繰り返しの美学『七回死んだ男』

一般的にSF作品と言えば、これまで見たことが無かった世界やガジェット、アクション超大作など見ていてハラハラドキドキするような作品やそれとは対極に、ディストピア作品のような暗い未来が描かれたりもする。
そんな中、SF設定で良くあるのは、タイムトラベル物を扱った物が随分多い。代表的なもので言えば『バック・トゥー・ザ・フューチャー』『猿の惑星』『ターミネーター』など往年の娯楽SFを意識した作品が多く、ゼロ年代以降であれば『バタフライ・エフェクト』『ドニー・ダーコ』、トニースコット『デジャヴ』のようなちょっと涙腺をうるっとさせるような作品が目立つ。この手法は、アニメや特撮でも使われ、『時をかける少女』(細田守)やドラえもんクレヨンしんちゃんでも使われたし、特撮で言えば国民的ヒーローもの仮面ライダーでも使われている。もっと言えば、90年代から『ゴジラVSキングギドラ』のようなものにも導入されている。個人的にゼロ年代以降では、哀愁を感じるような作品に多い気がする。変わり種で言えばコメディ的に扱った『ミッドナイト・イン・パリ』もあるし、『ミスター・ノーバディ』など近年でも幅広くジャンルを飛び越えSFテイストを混ぜるような作品が多い。

なぜこんな当たり前のようなことを振り返っているかというと、先日読んだばかりのアニメ批評本『神、さもなくば残念』がなかなか面白くて、まどかの批評なんて今まで見た中でも素晴らしかったと思う。まあ、まどかは別として、その批評に『STEINS;GATEと七回死んだ男』という項目があり、シュタインズゲートの批評に『七回死んだ男』を引き合いにだしていたのである。批評を読む限りは、シュタインズゲートと同じようなプロットを使った作品であったので、ちょっと読んでみるかーと重い腰を上げて久々にミステリー小説を一気読みしてしまった。

同一人物が連続死!恐るべき殺人の環
殺されるたび甦り、また殺される祖父を救おうと謎に挑む少年探偵

どうしても殺人が防げない!?不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎(ふちがみれいじろう)老人――。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは!時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。

別にこの本のネタバレとか立派な書評を書く訳ではないんだけど、主人公が意識もせず同じ日を9回も繰り返してしまうという、巻き込まれ型タイムトラベル作品としてはなかなか面白いなーと思ったのである。何度も繰り返し人を死から救済するというスタンスの作品は、たいてい自分の想いが先行してがむしゃらに立ち向かおうとする必死な姿が美しかったり、本当に救った時の爽快感を求めて読んだりするものである。しかしながら、本作は、そのような必死な姿は皆無のように見える、確かにループ前のオリジナルで死んでいなかった祖父が、1ループ目以降に必ず死んでしまい、何度繰り返しても救えないというのは本人にとって辛い状況かもしれないが、家族間の問題、誰が祖父の後を継ぐかの遺産問題が絡んでおり、主人公は高校生のくせにしてそのような悩み種を抱え、将来は不安だしなーと、なんとなくしょうがなく救済しようと見えるのが面白い。
筆者は『恋はデジャ・ブ』を観て、この設定に本格ミステリー要素をぶち込んだらどうなるかということで書き始めたという。そもそもこの作品が本格ミステリーかというと、少し違う気がする。まず人物を取り巻く環境が面白い。主人公の兄弟(全員男だ)と綺麗な従姉妹陰鬱な従姉妹が2人そして、主人公が密かに想いを寄せる祖父の秘書など、高校生にしてはハーレム状態だ。ウハウハである。このハーレム状態が独自の萌えとして発揮していき、三角関係や殴り合いのいざこざとギャグ要素もふんだんに含まれている。
そんな独自の萌え展開に燃えていると、あらら事件発生と、やってらんねーという風に繰り返し、日を重ねるごとに重い空気感とめんどくさいなーと思いつつ主人公は行動していく。この手の設定ってのは、爽快感がものを言わせるようなもんだが、実際には同じ日の繰り返し、『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむらだって1ヶ月を何度も繰り返していて、実際は先に進んでいなく、フューネラル・ドゥームを聴いているような鬱感に追いやられてしまう。一瞬の快楽や、やがて見える希望の為に耐え忍び最後には勝利宣言するのである。

本作の主人公は高校生のくせに変に大人びていると言われているが、こんなようなことが普段起こっていれば精神年齢も老けるだろうし、実際にこういったタイムトラベル(リープ)ものの主人公はみんな落ち着いているように見える。まどマギ暁美ほむらだってそうだし、シュタインズゲートのオカリンだって繰り返していくうちに察していくし、『ルーパー』では、ジェセフ・ゴードン=レヴィットがなんとブルース・ウィリスになってしまっている!!(『ルーパー』って好きじゃなかったけど、こういう風な視点からみると好きになってきた)まあ実際に、他の人よりも経験が増えるんだから、当たり前と言ったら当たり前だろう。

この作品のオチについて爽快感があるかというと、そこまであっと言わせるようなものでもないし、「あーそうなのねーへー」くらいな感覚と言ってもいい。ただただ、この兄弟従姉妹叔母祖父たちのやり取りが面白かったし、90年代の作品であるが”萌え”な展開に燃える作品でした。

また、この作品を知る機会になった『神、さもなくば残念』も大変素晴らしく、あの花の最大の欠点とかなのはとか、何と言ってもまどか評とか読み応えがある評ばかりである。またエントリーで触れられればと思います。

七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)