嘘っぽさがつきまとう――ロバート・ゼメキス『マリアンヌ』感想

ロバート・ゼメキス『マリアンヌ』たいへん素晴らしかった。ゼメキス新作は『フライト』ぶりに鑑賞。昨年『ザ・ウォーク』をスルーしてしまったのだけど、そちらも見なきゃな〜と。

スパイものというと昨年スピルバーグの『ブリッジ・オブ・スパイ』があったのだけど、スピルバーグが撮るとスパイというか、「光」についての映画になってしまう。それが悪いとかではなく、もちろん素晴らしいのだけど。さて、対して『マリアンヌ』。これは正真正銘のスパイ映画だった。何よりもいかがわしく嘘っぽいところ。その嘘っぽい物語、展開、画面が、緊張感を与える。ときに「こんなのデタラメだ!」と声を上げたくなるほどに。気づけば映画にのまれ、翻弄されれていく。そして、その嘘っぱちが誠になる瞬間を目撃する。

この「嘘っぽさ」は、冒頭のブラッドピットの登場シーン(ワンショット目)から始まってくる。一面砂漠のショット上部からブラッドピットが降下してくる。そして、砂漠に着地、ゴロリと受け身をとる。唐突にブラッドピットが登場してくるのだが、この砂漠のシーン。妙にCGっぽさを感じる。そして、降下〜受け身の動作をする彼もとてもCGっぽさ(嘘っぽさ)が感じられるのだ。*1

このオープニングは、これから始まることは嘘であるといったことを宣言しているようにも思える。「スパイ映画」であるのであれば、描かれていることは相手をだますこと。つまり、嘘をつくことだ。この嘘っぽさは「スパイ映画」としてのオープニングに相応しいのであろう。そして、物語は着実に進んでいき、初めて会うマリアンヌとも問題なく嘘をつき夫婦を演じる。彼女は既にその町に精通しているので、久しぶりに会った夫婦がどんな行動に出るのか?言葉使い(訛り)に気を付けなければならないのか?といったことを、完璧にこなし、ブラッドピットにも要求する。そういった完全な作り物の嘘によって仮装するのだ。

その嘘の夫婦が船頭していく物語もまたデタラメな展開を見せる。夫婦仲良くカフェにいってみると、過去にブラッドピットを尋問した人物を見つけ、彼に「バレた」と感じたブラッドピットは建物にはいっていく彼を追って絞殺してしまう。アップショットから、唐突にブラッドピットの手が(身体が)画面を横切り、画面の端へ衝突する。嘘っぽさからの緊張感。そして突然の暴力。観客を画面に引き付ける序盤のシーンだ。

カードを鮮やかに切るブラッドピット。建物外の爆発から、建物内の銃撃戦までの鮮やかな動作運び。戦時中の出産シーンのデタラメさ。「落ちるな」と思えば戦闘機が自宅スレスレに落ちてくるダイナミックさ。人を探して監獄につかまっていると聞くと、次のシーンには監獄に潜入し兵と交戦していまったりと、ありとあらゆることが突然やってくる。映画は歴史を2時間に圧縮して観客に見せているわけなので、それは突然に決まっているし、いかにも嘘っぽい運びになるので、それを巧く活用して撮っているのであろう。自分の真意を覆い隠し、相手をだましていくスパイの本分は、例えば砂嵐で覆い隠される車中で行うセックスや、マリオンコティアールが最後まで演じ続けながら、真意を曲げなかったことに繋がっていく。

彼女の手記が読まれるとき、それまでいかにも嘘っぽい映画が誠になった瞬間であった。記憶を記録すること。最後までスパイ映画に徹したこの作品にとても感動した。

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*1:CGと合成だろうけど、そこまで知見はないので実際にどうかはわかりません。