転落するヒーロー――『スパイダーマン:ホームカミング』感想
ジョン・ワッツ『スパイダーマン:ホームカミング』を見た。
奪われた車を追って広大な土地を懸命に駆け抜けるケヴィン・ベーコン。その奪われた車を運転するのはまだ幼い子供2人組だ。ジョン・ワッツの前作『コップ・カー』はひたすら追っかけっこ。横へ横へとアメリカ大陸を横断するように“逃げる/追う”映画だった。考えてみれば『スパイダーマン:ホームカミング』も、前作と同様に未熟な若者(パーカー)と、成熟した大人(スターク)の物語である。あのケヴィン・ベーコンでさえ、車を奪われ全力疾走していたのだ。ピーターパーカーは摩天楼を縦横無尽に駆け巡ることはできず、借り物のスーツを制御できずに地に落ちてしまう。
パーカーはトニースタークからもらった高機能スーツと、アベンジャーズのキャプテンアメリカの盾を奪った自信でとにかく調子に乗り続ける。自分の力を超えたものを掴んだことで、自分の力を過信してしまい「もっと俺ならできるはずだ」と、危険に首を突っ込んでいく。そして失敗をしてしまいトニー・スタークからも見放され、自分の力のなさを痛感することになる。
サム・ライミ版や『アメイジング〜』のように、摩天楼を軽快に飛んでいくスパイダーマンは一切見られないといっていいだろう。カメラは空転するスパイダーマンを撮り続ける。事件の匂いを嗅ぎつけ必死に町中を飛んでいくスパイダーマンであるが、郊外の住宅街は横に広い一軒家が多く高い建物がない。そのため、上下に揺れながらのフライングは不可能であり、彼の技術のなさも相まって、すぐに地上へ落ちてしまう。その上、地上に着陸したかと思えば木が一本もなく、まるでケヴィン・ベーコンのように走ってみせる。
彼を乗せ走行するトラックは横へ移動していく、必死に学力コンテスト会場に戻ろうとするが、もちろんフライングはできず、自動車の上に乗って移動する。広いアメリカ大陸を巧みに利用した演出であり、彼の未熟さや、ひとつの街のヒーローといった“地に足の着いた”いい演出だ。また、彼が上昇・下降という動作をするときは決まって落ちるときである。武器商人を追っている最中に奇襲されたとき、エレベーターが落ちるのを防いだとき、飛行機が落下するとき…。
これまでの『スパイダーマン』の中でいちばん格好悪く描かれているが、『コップ・カー』で一生懸命疾走するケヴィン・ベーコンを撮ったジョン・ワッツ監督であれば納得いく作品に仕上がっているのではないか。「かっこいい」とか「感動する」ではなく、こういったスパイダーマンもありではないかと感心した。*1
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*1:ただ難点としては、夜のシーンが見づらく、せっかく組み立てのいいアクションをしているのに画面映えしていなかったこと。