リズミカルなダンス映画――フレデリック・ワイズマン『ボクシング・ジム』(2010)

ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマンが2010年に発表した『ボクシング・ジム』は、ボクシング映画といっても試合風景を撮影したものではない。ワイズマンが捉えるのはテキサス州のオースティンにあるボクシングジムで日常的に行われる練習風景だ。

他のワイズマン作品同様に主人公といったものは一切存在せず、「ボクシングジム」といった特定の空間をひたすら撮る。こうして書いていると淡々とした映画のように思うかもしれないが、それに反してこの映画はとてもリズミカルな編集が加えられている。それも編集する前からどう撮影すればいいのか理解しているのだろうから、恐るべきワイズマンなのだ。

冒頭速いカットでテキサスの空、ジムの外観、看板、内観、タイマーをリズミカルに切り替えていく。ミットとグローブが奏でる打撃音がが画面外から聞こえてきて、練習風景へ接続される。赤ちゃんを連れて練習するものや、若者、老人、そしてプロ級のフィジカルをもった選手、など練習している人物は多数にわたる。ほぼすべてのカットでグローブとミットの衝撃音やブザー音などが鳴り響きそこに縄跳びによる躍動感がプラスされる。カメラは彼/彼女らの足さばきを捉え、まるでダンスをしているかのようにリズミカルに進行していく。

この映画とにかくリズミカルである。反復に次ぐ反復。ワイズマンは200分を超えるような映画を多数撮っているが、本作はたったの91分。気づいたらあっという間に終わってしまう。果たして1日のことなのか(それはないと思うが)、1週間か、1ヵ月か、1年か…といった時間軸がわからないように撮られているが、冒頭の速いカット割りでインサートされたタイマーの示す時間。それに伴うブザー音、反復練習を見ていくと「時間」からは切っても切ることができない映画ということもいえよう。また、抜群のタイミングのショットもさることながら、カラーの質感がとても素晴らしい。

結論としてはボクシング映画としてカテゴライズされるのではなく、このリズミカルで遊びに満ちた映画は「ダンス映画」といえる。無数の運動に満ちたジムから、ラストカットまでの無言の風景が訴えるロングショットにぶっ飛ばされること間違いなし。マイフェイバリットとして挙げていた『セントラル・パーク』や『チチカット・フォーリーズ』よりも好きかもしれない。ワイズマンはまだまだ未見の物があるので少しずつ見ていくことにしよう。ワイズマンというとロバート・クレイマ―も数を見ていかないとなあ。さぼり気味だ。