おわかりいただけただろうか?『残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐』

怪談話や都市伝説の類は人から人へ口話といった手法で広まっていくか、あるいは現代的ではインターネットの掲示板やSNSなどで嘘か本当かもわからないような噂話が無限大に拡散していく。こういったものは嘘か本当か?の真相が大切なのではなく噂話に人の念などが宿っていき、話した本人や聞いた本人たちが本当のように感じることが大切なのだと思う。ウェス・アンダーソンが『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)で表現したのもそういった口話によって伝承されていく物語であった。ホラー映画であればそれが「人生にかかる怖さ」(『映画はおそろしい』著:黒沢清)といったものだろう。Jホラー全盛期の『女優霊』『リング』『呪怨』といった作品群はまさに身に降りかかってきそうな怖さだった。

さて『残穢』はホラー映画だったかというと題材そのものはホラー映画の類だが、内容そのものはミステリーだ。竹内結子は投稿者からの心霊体験談をもとに小説にする仕事をしている。彼女は橋本愛からの投稿が「どこか見たことがある」と思い、奇妙な体験談を橋本愛と一緒に解決しようとする。前段で書いたように怪談話は口話で伝わっていくが、彼女らの捜査方法は極めて理にかなっている。対象のマンションが建つ前の土地を調べようと近所の住民たちに聞き込みをしたり、古い地図を世代ごとにさかのぼりながら、「◯◯家」で起きた事件…といったように一件毎に遡っていく。そして、実はその”穢れ”の発生場所はぜんぜん違う場所だった…と知ることになる。

ラストシーンも登場人物たちが”穢れ”に触れてしまったことで新たに拡散していく様子がよく分かり、徹底的に論理的な作品だったことがわかるだろう。もちろん、ホラー映画ではなく真相を追究していくミステリー映画なので怖かったか?といえば、怖くはなかった。確かにどこに住んでいようが、”穢れ”に触れることで誰の身にも降りかかってくる可能性がある怖さではある。しかし理詰めでここまで見せられると「なんでもありじゃん」ってのが、どうしても拭いきれなかったからだ。『霊のうごめく家』のような短くても人をおそろしい闇へ突き落とす「人生にかかわる怖さ」や、ただ女が笑っているだけで怖い『女優霊』、本作同様に捕まったら逃れられない『呪怨』といったように過去トラウマになったTV・映画群のような怖さはこの作品には感じなかった。

もう少しデタラメを語ってくれたほうが面白く終わったのではないか、と思う。特に九州に飛んでからは物語は繋がるが、何か決定的に繋がりにかけたような気がしたのだが…。どうしてもギチギチの理詰めでは脳みそがフル回転してしまって謎解きをしてしまう。ただ、本物を使っていたと言われている写真は本当に薄気味悪かったので、そういった雰囲気は獲得できていたと思う。まさに「おわかりいただけただろうか?」な題材だったが、僕は惜しくもあまり楽しめなかった。まあ、最後まで理詰めで終わらしたのはミステリーの性質上よかったが。

残穢(ざんえ) (新潮文庫)

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週  刊  新  潮 2016年 2/4 号 [雑誌]

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