時間と空間の生成術――ペドロ・コスタ『蓮實教授との三時間、日本の列車の車中にて』

ツイッタ―にも書いたんですが、何度か繰り返し読んでいる『蓮實教授との三時間、日本の列車の車中にて』。これは『論集 蓮實重彦』に収録されている映画監督ペドロ・コスタの寄稿文。本論集のなかでも、短い文章で、さらっと読めてしまうのだけど、ひとつの空間で複数の空間と時間を生成するテクニックが無駄なく文章化されていてとても美しい寄稿文だ。

新幹線のシートでの三時間を蓮實重彦と一緒に過ごしたといった話なのだが、蓮實との会話シーンは殆ど出てこない。ペドロ・コスタの蓮實対する思いが馳せられている。車窓から見る景色のように、ペドロ・コスタのフィルターを通して物語は深層に沈んでいく。彼の思考によって車中だけでなく、新たに別の空間と時間が生まれていることになる。

世界の車窓から」という番組があるが、列車の窓から風景を楽しむというのは旅の楽しみのひとつのだろう。その「風景」が、彼の記憶・思考を通して私たちの前に文章として表れているのだ。そして彼は殆ど彼と話していなかったことに気づき風景(思考)の旅から、現在へ帰っていく。そして蓮實の一言で、また映画史といった新たな時間に引き戻されていく。

こういった時間と空間を創造するテクニックは普遍的なものだろうと思うが、ここまで美しく表現できるのは彼の才能なんだろうなと思う。実際に昨年の『ホース・マネー』でも、複数の時間や空間は私たちの前に現れていた。それも美しく。

書いていて『響け!ユーフォニアム2』の5話の三好演出回を想起した。あのエピソードの演奏シーンは『蓮實教授との三時間、日本の列車の車中にて』と似たようなテクニックが使われている。ひとつの空間と別の空間(記憶)とのモンタージュにより、「響く」といったことを演出した。記憶だけではなく、ステージとステージ袖、そして屋外といったようなショットの羅列により、とてもうまく時間と空間を演出した回だった。ペドロ・コスタにせよ、三好にせよ、ほんとに美しいものを作ると、改めて思ったのだった。

論集 蓮實重彦

論集 蓮實重彦