『ムーンライズ・キングダム』を観ました。※ネタバレあり

[あらすじ]
1960年代ニューイングランド島。自分が養子だということを寂しいと感じながらボーイスカウト活動をしていたサム(ジャレッド・ギルマン)は、常に本を読んでいる少女スージー(カラ・ヘイワード)に恋をする。キャンプでの生活になじめない二人は文通を始め、キャンプから勝手に抜け出し森で自由気ままに過ごしていた。一方、村では保安官(ブルース・ウィリス)やスージーの両親(ビル・マーレイフランシス・マクドーマンド)らが、二人を捜していたのだが……。

[感想]
映画がこうであると決めつけ、型にはまっていたり形式的だったりする必要はないと、ウェス・アンダーソンの映画を観ると一層感じられる。
だからと言って、只、前衛的であったり突拍子もない明後日の方を向いた映画ではない。一つ一つのショットだったりカメラワークが緻密に考えられ、そこに役者の演技や音楽が入ることによって、とんでもないエンターテイメントへ昇華している。
特にオープニングのスージー家を横からとらえたシーンが格別で、『ライフ・アクアティック』の船のシーンと似たような使い方をしていた。(あれも、船みたいにセット横から撮っているのかな?)あそこからエドワードノートン登場してしばらくは横の動きが主体だけれども、上下に振ったり手前や奥にカメラを振ったり空間を使った画作りがとても上手い。逆に前にまわったときには、歩いているor小舟の揺れだとか、微妙に画が傾いていたり凄いこった撮り方をしているなーなんて思わず前乗りになりながら画面にかじりついてしまった。
ストーリー自体はいつものウェスアンダーソンと言ったところか、家族(特に父親の不在)を描いている。家族の話と言えば、昨年の『ファンタスティック Mr.FOX』で父親との不在は決着させたと思っていたが、主人公の一人”サム”には父親がいない。スージーにしても家族関係は良好でなく、親が「超問題児」(こんなタイトルだったけな?)との向き合い方の本を読んでいるくらいだ。愛情無く育ってしまった二人は互いに惹かれ合い駆け落ちを実行する。この駆け落ちによる二人の掛け合いがとてもロマンチックだし、ボーイスカウトとの一戦はハラハラさせてくれる。
ウェス・アンダーソンの映画特有であるが、ゆるゆるの雰囲気の中で先に言ったボーイスカウトとの一戦や、雷にうたれるシーン、洪水シーンと一瞬ハッとさせられるシーンが随所に設けられているのが、鑑賞者をリアルに引き戻していく。
※二人の出会った”ノアの方舟”は洪水シーンにかけられていたのだろうと思う。

駆け落ちという二人の恋路を問題としながらも、家族間スージー家の不仲だったりブルースウィリス演じる警官との関係などの大人の問題にも触れ螺旋状に絡み付け最後には一つの問題として片を付け。あくまでもサムとスージーが主体として進んでいくが、大人たちも主役なのである。
配役についても申し分ない、最近あんまり見ていないエドワードノートンなんかの情けなさというか翻弄されっぷりや、うだつの上がらない警官を演じるのはブルースウィリスだったりと、思わず配役だけでクスっと笑みが出てきそうになる。
後面白かったのは、本土の島との電話しているシーンというかセット。始めはあんまり細かく見ておらず、画面割ってるのかと思っていたけど、二回目の通信から一つのセットで二つの部屋を作っているんだとハッとさせられた。(ヒッチコック映画術かなんかでも読んだ気がする…いや、デパルマだっけ?)

ここまで家族の話を書いていて、いい加減次は家族以外をって思っていたけれどもエンドロール直前(エンドロールも素晴らしかった)ではぽろっと涙腺にきてしまった。
コメディと言ってもヒューマンドラマ以上に人間を描いているし、トリッキーなことをしていても嫌みじゃないしエンターテイメントしている。
ウェス・アンダーソンはコメディを使って、ある種のTVのような親しみやすさを映画で表現しているんじゃないだろうかと感じた。

評価点:83点