見える恐怖と見えない恐怖の克服方法『リアル〜完全なる首長竜の日〜』を観ました。※ネタバレあり

[あらすじ]
自殺未遂が原因で1年も眠り続ける幼なじみである恋人・淳美(綾瀬はるか)を救い出すため、浩市(佐藤健)は昏睡(こんすい)状態の患者と意思の疎通が可能となる先端医療・センシングを受けることに。センシングを繰り返し淳美の潜在意識に接触していくうちに、浩市は不思議な光景を見始めることになる。現実と仮想の境界が崩壊していく中、浩市は淳美と幼少時代を過ごした島へと足を運ぶ。(yahoo映画より)

[感想]
トウキョウソナタ』ぶりの黒沢清監督作品。原作は、乾緑郎の『完全なる首長竜の日』あまりミステリーは読まない(というかSF?)ほうなので本屋でタイトルくらいしか聞いたことがありませんでした。今作は、黒沢清監督作品の中でも、最大規模レベルで公開されているんじゃないでしょうか。主演は佐藤健綾瀬はるかということで客入り上々と思いきや、日曜の真っ昼間から後方がやや混んでいるだけで前はガラガラ…これは大コケの予感です。客層的にも何となく有名な小説の映画だしとか、佐藤健だしとか、とりあえず映画観に行こう!と思って来た方が多かったらしく、場内は困惑が生まれなかなかカオスな空間になっていました。

黒沢清映画としては、本当にわけわかんなかった『LOFT』やら、一歩間違えれば(間違えてる?)世にも〜レベルな『ドッペルゲンガー』(しかしながら、素晴らしい映画)、黒沢清がホラー映画作家として頭角を現した『CURE』なんかと比べても、すごく優しくて説明過多くらい丁寧な映画でした。

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この映画前半と後半がぱったり雰囲気が変わります。前半は、なんだか良くわからない”見えない恐怖”に牽引されていて、昏睡状態となった綾瀬はるかをセンシングを用い頭の中をのぞくという、『インセプション』風なストーリー。劇中では、綾瀬はるかの脳内ということから、銃が想像するだけで出てきたり、マンションの周りは変な霧で覆われ、死体がいきなり登場する。ところが実は、綾瀬はるかが昏睡状態ではなく、佐藤健が昏睡状態だったと言うことがわかり、がらっと死という”見える恐怖”(首長竜)へ対象が代わり、最後は佐藤健が目を覚まし綺麗な着地をする。

原作がどうなっているかよくわからないが、前半パートの綾瀬はるかに漫画を書かせないようにしようとする佐藤健の行動がどうも腑に落ちない。というのが、昏睡状態の理由が判明するまで、「仕事に終われ漫画ばかりだった自分から脱却し、綾瀬はるかともう少し話をしていれば良かった」という意味だと思っていました。しかしながら、「ペンダントを拾おうとして落ちてしまった」という、エピソードがあまりにも素っ気なさ過ぎて、あそこまで漫画を書かせないようにしていた理由が見つからない。恐らく、自分が”首長竜”を上手く描けないもどかしさが、あのシーンには描かれているのだろうが、少々関連性が弱い気がする。
その他のエピソードは、自分自身の恐怖である首長竜の克服するまでの巡礼であり、わりと悪くなかった。特に前半パートの不安を煽る音楽を用いたり、虚構だということを暗示させる為に、車のシーンではハメコミ映像と使うなど細かい演出が際立っていて良かった。

黒沢清監督としては風変わりなラストシーンの佐藤健が目を覚ますシーンも、黒沢清自身のホラー映画、恐怖との戦いが終わったということなんじゃないかと、勝手な予想をしてしまうくらい優しかった。『贖罪』も素晴らしかったが、今作ほど次作が気になる作品も珍しいなと良い体験した。天才なんだから早く海外でも行けばいいのにな。