ウィルソン・イップ『イップ・マン 継承』感想

17年上期で最も楽しみにしていた映画『イップ・マン 継承』を見に行ってきた。(以下、タイトルを『継承』と略します)

物語の始まりはマイク・タイソンが「あの小学校の土地がほしい」と、部下たちに小学校を襲わせるところから。たまたまその学校に通っている息子いるので、イップマンが弟子たちと自警団を作り学校を守るといったもの。『序章』や『葉問』は物語とアクションが結末に向かって真っすぐと進んでいたが、自警団をやったりというものは、遠回りして結末に向かう寄り道のようなもので、この映画の抱える出来事には直接的に関係がない。では、今作では何を語りたかったのか?それは、これまでイップマンを支えてきた愛(妻)についてだ。

『序章』がカンフーアクションとドラマの比重をバランスよく成り立たせ、カンフー映画を現代によみがえらせた問答無用の傑作だったが、『葉問』は物語のスケールを小さくして、ドラマなんていらないぜというようにカンフーアクションを充実させたことにより、『序章』とは違った魅力の傑作であった。そして『継承』は、『葉問』から奪ったドラマを復活させて物語をあえて引き延ばしているように見えた。『序章』と『葉問』はどちらから見ても、いい意味でお互いを必要としないような作風だったが、『継承』はその2作品を経て重層的に積み上げられた見守る妻の存在が大きな意味をもつ。

※以下、物語の結末に触れています。

イップマンには小学校を守ったり、師匠や息子が襲われたのを助けにいったりと身体が休まる暇もなく大忙し。そんなとき妻が体調不良で病院にいくと悪性腫瘍の疑いが…。彼女がイップマンに病気を告白するときにはすでに遅し、腫瘍が進行してしまい半年の命ということを知る。これまで彼女はイップマンが好き勝手にやっていたときチクリといったりしていたが、基本的には影で見守っていた存在であった。彼女が病に倒れると、マックス・チャンからの挑戦にも出向かず看病に努める。イップマンの献身的な看病にもかかわらず、彼女の様態はどんどん悪くなっていく…。

物語は紆余曲折しながらも、イップマンと妻との愛の物語へと変容していく。彼が本当は何を大切にしていたのか?といったことが、映画として似て非になる『序章』と『葉問』を経由し、ひとつに物語がつながっていく。それまで黙々と木人を相手に撃っていた打撃(音)が愛おしく切ない…。

今回のドニーイェンvsといった戦闘シーンは大きく分けて4つにわけられる。1つ目は序盤のドニーイェン率いる自警団とタイソンの部下との乱戦。2つ目は、マイクタイソンが送り込んだムエタイの達人との場を巧く活用した戦い。3つ目はマイクタイソン。4つ目はラストの詠春拳vs詠春拳のプライドをかけた戦い。正直なところ、いちばん長く時間が割かれる自警団vsはカンフーアクションとしての楽しみはあまりなく、普通のアクション映画の道筋を辿ってしまっているのではないかと心配になった。『葉問』の乱戦のように手に汗握るといったものもなく。しかし、1対1の戦いになると本作は燃え上がる。いちばんよかったのはvsムエタイ。妻とエレベーターに乗ると、いかにも怪しい男が乗り込んできて狭い空間での肉弾戦が始まる。妻を守りながらも押されないドニーイェンのポテンシャルにひれ伏す限りである。そして、エレベータから降りて階段を下降しながらのvsムエタイの戦いは、場を巧く活用し、アクションと連動させていて、本シリーズのなかでも屈指の戦いになっていた。

vsマイクタイソンに関しては、ドニーイェンの窮地といった感じだったが、重心を低くして戦法を変えて挑む。強烈な力のボクシングを詠春拳のしなやかな動きで隙をついていく戦法。3分限定勝負であったが、なかなか見どころのある戦いだった。そして、vs詠春拳に関しては棒術、剣術、体術といったように戦い方にバリュエーションを加えていて楽しかった。ただ、若干ショットが狭いように思えたので、フルショットで撮るってことをしたほうがいいように思えた。vsムエタイが横の構図だけでなく、縦を使って立体的に演出していたのに対して横の構図が目立っていた印象。『序章』や『葉問』のラストバトルのほうがよかったかな。

ファンムービーとしては成功していたし、とにかくドニーイェンのカンフーここにきわまる!!って感じで素晴らしい体術を披露してくれた。特にvsムエタイは今年ベストクラスのアクションを見せてくれたんじゃないだろうか。ドニーイェンは『トリプルX:再起動』と今年2本だし、マックスチャンも『ドラゴンxマッハ!』に加えて大活躍だった。こんな映画が月1本見れるといいですね…

イップ・マン 序章&葉問 Blu-rayツインパック

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