夏休み映画 vol.2 出崎統『劇場版 AIR』
題材に触れる前に、本企画「夏休み映画」ってタイトルをつけているけど、これは自分が現在「夏休み」だからってのもあるんだが、作品を選ぶ基準としては「夏休みっぽい」ところがあれば「夏休み映画」とみなしている。そもそも、前回の『学校の怪談』(夏休み映画 vol.1 『学校の怪談』と『学校の怪談2』 - つぶやきの延長線上)だって、校長先生の「明日から夏休み〜」って台詞があるように、夏休み前日の出来事ですね。だから、「っぽい」ってのが基準。
さて、「夏休み」といえば、当然のことながら「夏」の「休日」であり、幼い頃、祖母の家で過ごした記憶。学生時代に一緒に過ごした仲間たちとの記憶。夏休みならずも冬休み、春休みもあったが、記憶に残っているのは暑くて長い夏休みだ。夏の強い陽射しのせいからか、根深い記憶であっても、どこかおぼろげで、部屋の片隅で忘れられてしまったかのようにひっそりとしている。繰り返される休日といものは、不思議な感覚が残る。過ぎ去ってしまえば、蜃気楼のように掴みどころのない夏休みの記憶。でも、確かに存在する。
出崎統が監督した『劇場版 AIR』も、どこかおぼろげな、記憶の断片のような作品に仕上がっている。その雰囲気は、ハレーションを起こしたような背景や、画面めいいっぱいに広がる入射光などの技術による効果からだ。物語的にいえば、大胆にも1000年前の物語と現代と複雑に交錯させることで成し得た。多用されるハーモニー(止め絵)が”動かない”こと。つまり、確かにそこに記憶(神尾観鈴)が存在したことを印象付ける。
このような演出が、夏休みの特性と同義に繰り返されること。「輪廻転生」の要素を持つ『AIR』にとって、このような演出および、時代が交錯し合う物語にしたことが、本作を一風変わった傑作にした。僕たちが、『AIR』のキャラクターのように、同じ体験ができるわけではないが、どこか懐かしい、記憶の断片を見ているかのような気持ちにさせる。往人と観鈴が出会ったほんの数日間の出来事ではあるが、1000年前の「記憶」が交錯し合うことで、短い期間ながら、観客を混乱させるような、情報と情動を兼ね備えた作品になっている。
その物語構成の破天荒さ、大胆さを、荒々しい海(CG)が一層強く印象付ける。90分と短いランタイムであるが、映し出される荒々しい海のように観客を呑み込んでいく作品だ。いつかは忘れてしまうかも知れないが、『AIR』が与えてくれた、かけがえのないこの一分一秒を忘れないでいたい。天才・出崎統と、最高の声優・川上とも子の魂が宿る記憶がここに確かにある。
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