ヌーヴェルヴァーグからホラーへ/黒沢清『地獄の警備員』を見た。

黒沢清が好き!」と言いつつ意外と見ていない映画もあるなーと『神田川淫乱戦争』を鑑賞。いかに黒沢清ヌーヴェルヴァーグ青年だったかと思わせる影響がたっぷり。でも個人的には、先日見た『地獄の警備員』が90年代の黒沢清にとってヌーヴェルヴァーグからホラーへの転換期を彩る重要な映画だったのでは?と感じた。

話としては凄く単純。ある会社の警備員が新入りの従業員と出会い、何故かビルの従業員を皆殺しにしていく。正直「こんなの誰でも思いつくわ」と言われかねない内容なのだけど、そこは黒沢清の手腕が光る。映画はシンプルで、大きくわけると、得体のしれない警備員の恐怖に重きを置くホラーテイストな前半と、警備員がビルを封鎖して従業員を皆殺しにするサイコホラーテイストな後半に別れる。

特に前半に置けるホラー演出が冴え渡っていて、物語の冒頭、主人公が会社に向かいタクシーに乗っていると「殺人犯である元相撲取りを独房に入れるか?」とカーラジオで流れてくる。古典的だけど、その後、元相撲取りの警備員が実際に登場すると得体の知れない恐怖を感じるのだ。警備員の顔が映し出されるまでは、全容を映さず階段と影の使い方で異性物のような印象を与える。なんだかカーペンターの『遊星からの物体X』を想起した。

でもその後、すぐ警備員の顔が判ってしまうんですね。これじゃ「ホラー感ねーよ!」とか最初思ってたんだけど、外見がわかるのに犯人の心は読めない。何故人を殺すのか?というのが語られない。わからないから怖いという図式。スピルバーグの『ジョーズ』や『激突!』と似たような感覚でした。特に後者の影響が強いだろう。『激突!』では「何故トラックが追い回すのか?」が語られないように、本作でも追う警備員の心情は語られないのである。

撮影は基本的に固定カメラでのロングショットと長回し。印象的なところとしては、警備員が人を引きずるシーン。ローポジでぐわ〜っとカメラが追うように撮られており、『シャイニング』に置けるローポジを感じた。アイテムで言うと、透明のカーテンと死体を入れた黒いビニール袋(『カレ・ブラン』っぽい)が恐怖の効果を高める。そして一番恐ろしいのがロッカー。こんな「殺され方嫌だ!」ランキングで、トップに上がりそうなジワジワと潰されていく圧死。そして、ちゃんと血が滴る。ドアが連なる長い廊下は、関係ないと思うけど『アルファヴィル』で探偵がアンナ・カリーナを探すシーンを思い浮かべました。あそこで警備員が「バンッバンッ」と開けたりしめたりしてたら完璧だった。笑

なんだかよくわからない物体に巻き込まれるってのは『激突!』だけど、黒沢清の90年代のフィルモグラフィーでいうところの『CURE』に深く結び付くんじゃないかなーと思う。『CURE』もなんだかわからない物体(人)によって、殺されていくことを描いている。警備員が『CURE』に置ける間宮と考えると『CURE』の下敷きには『地獄の警備員』があるのかなと。

あんまり取り上げている人がいなくて、面白くないのかなーと思ってたら傑作だったのでぜひぜひ鑑賞してほしいですね。『スウィート・ホーム』もホラーらしいので見たいのだけど、VHS!!もう見れる環境ないよー。DVD化してください。

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