これぞ日本のカルト・ノワール!――中平康『猟人日記』(1964)感想
中平康って『狂った果実』(1956)が有名で、大学生のころに「ヌーヴェルヴァーグに影響を与えた」とか評判で『狂った果実』を見たんだけど、全然面白くなくて「まだまだ修行が足りないんだな」とか思ってた。社会人になって見返す機会があったので再見したのだけど「やっぱこれ面白くなくない?」ってまったくノレなかった。これもまだまだ「修行不足なんだろうあ」とか思いながら、『月曜日のユカ』(1964)を見たりしながらも他の作品へ触手が動いていなかった。そんなこんなで去年に至り、アマゾンプライムでたまたま見た『誘惑』(1957)がメガヒット!実は中平康ってものすごい監督なのかもしれないと追っていくことにした。
そしてなんやかんやと『猟人日記』(1964)。中平康は『誘惑』やスクリューボールコメディの傑作『あした晴れるか』(1960)など、とびぬけて明るい作品に対して、芦川いづみを娼婦のように扱ってイカれた男の家に泊めさせる『結婚相談』(1965)など陰鬱な作品があるが、『猟人日記』は後者にあたり、陰鬱ミステリーで120分を超える高カロリー映画だ。
※本作品ミステリーにつき以下ネタバレ注意
ある日、女性が自殺する。視点はその女性と関係をもった男性へ移り、どうやら女と遊ぶために一流ホテルと安アパートの二重生活をしているらしい。彼は寝た女を「猟人日記」と名付けられた彼の日記に赤裸々に綴っていく悪趣味を持っている。そして関係を持った女が次々に殺されていき、気づいたときには自分が容疑者にでっち上げられてしまう。そして映画も半分過ぎたころから、彼の弁護士へと視点が移行し、彼の容疑を晴らす方へ物語が進んでいく。
wiki情報なので実際にそう呼ばれていたか不明だけど、増村保造、岡本喜八、市川崑、沢島忠、鈴木清順と共にモダン派と称されていたらしい。確かに空間設計なんて見てもそれらの監督と通じるものは少なからずあるような気がするし、思わずギョッとするような美術のテイストからもそう思える。『誘惑』なんかは美術サロンが舞台になっているが、『猟人日記』にも気が狂ったテイストの絵画が出てくる。あとリンチの『イレイザー・ヘッド』に通ずるような奇形児(これがまたグロテスク)が出てきたりと、正気で撮っているのであろうか?と疑ってしまうくらい気が狂った展開になる。
ネタバレになってしまうが、物語としては『ゴーン・ガール』に近しいだろう。『結婚相談』でも思ったが、美術などに頼りきりで奇妙な空間を作り出すのではなく、ノワールのような黒と白の扱い方、空間設計やショット、音響効果を合せながら、狂った時間を制御している。前段で「正気で撮っているのであろうか?」と書いたが、まあ正気でなければ撮れないだろうと思う。まさにカルト・ノワール。
私のように『狂った果実』で断念してしまった人も、それ以外の中平康いまのところ殆ど当たりなので食わず嫌いのままでなく手を取ってみるもいいと思う。プライム外れてしまったけど、アマゾンで『誘惑』あたりから見るのが吉かと。中平康の陰鬱系だと、吉行淳之介原作の『砂の上の植物群』も相当ヤバい物件だと聞いているので何とか見てみたいものだが……。取りあえず次は『混血児リカ』あたりを見てみようかと。
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