黒沢清も影響を受けた『エクソシスト3』を見た!

映画をアレやコレや五月雨のように見続けていても、どこか抜けてしまう映画がある。例えば、ソフトを買ったのに、買ったことで満足してしまってレンタルしてきた映画を先に見る映画ファンは星の数ほどいる。逆に、少し頑張れば手に入るのに、傑作と謳われているのに、なかなか手が出ないソフトもある。後者が僕に取っての『エクソシスト3』だ。

本作は、あの有名な『エクソシスト』の続編である『エクソシスト2』の出来に納得いかない原作者のウィリアム・ピーター・ブラッティがこれが続編だ!と作ってしまった映画。まあ、強いて言うなら『エクソシスト2』もそんなに悪くはないんですけどね。そもそも『エクソシスト』もホラーというかパニック映画だったし、それが2でSF化しても悪くなかったし。しかしながら、黒沢清も映画評論で度々言葉にしてきた『エクソシスト3』 これはぶったまげる!大傑作だ!!

エクソシスト3』のストーリーはわかり易く言うと『羊たちの沈黙*1のようなサイコ・サスペンス的な雰囲気のする映画。90年アメリカでは、首を切断され、左中指を切り落とされ、右手に双子座のマークを掘られるという残虐な殺人事件が発生する。ようは、その殺人事件を警察が追うという映画。ただ、この映画は『ゾディアック』的なサイコキラーによる殺人事件を解き明かすのが主ではないし、「エクソシスト」なので宗教的な『セブン』なんかを想起するけど、正直、この映画を牽引する面白さはそこにはない。今作はズバリ「ホラー映画」なのだ。

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もちろん1、2もホラー枠でレンタル屋でホラー映画枠に置かれているし、広い定義ではホラー映画になるのだろうけど、3は本当に「恐怖」を追求しているホラー映画だと感じた。それくらいホラー演出が冴え渡っている。

例えば、何も起こっていない夜の街並を映しているだけでも、黒への拘りというか、不穏な空気を作る濡れた路面に街頭の光。何も起きていないのに怖い。教会のロングショットを挟んだり、やたら「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」と音を鳴らしてみたり、ロングショットからの長回しをベースとするが、時より複雑なカットを挟む。それだけで、何か妙なことが起きているなと感じさせる。特に、病院での気の狂ったようなロングショット長回しから、思わずゾワッと驚かせる演出なんて、「絶対に何か起きる!」という期待を100%裏切らなかった。アレは怖い。

また、この映画は黒沢清に影響を与えていて、特に『CURE』は、『エクソシスト3』の演出をギュウっと煮詰めてさらにその先というか、途方もない境地に踏み込んでいた。サイコキラーが殺人事件を起こすという大まかなストーリーや、水が大きな意味を持っていたり、精神監獄での役所広司萩原聖人の対峙シーンは、本作での警察と悪魔の対峙シーンだったり、とても影響を受けている。その他にも、長い廊下を使ったロングショットや、扉の向こう側に人を立たせ演技をさせたり、何かを越しにして撮る手法など…。確実に『エクソシスト3』が下敷きにあるなと感じられるシーンがたくさんある。

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それと、最後になるが僕が特に感銘したのは、この映画の影響はホラー映画だけにとどまることも知らず、90年代デスメタルの代表作の一角になるCryptopsyのNone so vileというアルバムの1曲目「Crown of Horns」という曲に、『エクソシスト3』の警察と悪魔との対峙シーン(59分43秒付近)での「悪魔の咆哮」のSEが曲の冒頭に使われているのだ。僕にとってこの体験は、『続・夕陽のガンマン』での「The Ecstacy of Gold」(メタリカの入場SEでよく使われる)と同じ効果を持っていて、映画が意図しなかったところでの記憶のフラッシュバック、それによって、あり得ない相乗効果(90年代デスメタルへの回帰)が最高の体験へ誘ってくれた。少し映画にとっては不誠実なのかもしれないが、僕が自分の奥底で映画に求める映画以外のカルチャーへの結び付きのようなモノがこの映画に詰まっていた。

だからあまりにも興奮してしまって、正直まともな見方が出来ていない可能性もありますが、何回も何回も繰り返し見て行きたいと思っている。ただ、シリーズ1作目を期待している人にとっては、少し肩すかしを喰らうかも(あまり直接描写がないことから)知れないが、黒沢清など純粋なる「恐怖」の追求。いや、映画とは何ぞや?とわからないなりに考えたときに、本物の「映画」がココにあるのではないか?と不確信ながら思うので、見て損はないと思う。(黒沢清『CURE』よりはわかり易いかと思います)以上

None So Vile

None So Vile

*1:エクソシスト3の方が1年公開が早い