低予算でも当たり前の面白さを追求する心霊ビデオ/『死画像』と『妖怪カメラ』

「心霊スポットにいこうぜ!」のような発言は軽々しく口にされるが、何か日常と違う体験をしたい極めて純粋な欲求から生まれると考えられる。こういった欲求は、いわゆる心霊ビデオと呼ばれるジャンルに登場する主人公たちにも言えるかもしれない。例えば『コワすぎ』の工藤Dであれば一発儲けてやるとった欲求と、幽霊をぶん殴ってやる!と論理的とはいえない欲求から、様々な事件に関わっていく。まあ『コワすぎ』をビジネス的な大人事情はあるが、極めて純粋な欲求からの行動だろう。こういった映画(オリジナル・ビデオ)の主人公たちの欲求と、それを鑑賞する我々の「面白い作品を見たい」といったような欲求がシンクロして作品を常に進化させ続けるのではないか、と妄想してしまう。それくらいここ最近の心霊ビデオは面白いし野心に溢れ、たいへん前衛的な作品が多いのが事実だ。昨年ブログで『流出封印動画』『心霊玉手匣』技術が進歩しているからこそPOVは面白い/『流出封印動画 5』と『心霊玉手匣 4』 - つぶやきの延長線上)に触れたが、2015年はまだまだ素晴らしい作品があった。今回は野心溢れたいへん目新しい面白さを目指した『死画像』『妖怪カメラ』について触れていく。

死画像 [DVD]

死画像 [DVD]

  • 発売日: 2015/12/04
  • メディア: DVD
『死画像』は『Not Found』シリーズと『ほん呪』スタッフたちのコラボ作品らしい。この手の作品でよく見られる構成で複数の短編が収録されている。その中でも「霊感テスト」と「クニコ」が重要な作品だと考えられる。まず、「霊感テスト」は投稿者が廃墟からビデオテープを拾ってきて中身を見てみると、部屋の中でカメラに背を向けて椅子に座った女を映していた。奇妙な映像だがまた時間を空けて見てみると女の顔の角度が変わっていた…。そして再び再生すると今度はさらにこちらを向いている。そのあとはよくあるように実際に事故に遭いそうになるとっいった物語だが、スタッフがさらに再生したシーンが次に映し出され、今度は完全な横向きとなり顔がはっきり見えるようになる。ここでこの短編は終了するが、視聴者にとってもオチがないのですごく厭な気持ちになる幕引きになっている。黒沢清が自身の著書『映画はおそろしい』で、ホラー映画について「人生にかかわるこわさ」を主題として選びとった一連の映画群をホラー映画と呼ぼうと書いているが、まさにそういった怖さ。映画が終わり日常に戻ってきてもあとを引く怖さといえばいいだろうか。この感じは『霊のうごめく家』などに参照される怖さではないかと思う。また感覚的には『リング』や『呪怨』等々のJホラー特有のじっとりとした湿度を感じるだろう。

最後に収録されている「クニコ」はすごく前衛的な仕掛けがされている。投稿者が同窓会にいったときに隣のグループが「クニコちゃんが亡くなった」と聞き気になって卒業アルバムを調べてもクニコは存在していない。そして保存されたビデオテープを見つけるとラベルにクニコと書かれていた…。小さいころよく遊んでもらった女の子に渡されたらしいが内容は不明である。映像をみると何やら失踪した女性の遺体が発見され…といった流れに。段々とテープにノイズが走り女性の顔がアップになり、ノイズでザーーーーっと青い画面に。そこからおそらく10分以上青白い画面が続き終了する。これはビデオテープの特性を活かした演出で、僕も子供のころはテープの切れ目が苦手というか恐怖を感じていた(何故か不安な気持ちになる)。本編の物語が解決されないまま青白い画面を見せられていると、「このまま自分も呪われてしまうのではないだろうか?」と恐怖を感じる。フェイク・ドキュメンタリーなのに本当に怖い。これも「霊感テスト」同様に「人生にかかわるこわさ」を究極的に追及した作品だったと思う。心霊ビデオは前衛的な演出をする領域に踏み込んでいるのだと、さらなる飛躍に心踊ろる作品だろう。本当に怖かった。他にも2つのカメラによる画面分割が楽しめる「歌声」、ちょっと女優の胸が気になってしまう「貫通」と他にも見所ある作品が収録されている。

そして恐怖とは違った面白さであるが『ほんとうに映した!妖怪カメラ』もフィクションを追及した素晴らしい作品だ。『妖怪カメラ』は、『ほんとうに映した!監死カメラ』シリーズのスタッフが作った作品であるが、『妖怪ウォッチ』の流行りに乗っかる(少し遅い気もするが)かのように「妖怪」を撮ってこいといった内容で、漫画家(いましろたかし)を連れて妖怪を撮影する物語。3編収録されており、それぞれ「河童」「蛇女」「化け猫」である。ここで思い出されるのは『コワすぎ』シリーズであるが、あれよりもっとバカバカらしいラインでとてもシュールな作品であるが、たった1時間でフィクションの真意まで迫った作品だと思う。

「河童」
河童を探しにロケにいくがなかなか河童が現れない、そこでいましろたかしが河童に返送することに…。ホームセンターで河童になるための装備を整えるのがバカバカしくて本当に面白い。なんとか河童に見せようと練習しカメラアングルを変えたり頑張っていたところにふと、本物の河童が出現する。『コワすぎ』であれキャラが物語を作るので工藤Dがぶん殴るって展開になってきますが、あくまでもこちらはそういった気持ちのいい面白さというより、頑としてフィクションであることを守るかのように河童にも簡単に逃げられてしまう展開となる。

「蛇女」
私は蛇女だという女の家にいくが、明らかに人間にしか見えなくて蛇女には到底見えない。『コワすぎ』であれば鱗をだしたり本当に蛇に変身してみせたりするが、本作ではそうにはならない。体内に温度センサーがあるのでスタッフの場所を当てたり、蛇女茶を作るために裸になって風呂に入りダシをとって蛇女茶を振る舞うシーンがあるが、「河童」と違い決定的な瞬間はないまま幕を閉じる。そのあとの「化け猫」含めても唯一”本物”に思える物体がでてこないにも関わらず、何か薄気味悪い印象が残る。嘘っぽさ(フィクション)がリアリティを与える上手いバランス感覚のある話だ。

「化け猫」
妖怪なかなか撮れないし幽霊でも探しにいくかってノリで撮影にいくと、普通に幽霊がまるで待っていたかのように現れる。やっぱり妖怪を掲げたシリーズだけに、それ以外のものを撮ろうとするといとも簡単に撮れてしまうのだ。これは日常生活でもよくある体験だろう。何度も電話しているのに繋がらないのに、電話が来てほしくない状況のときにはガンガン電話がかかってきたり…相手はそれぞれ相手のことなんて考えていない、それはあたり前なのだけど、そういった相容れない関係性を明確に提示している。それは最後の演出でも繰り広げられる。簡単に幽霊と撮ってしまった2人組は、オープニングシーンを撮っていたが、そこで急に「化け猫」が出現し、いましろたかしを追ってカメラの方向へ走ってくる。まるで「妖怪カメラなんだから妖怪映せよ!このやろう!」妖怪が怒って出てきたのではないか?と勘ぐるくらいのタイミングである。とにかくその登場シーンは猛烈にテンションが上がるに間違いなし。

◼最後に
『妖怪カメラ』を見ていると、フィクションでもやり方次第でここまでリアリティを出すことができるんだと気づかされる。おそらくスタッフたちは面白い作品を作っていこうといった思いなのだろうけど、シーンごとにおっていくとリアリティを謳うドキュメンタリー作品よりもリアルを感じる瞬間があるし、短時間でここまで楽しませるのは最高の娯楽ってことだ。2つのベクトルの違う作品を取り上げてみたが、なんだろうかどちらも楽しませることにおいては一級の娯楽に昇華されていると感じるのだ。それがたとえ低予算だったとしても、作品にかける思いはコストに比例しないだろう。コストがかけられないだけ工夫しようと人は努力するんだろうな。しかしこれだけ心霊ビデオが前衛的になっていくのを見ると、日本まだまだイケるぜと可能性を感じる。これからも積極的に追っていきたいジャンルだ。

秘宝のベストで『コワすぎ』が結構ランクインしてたけど、餓鬼だらくさんとギンティ小林さんが『妖怪カメラ』をあげていたし『TRASH-UP!!』でも記事になっていた。(餓鬼だらくさんかな)やっぱり見ている人は見ているなと思うし、今後も伸びる市場へ…(無理か)。

映画はおそろしい

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  • 作者:黒沢 清
  • 発売日: 2001/02/01
  • メディア: 単行本
映画秘宝 2016年 03 月号 [雑誌]

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  • 発売日: 2016/01/21
  • メディア: 雑誌
TRASH-UP!! Vol.23

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  • 発売日: 2015/12/30
  • メディア: ムック