グチャグチャヌルヌルの遺伝子/『ザ・ブルード 怒りのメタファー』と『スキャナーズ』

新年早々円盤は何か買おうかなと、Amazonで悩んでいたら「そう言えばデパルマの『ファントム・オブ・パラダイス』がBlu-rayになってたなー」とデパルマを検索していたのだけれど、「やっぱり観た事無い映画をー」って考えているうちに眼に入ったのが、クローネンバーグの初期作品群。デパルマとクローネンバーグは僕が映画を好きになったころによく観ていてデビューも60年代ということからよく同じような系列と捉えていた。そこで昨年新宿武蔵野館で上映されていたけど、タイミングが合わなくて観れなかった『ザ・ブルード 怒りのメタファー』と『スキャナーズ』をポチった。

この両作品は、デヴィッド・クローネンバーグの得意とする「グチャグチャヌルヌル」のルーツを辿れる初期作品であり、その効果がぎっしりと詰め込まれている。ただ、『ヴィデオドローム』よりは気持ち悪くはないので、わりとグロ系駄目な人でもみやすい作品なんじゃないだろうか。それでも気持ち悪いけれど、それ以上に観客に観させるだけのストーリーがキッチリしているなと感じた。

『ザ・ブルード 怒りのメタファー』は、「精神病にかかった自分の妻が実の子を虐待しているのではないか?」と夫が不安になり専属医師に抗議をするところからスタートする。精神病を煩っているというのは、近年のクローネンバーグ作品でも『スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする』『危険なメソッド』でも登場することから、クローネンバーグのいわゆる十八番的な設定の一つで、ビジュアル以外でも「グチャグチャヌルヌル」効果を高めていると感じられる。
その後、精神病を病んだ妻の母親・父親・幼稚園の先生が得体の知れない化け物に次々と襲われ、このシーンではトンカチのような(料理で使う肉とかを叩く道具だったかも)もので怨念が籠ったように殺されていくんですが、タイトルにもなっているように「怒り」がこの殺し方のキーワードになっている。
なるべくネタバレしないようにするけど、見始めからわりとネタ*1はわかるように組まれていて、化け物を生んでいた犯人は○○で、それが○○に遺伝していくというもの。彼の『シーバース』でもそうでしたが、なんらかよくわからない物体に寄生されていくものを描くといことではクローネンバーグに右に出るものはいないってくらい上手いなーと感じる。

『ザ・ブルード 怒りのメタファー』は寄生というのが「遺伝」という形で表現されているのだけど、2年後に発表した作品『スキャナーズ』は寄生が「突然変異」という形で表現されている。

スキャナーズ』の概要は、「スキャナー」と呼ばれる能力を持つ特殊な人間たちが、人間に反旗を翻し世界征服しようと企むが、同じく「スキャナー」の能力を持つ主人公がそれを食い止めるというお話。
この映画は本当に面白かったので、バレは最小限までに抑えて凄いと思ったことを書くと、ストーリーの進め方が非常に上手い。上手いというか、僕の好きな話の作り方をしているなーと感じた。ストーリーをまとめてみると、

(1)導入部でショッキングな映像を入れる。(有名なアレです)
(2)(1)の犯人として「スキャナー」の能力を持った人物が捕まるが、「スキャナー」の能力で殺しまくって逃走。
(3)主人公の修行シーン(というよりも覚醒に近い)
(4)悪の組織との対峙(「スキャナー」を使った戦闘)
(5)悪の組織の悪行を知る。
(6)主人公が自分自身のルーツを知る。
(7)ラスボスとの対峙。

実にヒーローもの要素たっぷりなんですよね。まあ特に一般人を助ける描写はないので、ヒーローものと言い切るつもりはないけど、僕の好きな要素がこれでもか!ってくらい詰め込まれていて、本当に面白い映画だなと心躍りました。(1)の見せ場の一つの有名なあのシーンや(7)のラスボスとの対峙なんかは「グチャグチャヌルヌル」のたまらないシーンであります!気持ち悪くてしょうがないけど、逆に「気持ちがいい!」ってのが不思議なシーンですね。
それと、「テレパシー(スキャン)は読心術ではない。二つの神経を結合すること」というような台詞があって、それがクローネンバーグのフィルモグラフィーの核にもなっているんじゃないかなと思った。『ザ・フライ』は蠅との結合、『ヴィデオドローム』はTVや拳銃など、『裸のランチ』はタイプライターとゴキブリ、『シーバース』はアメーバのような物体との融合、『ザ・ブルード 怒りのメタファー』は遺伝。
寄生・融合・遺伝などを巧みに使い、二つ以上のものが神経レベルで合わさる・合体するというのが、クローネンバーグ初期作品を見る中で重要なポイントだな〜と深々と感じた。
今でこそ『スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする』以降の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』のバイオレンス映画や『コズモポリス』『危険なプロット』のような文学的な(元々文学っぽい映画多いか)作品も撮れちゃうクローネンバーグだけど、「グチャグチャヌルヌル」はそう言った作品群にも直接ではないが違った形で反映されていて、「過去の作品あってのクローネンバーグだな!」と感じたので、クローネンバーグ初期作品BOXも買っちゃおうかなってポチりそうです。

確かに「ぐちゃぐちゃぬるぬる」だけど、『ヴィデオドローム』より節度あるし、あれよりわかりやすい作品だと思いますので、万人にお勧め出来る作品じゃないかなー!

ザ・ブルード/怒りのメタファー リストア版 [Blu-ray]

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スキャナーズ リストア版 [Blu-ray]

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*1:裏ジャケで盛大にバレています