今年は『クリーピー』と『ダゲレオタイプの女』が公開されるので何となく黒沢清7選

今年は『クリーピー偽りの隣人』と『ダゲレオタイプの女』と黒沢清の映画が2作品も公開される。『一九〇五』こそ企画倒れなってしまったが、『リアル』以降は、『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』(2013,短編)、『Seventh Code』(2014,中編)、『岸辺の旅』(2015,長編)とコンスタントに作品が公開されている。特に『クリーピー』は久しぶりに、ミステリー作品であり、どうしても『CURE』を期待してしまう。そんな期待からか、この2週間くらい黒沢清を見直しまくっていた。そんなこんなで黒沢清7選を選んでみてみることに。これが僕の黒沢清ベストか?と言われるとまた難しいんですが…(順不同)


蛇の道 [DVD]

蛇の道 [DVD]

黒沢清が『リング』の脚本家・高橋洋と組んだVシネ作品。娘を殺された香川照之が復讐をしようとする狂った様が見れるが、本当に恐ろしいのはそんな狂った香川に「お前はどうしたいんだ」と問いかけをする哀川翔だろう。物語の後半までは「なぜ?哀川翔香川照之の手伝いをしているのだろう」と不思議に思えるのだが、彼の空虚さを感じる雰囲気からか「こういうことしてみたかった」といった言葉に騙され、後半の展開に見事に震え上がる。ロケハンが素晴らしく、広々とした廃工場跡のようなところで、香川が生活する狭いスペースから拉致監禁している広々とした場所までのカメラワークが素晴らしい。今回選ばなかったが、続編である『蜘蛛の瞳』は、本作で何者かわからない哀川翔が「何者か」を問われる恐ろしい映画である。こちらも超傑作。*1

トウキョウソナタ [DVD]

トウキョウソナタ [DVD]

香川照之小泉今日子主演の“「家族」ムービー”と言えば聞こえはいいのだが、これまた怖い作品である。彼の作品ではあまり家族についての関係性のような映画はなく、ここまで自覚的に家族とい題材を使って映画を撮ったのは初めてじゃないだろうかと思える。*2様々な人が指摘している点であるが、それまでの彼の映画にしては画面が妙に狭い。ロングショットも意識的に封じているように思える。家族であることの息苦しさのようなモノを描いているように思え、お得意の「境界」演出が冴えわたっている。そんな家族の空虚さからか、透明な雰囲気に感じられるが、役所広司が登場してからは妙に映画っぽい生々しさ(フィクション)のようなものが浮かび上がってくるから不思議だ。これが俳優の力ってもんなんだろうか。

降霊 ~KOUREI~ [DVD]

降霊 ~KOUREI~ [DVD]

これまた恐ろしい映画である。「気づいたら女の子を誘拐していた。」といったもので、これをもし体験したら震え上がるだろうな…と思う。また、効果音技師である役所広司の存在が、デ・パルマの『ミッドナイトクロス』を想起してしまい「こりゃあ悲劇しかまってないだろう」なんて思うのだけど、そこは流石の黒沢清で「泣」には振らない。風吹ジュンの神経質そうな演技が見事。冒頭で出てくる赤い服の幽霊は、『DOORIII』(1996)を経由することで、『花子さん』(1994,『学校の怪談』)から、徐々に『叫』(2007)の葉月里緒奈のニュアンスに近くなっている。設定は『CURE』にそっくりじゃないかと思うが、『CURE』ではなく、『ドッペルゲンガー』(2003)の原型のような方面へ進む。

叫 プレミアム・エディション [DVD]

叫 プレミアム・エディション [DVD]

「気づいたら恨まれていた」なんて何とも恐ろしいことだろう。カイヤットの『眼には眼を』も「気づいたら恨まれてた」映画であったが、そこに『パトレイバー2』のような空虚な東京(埋立地)も盛り込まれている。Jホラー的な湿気がまた気持ち悪いったらなんのって(笑)彼の中で赤い服の女といえば『叫』を確立してしまった作品であるが、何だろうか『花子さん』から永遠と続く赤い女の『呪い(復讐)』シリーズなんじゃないかと思う気もする。黒沢清のベストは?と聞かれるとこの作品を上げることが多い。

学校の怪談f [VHS]

学校の怪談f [VHS]

30年の歴史を閉じようとする学校の物語。学校には学校の語り継がれる物語が存在する。例えばそれが単なる噂話だったり、実はが捻じ曲げられたりしても、語り継がれた物語は本物に違いないだろう。そういった物語が終わる日が来る。30年の蓄積した怪談話が廃校の2週間前に「現象」として去りゆく在校生の前に現れる。黒沢清の映画にしては繊細な映画に仕上がっているのも『学校の怪談』の口承される物語性からなのだろうか。関西テレビ学校の怪談』の中でも『木霊』や『花子さん』の恐怖とは違った味わいを感じるだろう。

もだえ苦しむ活字中毒者/よろこびの渦巻 [DVD]

もだえ苦しむ活字中毒者/よろこびの渦巻 [DVD]

黒沢清フィルモグラフィーのなかでも『よろこびの渦巻』は最もわけがわからない作品じゃないだろうか。(全作観ているわけではありませんが)この気の狂った作品をテレビで放送していたというのが何よりも信じがたい。占い師の父親の「よろこびだ」といった発言に嫌気が差し松田ケイジは家を出る。なぜだかわからないが「わかるよ」と共感する謎の男は、スナイパーに計3回撃たれ次第に血だらけになってくるし、囮捜査に使われた松田ケイジの友だちは、まんまと囮としてグサッと胸をひとつきされる。占い師の因果が周り巡ってくるような物語になっているように、カメラはつながりを意識させるように横から横へ移動を繰り返し、物語をつなげる。全くデタラメな物語であるが、映画技法のてんこ盛りであり、超ロングショット+長回し、反復など、映画をぶっ壊しながらも「映画」を目指したテレビドラマだろう…。ちなみに歌の歌詞は助監督だった青山真治が考えたとか。

勝手にしやがれ!! DVD-BOX

勝手にしやがれ!! DVD-BOX

シリーズモノでキャラクターが「何をやっているんだろう」とか、自分の存在の意義や、自分の行っていることへの疑問を感じだしたら要注意だ。そうれは終焉の信号である。押井守は『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』で、シリーズを終焉させようと「日常」を破壊しにかかった。(実際は続くわけだが)楽しい「日常」はいつまでも決して続くことはない。そんな当たり前で、残酷な事実を突きつけられるのは覚悟が必要だ。どうしても身構えてしまう。そんな背景からか、黒沢清で一番怖いといったらこの作品を選ぶかもしれない。シリーズ全体を通してアクション・コメディといっていいのか、今の黒沢清でもなかなかお目に抱えることができないロングショットとキャラクターの動き(アクション)の心地よさ。そして何と言っても哀川翔前田耕陽のコンビによる掛け合いの意心地の良さ。全6本中5本の満たされる多幸感。それが、「空虚」への転じるシリーズ最終作。彼らはロシアに行けたのだろうか。『Seventh code』で見せるその目配せに思わず、グッときたのは言うまでもない。


【まとめ】
7選といったわりにこれがベストか?と言われるとものすごく難しい。彼の映画の中でいちばん映画ファン(広い定義で)受けをするのは『CURE』だと思うし、何度見ても底知れぬ面白さがある。ただベストか?と聞かれるとそうでもないなと思うのである。伊丹十三との『スウィート・ホーム』でロングショットを意図的に抑えられ、アップショット、クローズアップの多用と「決定権」に泣いた黒沢清だけれども、それでさえ『スウィート・ホーム』も面白いし、人が燃えて粉々に朽ちていく姿を撮ったのはすごいと思う。どの作品を見ても、どこかハッと思わせるシーンを見せる手腕には脱帽である。また、『蛇の道』の続編である『蜘蛛の瞳』も入れたかったが、あの映画の持つ空虚さにおいて『英雄計画』でも代弁できるかなと思い入れなかった。また『アカルイミライ』もとんでもない傑作であり、『ドッペルゲンガー』も大好き。『LOFT』も『893タクシー』も・・・。このところ上映時間が延びている黒沢映画であり『クリーピー』にも若干の不安も覚えつつ、本日鑑賞してこようと思います。では。

黒沢清と“断続”の映画

黒沢清と“断続”の映画

映像のカリスマ・増補改訂版

映像のカリスマ・増補改訂版

*1:DVDは廃盤だけど、海外版で『蛇の道』・『蜘蛛の瞳』がパッケージされた物が販売されています。また最近WOWOWで放送していましたのでそういった機会に

*2:ニンゲン合格』(1998)も家族を取り扱った傑作