『コングレス未来学会議』覚書――夢と現実の差異
年始ゴロゴロお正月休みを過ごしていた時に、未見映画を消化していたのだけど『コングレス未来学会議』これには心底驚かされた。
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そして『コングレス未来学会議』はさらにその先のステージに進んでいる。『戦場でワルツを』と同じように実写とアニメーションが共存しているが、『戦場で〜』と比較できないくらいの実写のパートが多い。冒頭ミラマウント*1というスタジオに女優ロビン・ライトが身体をデータ化して今後勝手にCGキャラクターとして働いてくれないか?と要求される。ここでなんとも皮肉たっぷりなのが、役名はそのままロビン・ライトであり、その上『フォレスト・ガンプ』のころの君であれば……と嫌味な話がずぶずぶ出てくることだろう。出産して子育てに専念するなど、現実の話もダブらせてくる。ここからすでに現実と映画の虚構の垣根がとても曖昧なことがわかってくる。
そして思わずビックリするのはアニメーションが始まるシーンだろう。契約を済ませたロビンライトが車で荒野を爆走するシーン。そして「ここからはアニメーション…」といわれ、薬を飲まされゲートを突破するとアニメーションの世界に没入してしまう。そこから、新薬の発明や、彼女がまるでその象徴のように扱われたり、テロが起きたり…と様々なトラブルに巻き込まれる。そして息子を探しに現実世界に戻るが……といった展開に。
一見するとアメリカ映画界の風刺映画にも見えるし、実写(現実)/アニメーション(虚構)のどちらがいいのか?といった二極化の問題に見えるかもしれないが、そうではないように思える。というのも、私が思ったことはもっと恐ろしいことであり、もしかしたら当たり前なのかもしれない。現実も夢も陸続きであり、同様に経過する時間の中で存在する。どちらが上位でも下位でもない。まったくの等価として存在しているといったことをいいたいのではないか?と思ったからだ。
そもそもがワンシーン目からいかがわしさが漂っている。涙を流すロビンライトの顔をアップに映す。被写界深度が浅くなぜ泣いているのだろう?と思わせる強いショットで始まるが、近年の黒沢清の映画で“いかがわしく”カーテンが揺れるかのように、窓の外では旗が揺れはためいている。「風なんて演出できねえだろ」と思われるかもしれないが、おそらくアリ・フォルマンは狙ってこのタイミングで撮影している。決定的なのは次のシーン。カメラは屋外にやってきて息子のカイトが風ではためている光景を映す。感情(や状況)の揺れ動きを風に見立てて画面から画面へつながっていく。シーンのつなぎ目によくある技法であるが、冒頭の実写シーンでは常にこうやって外の世界のモノが揺れはためくといった“風”の表象につとめる。
アニメーションのひとつの利点として、画面をすべてコントロール(創出)できるといったことがある*2。逆に言えば作り手にとって偶然性を期待できない可能性がある。しかしながら、この映画ではさも自然を撮っていると思わせるように、風の表象させる。本映画内において画面を自由自在にコントロールするという点では、実写でもアニメーションでもできないという回はない。身体をCG技術に奪われたロビン・ライト、ついにアニメーション化してしまう。もしも、この虚構としか思えないシーンが完全なる悪意として撮られているとしたのならば、前段で書いたように映画のワンシーン目から皮肉にも画面を完全にコントロールすることなんかするだろうか。アニメも実写も同一に見ているからこその画面コントロールなのではないだろうか。
現実も夢もどちらも私たちの人生で同一に存在する。どちらも現実であればどちらも虚構であるといえるのではないだろうか。無理やり実写とアニメーションをつなぎ合わせる言葉があるのであれば、それは映画的(言葉が適切かどうか別として)にいうと、どちらにも「運動」が存在しているということではないだろうか。実写は起こっている運動を撮る。対してアニメーションは運動をゼロから創出しなければならない。撮り終えた作品を見れば運動という点で実写とアニメーションには優劣はない。どちらにも同じように運動が存在する。
ここまでダラダラと書いてきてオチがないのがあほらしいなと我ながらに思う。なので、覚書名義でのエントリー。もう少し煮詰まったら続きを書いてきたい。それとちょうど『コングレス未来学会議』を見ているときに、土居伸彰さんの『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』を読んでいて、なんだかこの映画とのクロスオーヴァーを感じて泣いてしまった。フレームとフレームの「間」すなわち「時間」からフレームの「上」へそして「向こう側」へ……。何度も立ち返って読む必要がある書物だと思った。
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- 作者: 土居伸彰
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