少し遅れてきたボーイ・ミーツ・ガール――アダム・レオン『浮き草たち』感想

今年はボーイ・ミーツ・ガールが調子がいい。時代や容姿を飛び越えて異形なモノとの出会いを描いた『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』はこれまでのティム・バートンの総決算的な映画で、優しさがあふれた愛おしい映画だった。昨年、東京国際映画祭で上映されたアダム・レオンの『浮き草たち』も爽やかなボーイ・ミーツ・ガールの物語である。知人からの評価が高く何としてでも見たいなと思っていたが、なんと劇場スルーとなり、Netflixで公開されていたので鑑賞。

ニューヨークでシェフをしながら実家で暮らす男(ダニー)が、兄貴に頼まれ怪しい運び屋の仕事をすることになる。緑色のブリーフケースを受け取って、ある女性(エリ―)とともに仕事をすることになるが、ブツの交換に失敗してしまう。そこから物語はブリーフケースを取り戻すといった展開を見せていくが、ブリーフケースは単なるマクガフィンであり、物語はミステリーにもサスペンスにもならない。鞄の中身なんてどうでもよく、カメラが撮りたいのは彼/彼女の少し遅れてきた青春の物語である。

アダム・レオンの処女作である『ギミー・ザ・ルート NYグラフィティ』(2012)はニューヨークでグラフィティアートをする男女を、ファムファタルを介することで物語を紆余曲折させた作品。決して悪い作品ではなかったが、少し物足りない映画だったのも事実だ。*1本作はそれの完成形といったところであろうか。まあ、ベタといったらベタになるのだろうが、偶然出会った彼/彼女らが互いにひかれあっていくさまがとてもグッとくる。例えばダニーがエリ―に高校時代の思い出を語るときに「レベッカ・バーカスに廊下でペニスを触ってもらったんだ」と、青臭いエピソードを顔を赤らめ誇らしげに語る彼の姿を見て、「それはよかったことなの?」「うん」といったやり取りをする2人の表情を見てなんとも愛おしいのだろうと。

ブリーフケースを探しているはずなのに、「私は着替え!あなたは食事!」と鞄を探さなければならないのに、本来の目的からそれた行動でテンションがあがってしまうという愛らしい姿を見ていると心が浄化されるようだ。マンブルコアならではのこういった緩い会話が好きな人にはたまらない作品になるだろう。*2魅力はそういった会話のみならず、ニューヨークとブラークリフといった「都市/郊外」の対比が考えられて撮影・編集されているところも見もの。都市であれば街のポップな色彩が素敵。郊外であれば木々の緑を基調としてプールの青であったり光が綺麗に撮られていたりする。それと劇伴のつけ方も都市が忙しなかったり、郊外ではカントリーミュージックが流れ落ち着いた印象を見せたりと。編集もパッパッパっとカットを積み重ねる都市部に比べ、郊外ではカット数を減らしのんびりした時間を感じさせる。

田舎の地元感あふれるバーや、夜のネオンが艶やかな移動式遊園地で過ごす様子は、少し遅れてきた青春時代のような夢心地の時間を感じさせる。特にプール小屋での「身体を温めるだけ。変なことをしたら後悔するわよ」のくだりといい、永遠に2人を見ていたくなる。そして、ラストの情動に突き動かされるダニーの激走からのキスは見ているこちらが恥ずかしくなってくるような純粋さがある。マクガフィンを転がすだけで、やっていることはラブストーリーなのになぜこんなにも面白いのだろうか。『ギミー・ザ・ルート』で感じた物足りなさを完全に克服し、これほど愛おしい作品に仕上げた才能に恐れをなす。今後もアダム・レオンの作品が楽しみになった。

台北の朝、僕は恋をする [DVD]

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*1:フェンス越しに腰を振る男が素晴らしかったのと、ラストの演出はとても上品で素敵だと思った。

*2:台北の朝、僕は恋をする』(2010)あたりの胸キュンが止まらない作品が好きな人は大好物じゃないだろうか。