は最初こそアイデンティティー的なものが感じられますが、長く生きていると(実際死んでいるのですが)記憶が薄れてくるということ。他の幽霊と区別がつきませんし、地縛霊のように家に住んでいますが、人間から霊という存在にどんどん移行してしまうんですね。しかしながら、冒頭のルーニーマーラの白い背中、白い紙に書かれたメモ、純真無垢な少女と、白いものにつながってしまうといった感動がある。後半はずっと泣きながら見ていました。来年はスクリーンで見ることができると思うので、それまた楽しみなのです。

新千歳空港アニメーションフェスティバルで鑑賞したデヴィッド・オライリー『Everything』には心底びっくりさせられました。ゲーム紹介というかプレイ画面がそのまま短編アニメーションになり得てしまうという可能性。単なるプレイ画面がアラン・ワッツの語りによって、映像に没入でき、愛おしい時間を演出してしまう。本ゲームはあらゆる視点を動物、素粒子、植物、銀河系に憑依することで体験できるといったもの。よく遠くから見ればなんでも綺麗に見えるといった言葉があると思いますが、ミクロレベルで世界を覗き込むことで綺麗に見えたものの中でいくつもの抗争が起きている。まるで調和していたようで実はまったくそんなことはない。といったことが目に見えてきます。また、優劣関係なくあらゆるものに憑依できることは、いわば世界は等価なんだといったことでもあると思う。すべての価値が同じ時間の中で存在している。さまざまな可能性を引き出す素晴らしいノンナラティブアニメーションです。来年1月にイメージフォーラムで公開されるようなのでぜひにといった感じ。

今年は好きだった心霊ビデオシリーズの『監死カメラ』が終わってしまったので残念だったのですが、本家の『ほんとにあった!呪いのビデオ71』がやってくれました!収録されているすべての作品が一定の水準で保たれている時点ですごいのですが、特に『かくれんぼ』はオールタイムベスト級でやばい。霊障の起こるタイミングと、霊障とカメラのパンによる運動の創出が今年のどの映画よりも瞬間的なポテンシャルの高さを持っている。思わず、ビクっと身体が反応してしまう一瞬の出来事。でも、この一瞬のために心霊ビデオを見ている節があるな〜と僕が心霊ビデオに求める要素がすべて詰まっていました。また、『闇動画17』に収録されている『魔窟2 分離』も同シリーズ8の『邪教』を感じさせる反復によるめっちゃ怖い怪作でした。来年もこの水準の心霊ビデオに出会いたいですね。

青山シアターのPFF特集で鑑賞したわたしたちの家はこれまでの個人的な映画の記憶がフラッシュバックしてくるような映画だった。切断/接続を必要とする映画において、本作は重要な作品になるだろう。来年劇場公開されるらしいし、卒制だからまた藝大DVDに収録されるかな。こちらも感動させられた映画でした。

清原惟『わたしたちの家』(2017)感想 - つぶやきの延長線上

今年も『ルーのうた』、『リリカルなのは』、『SING』、『傷物語』とアニメ映画は豊作だったと思います。そこにきてクリティカルにガッツにハマったのがエウレカセブンでした。編集とナレーションによって元あった素材がどのようにでも新たな可能性が生まれる。これほどまでに感動的なものはあるだろうか、もちろん物語的にもファン目線でいっても素晴らしいのですが、編集の可能性をまた感じられてよかったのです。いくつもの可能性といった視点であれば『打ち上げ花火』のアニメ化もよかったですね。

あの時のこと、あの子のこと、俺が見つけた大切なもの――『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』感想 - つぶやきの延長線上

パナヒによるタクシー珍道中…『人生タクシー』はつい見ながらプププと笑いがこぼれる楽しい映画でした。何が素晴らしいってタクシー内でばかばかしいやりとりをしておいて、ラストの長回しでバババッと鳥が横切るんですよね。映画的というと何が映画的なんだ?って話ですが、「なんかこれめっちゃ映画っぽい」って感じたんですよね。個人的な趣味の話を映画的なんていうのもアレなんですが、そこに映画を感じたんですね。理屈なしにね。

ジェシカチャスティンが好きなので見に行った節もあるのですが、まるでアーロン・ソーキンの脚本のような畳み掛ける会話リズムにやられた女神の見えざる手。観客をどこへ連れていってしまうのか?と思わせるような、アップダウンの激しい脚本に映像が見事に結びつき、爽快感あるラストまで見せられてしまう。最近何か面白い映画なかった?と聞かれたこの作品を真っ先にあげるでしょう。パンチ力のある映画でした。

夏の娘たち ひめごとは田舎の閉鎖的な〜物語が〜とかいくらでもいいようがあるのでしょうが、画面的にいえばとても気持ちよく見れました。堀監督は『弁当屋の人妻』(別名『SEX配達人 おんな届けます』)のカウンター越し切返しショットが愛おしく大好きなのですが、本作は彼のフィクション作品の中でもベストクラスじゃないだろうか。(残念ながら『天竜区』シリーズは見れていない)もっと新作を見ていたかった監督さんでしたが、それは叶わずでしたね。

今年はネトフリの大躍進でしたね。昨年フォロイーさんが褒めていて気になっていた『浮き草たち』をやってくれるなんて!ボーイミーツガール好きにはクリーンヒットですね。夜の遊園地シーンが目に焼き付いて離れません。他人の家に勝手に上がり込んで着せ替えをしたり、自転車を盗んで走り出したり、ずっとキュンキュンしてしまう。また、都会/郊外での編集リズムを変えているのも見ものでした。

少し遅れてきたボーイ・ミーツ・ガール――アダム・レオン『浮き草たち』感想 - つぶやきの延長線上

チャウシンチーによる1作目も傑作でしたが、ツイハークが監督することでツイハークワールドが展開された西遊記2』。ツイハークの映画はツイハークの世界での論理性といいますか、まったく現実世界では起きなさそうな現象が繰り広げられるのでデタラメに見えるのですが、これぞ映画の醍醐味ってな感じで。映画内で整合性が取れていますし、大小の演出など本当に巧いです。何よりもツイハークのアクションは楽しい。今年もツイハークの映画が見れてよかった。

終わって見れば今年もたくさん面白い映画に出会えたと思います。また来年もたくさん映画みたいなー。以下はオマケです。

  • 次点というか他の好きな映画(順不同)

ジェーン・ドウの解剖
魔法少女リリカルなのは Reflection
監死カメラ17
闇動画17
放送デキナイ死ノ動画9
WE ARE X
ローサは密告された
劇場版SAO
Endgame
夜明け告げるルーのうた
シング/SING
傷物語 冷血篇
マリアンヌ
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
皆さまごきげんよう
スパイダーマン:ホームカミング
ザ・ベビーシッター
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択
呪【ノロイエ】家
アイ・イン・ザ・スカイ
キングコング
イップ・マン継承
トリプルX再起動
ライフ・ゴーズ・オン
監死カメラ17
闇旅3
ザコンサルタント
ドッグ・イート・ドッグ
エンド・オブ・トンネル
ベイビー・ドライバー
息の跡
コクソン
バンコクナイツ
サリーを救え
南瓜とマヨネーズ

上段で触れたものもあるのでコメントは省略します。

  • 面白くなかった映画(順不同)

ネオンデーモン
ミューズ・アカデミー
ドクター・ストレンジ
グリーンルーム
スプリット
パーソナルショッパー
美しい星
リベンジリスト
密使と番人
ウィッチ
メアリと
KUBO/クボ 二本の弦の秘密


こちらは軽く触れます。『ネオンデーモン』レフンの映画にノレたことがないので今回もさっぱりでした。エルファニングはかわいいのだけど、ストレートにジャッロ映画をやればよかったのでは?感が。ドクター・ストレンジ回転を主軸に語られうる映画だと思ったが、どうもVFXと身体のシンクロやズレへの意識が不足しているように思えた。グリーンルーム見づらいアクションと初期衝動のなさに萎える(ヘッドショットは悪くなかった)。『スプリット』シャマランは基本的に好きなのだが、今回初めてノレなかった。ホラー演出(アクション:タイミング,緊張/弛緩)も空振り、物語も空振り、クロスオーバーも空振り。空振り三振。『パーソナルショッパー』アサイヤスが心霊ビデオのようなことをビシッとした画面でやってるって感じで興味が持てず。『美しい星』音楽はよかった。『リベンジリスト』エルム街の悪夢3』を期待したのだが…。『密使と番人』三宅唱の新作には本当に落胆させられた。教科書みたいな映画だった…。『ウィッチ』暗くて目が悪くなりそうだった。『メアリ』演出家としての実力のなさが表れてしまった。『KUBO』幾ら技術が高くても的確な演出やカメラワーク(ポジション)がなされて初めて面白くなるはず。ダイナミズムのなさが技術(ストップモーションアニメーションという手法とストップモーションアニメーションとCGの融合(ハイブリットアニメーション)を台無しにしてしまっている。

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