ドロドロでボコボコな海老蔵の過去トラ『喰女−クイメ−』※ネタバレあり

三池崇史監督の『喰女−クイメ–』を見た。

2010年11月都内某所、歌舞伎俳優の市川海老蔵氏がボコボコにされた事件が発生した。ありとあらゆる女性芸能人をモノとし、やってやってやりまくった人生に終止符と素人タレント出の女子アナと結婚した市川海老蔵であったが、それでもボコボコにされる。まあ関係者でもあるまいし、はっきりしたことがわからないが、ありとあらゆる怨念を買ってボコボコにされたのではないだろうか?と勘ぐってしまう。しかし、ボコボコにされただけで懲りる海老蔵ではない。自虐ネタとして、”お岩さん”とくっつけちまえと三池崇史に白羽の矢が立った。それが、『喰女−クイメ−』である。

東海道四谷怪談 (岩波文庫 黄 213-1)

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本作は、「四谷怪談」の舞台稽古を劇中劇として取り込みながら、現実の海老蔵伊右衛門)、柴咲コウ(お岩)カップルのパートををレイヤー構造にした作品。本作は、ほぼ、舞台稽古のシーンが映し出され、不気味な平屋のセットや怪しげなシーンでは妖艶なセットを使うなど、セットそのものを楽しめる。導入部から淡々としたシーンの連続に眠くなる人もいそうだが、不気味な演出が後の惨劇に上手く作用してくるので、目が離せない。


ネタをバラしてしまえば、舞台稽古の「四谷怪談」と、現実が混ざり合い、ただの舞台稽古だったはずなのに現実を脅かしていくような構造になっている。その原因は、市川海老蔵の浮気だ。「四谷怪談」では、伊右衛門が自らが生きていく為に、お岩の父親を殺し、あろうことか、お岩と結婚する。そして、出世話が見つかれば、お岩を破滅に追い込み、別の女と結婚する。この映画では「四谷怪談」が現実にも作用され、天下のモテ男は、舞台稽古中に代役の女にふっと殺し文句を言ったり、若手女優と寝たり、恋人(柴咲コウ)がいながらもやりたい放題。対して、柴咲コウはそういった行動を、女の勘なのか、不気味な能力で察知しているのか、奇抜な行動をとる。この行動全てが、現実なのか?それとも虚構なのか?と突き詰めていくと、なかなか判断が難しいが、観賞後は、あるシーンから虚構というか夢物語のような世界だと判断できる。


ある恐ろしいシーン後の柴咲コウが壊れてゆく様は、役(お岩)が本人に入り込んで狂ってしまったように見える。役が現実に入り込んでしまったというと『ダークナイト』でジョーカーを演じていたヒースレジャーとか有名ですね。(町山氏あたりが解説していた気がする)

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海老蔵は現実で死んでいるが、彼自身は役に呑み込まれ、地獄のような虚構(悪夢)に殺されている。この映画は、人が虚構に呑み込まれていく様を書いているのだと感じた。例えば、舞台稽古中の海老蔵は、あるシーンで、障子を力一杯開けて壊したり、稽古中にも関わらず本気で柴咲コウを蹴り飛ばしたりする。舞台稽古の疲れもあるかもしれないが、アレはもしかしたら、役に入り込み過ぎてしまっていたのかもしれない。そういった危ないラインに立っている人間が、外部からの怨念に屈してしまったのではないだろうか。

映像的に言えば、海老蔵が相手を斬りつけているシーンなどのアクションシーンはやたらカメラが動いてハッキリと描写を映さず、SEXシーンも薄暗くてあまりよく見えない(エロ的にも)。逆に言えば、お岩のただれた顔や、あの恐ろしいシーンなどもこれでもかとハッキリと見せつけられる。こればかりは個人的な妄想だが、虚構が現実を呑み込んでいるので、現実に起こっている行為は、虚構のようにハッキリせず、虚構(夢)では、逆にハッキリと見せるという、現実と虚構が逆転している演出なのかもしれない。それと、注目すべきは過剰な音である。刃物を集めるシーンだけでも嫌な音が過剰に表現され”痛い”と聴覚を刺激し、血みどろのシーンではグチャグチャネチャネチャと音を鳴らす。


こういった映像や音の表現といい、”痛い”を追求するザ・三池風ホラー。ただ、もっとシンプルに考えると、過剰表現になっているが、殆どは市川海老蔵の過去トラでネタにしちゃってるんじゃねーの?と感じる。そう考えると、市川海老蔵の実生活、こじれたカップル、四谷怪談*1と3レイヤー構造になっている映画なのだった…

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*1:四谷怪談を題材とする場合は、お祓いが必要なそうです。※白石監督も言ってた。