マーティン・マクドナー『スリー・ビルボード』
「娘はレイプされて焼き殺された」
「未だに犯人が捕まらない」
「どうして、ウィロビー署長?」
田舎町に突如出現した真っ赤な3枚の看板。被害者の母親、署長、警察官、3人の主要人物。そして、託された3通の手紙。3つの事柄が互いに絡み合い、さらにその3人にそれぞれ複数の人々が絡み合っている。映画の作りとしては丁寧というか、端正に撮られている。安定感のある作品だったと言えよう。ただ、どうもひとつひとつのシーンが弾けてこないのが勿体ない。
たとえば、先日ブログでも書いた『デトロイト』であれば、事件を描くためにその外周部*1も描いていた。 『スリー・ビルボード』における街は、シーン毎で役者が演技をしていくといった事柄しかなく、街そのものを描く気がさながらないのである。だから、あの看板のある場所や警察署や被害者の母親が働く店まで、一体この街のどこに何があるのか?といった構造がわからないのだ。それは、真相のわからない事件であるから…といったような言い訳は流石に立たないだろう。警察署へ火炎瓶を投げることは映画の魅惑的なシーンになりそうにもかかわらず、サム・ロックウェルに手紙を読ませるといったドラマに回収されてしまい、脚本からすり抜けた画面の魅力として現れていないのである。
確かに端正な画面作りとドラマを心がけているが、今一歩興奮に満たないといった感じだろうか。とはいえ、あの真っ赤な看板の表面よりも、暗闇に満たされた裏面を撮ったのは才能じゃないだろうか?と思えるので今後も新作を撮ったら見ようと思う。それと、サム・ロックウェルの演技は素晴らしかった。彼がいなければ今後も見ようだなんて思わなかったかもしれない。
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*1:事件がモーテル内部で起きたことから、モーテルの外で起きている事象まで捉えていた。事件を描くのであれば街を描くことも必要になると。