舞い落ちる黄色い葉――『昭和元禄落語心中 -助六再び篇-』第七話・第八話【感想】

例のごとくスロースターターの僕は『ACCA13区監察課』くらいしか追えていなかったのだけど、HDDにたまってた『落語心中』2期を見たら、あまりにも傑作で感動した。1期のときから素晴らしき声優たちの活躍、劇伴とショットの選択など、完璧な作品だと思っていたが、2期は更に洗練された演出の目白押しであった。特に2期・七話の1期とのクロスオーバー。助六とみよ吉の真相といったような種明かし含め、ドラマティックに2期を演出する。七話・八話はたっぷりと「時間」を演出したエピソードになっていた。

「時間」を演出する方法は多岐にわたる。特に時間の演出が見事だった『あしたのジョー2』の監督・出崎統は、繰り返しショット、ハーモニー、画面分割などを組み合わせたりすることで、視聴者にその「瞬間」を目撃させ、感情を揺さぶり時間を演出した。昨年でいえば『響け!ユーフォニアム2』。ステージ上とステージ袖、屋外、という外/内の関係や、写真やキャラクターの回想(瞬間の)と、記憶をモチーフに時間・空間を表象しタイトル通りに響かせた。

そして本題の『落語心中』。七話・八話はキャラクターの記憶が重要なものとなっている。そのあたりは『響け!2』に近しいのだが、これは「青春アニメ」ではない。いうまでもなく助六とみよ吉といった死んでいった仲間。そして死期の近い八雲。青春といった生きる力とは全く逆の死についてのエピソードだった。

入院していた八雲が無事目を覚ますが、まるで死神に取りつかれ、今にも魂を持っていかれそうな死期の近さが伝わってくる。それが、身体の線の細さ、表情の硬さ、肌の白さから見受けられる。特に、助六与太郎)と小夏が橋の上の八雲を見つけた時のシーンは、着ている服のせいか、生気が無く死人のような風貌だ。

彼の死期は近いのだろう。ただ、自分では死ねないといっているよう死に引き寄せられながらも、ギリギリのところで立ち止まっている。七話の冒頭、彼が散歩をしているシーン。生気を失った彼とは対照的に、色鮮やかなイチョウの木々に目がいく。枯れる前に精一杯、美しく色づく木々。もう少しで、死ぬことが出来ない八雲とどうしてもダブらせてしまう。特にそのイチョウの木から落ちた葉が、風に流されるシーンが八雲の姿と重なり感動してしまった。*1

またこの時、風に流された落ち葉をよく覚えておくと、八話のラストにもつながってくることがわかる。助六の感動的な落語の後、八雲の番となったが、ここで警察が飛び入りしてきて中断する羽目になる。そのまま泣かしてくれないのか?と思うところだが、強制的に時間をストップされる。それまで夢心地であった視聴者を一気に現実へ引き戻す。そしてラストカット。一枚の黄色い落ち葉がテーブルの上へそっと舞ってくる。まるで落ちるところはその場所しかなかったような。まるでピタッと時間が止まったかのような……

もちろん七話の落ち葉が風に乗ってここまで舞ってきたというわけではないし、そもそもこんな料亭の中にイチョウの木があるとは考えにくい。確証があるわけではないが、料亭といった場所を考えると、「モチノキ」ではないかと思う。実際にこのお座敷の外には庭園があるし、そこからひらっと舞ってきたといったことが現実的な推測じゃないだろうか。ただこういった現実的な推測よりも、黄色い落ち葉がピタッとテーブルの上に落ちてくる。といったことが感動的なのだ。八雲の足元で風に流される落ち葉。そして、感動的な助六の落語から、八雲へ移った瞬間に止められた時間。そこで待っていたかのように落ちてくる葉。これほど繊細に時間を演出して見せれらたらお手上げもんだし、涙が止まらなかった。七話・八話は続けて畠山守コンテなので、確信犯的な演出だろうと思う。

落ち葉に着目に書いてみたが、もちろん助六の『芝浜』を映写機で見るといった体験。そして、それを三代目・助六が再現するといったこと。こんなことやられては感動しないわけがない。そして、一期に仕掛けられたカラクリがとける七話。確かに一期の物語は八雲が与太郎に話したことが、そのまま映像化するといったものだった。本人の着色があってもおかしくない。

映画になるが、ウェス・アンダーソンの『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)でも、口承によって誰かから誰かへ伝えられていく物語というものを描いていた。『落語心中』も同じように時代を超えて人から人へで伝わっていく物語だ。「落語」そのものが話芸であるように。はたして八雲が付いた嘘は真実ではなかったのであろうか。「本当のこと」ではなかったとしても、人を守ろうとしてついた嘘にこめられた思いは紛れもない真実だったはずだ。人から語られたことは、例え「本当のこと」でなくても、その人の想いは真実だろうし、そうやって伝えられた人たちもそれを真実として伝えていく。一期と二期がお互いにお互いを補完し合っていく。とても愛おしい物語だ。

*1:このシーン(俯瞰ショット:八雲と○○を上から捉える)、水たまりに雲が反射して動いていることがわかる。ここからも何かが「動くこと」が明示される。