アイドル成分100パーセント! ‐ 山下敦弘『超能力研究部の3人』感想

当時タイミングが合わず見れなかっ山下敦弘『超能力研究部の3人』(2014)がHuluに入っていたので、2週間無料トライアルを有効活用して見た。短めの感想というか覚書

「ぜんぶウソ。っていう、ホント。」

映画はフィクションであれドキュメンタリーであれ「映画」という作り物として存在する。「この映画はリアリティがある」といった発言は見ている人がどこに着目しているのかで事情は変わるかもしれないが、たいていは感じるリアリティなんてウソっぱちで「リアル」に見えるように嘘をついている。しかし時にそのウソがとても生々しくに見えることがある。そんなふうに観客を魔法にかける底知れないパワーが映画にある。

さて、山下敦弘『超能力研究部の3人』は、乃木坂46のメンバー3人が出演しており、超能力研究部のでの日々を映画にするというフィクションの場と、ドキュメンタリーのていで撮られたドキュメンタリーシーンの2つで構成される。一見すると撮っている映画のシーン(フィクション)とオフシーン(ドキュメンタリー)と2つの階層から映画が成り立っているように見える。しかし、山下敦弘はフェイクドキュメンタリーの名手でもあり、過去には心霊ビデオ『めちゃ怖』シリーズをリリースしている。『超能力研究部の3人』はフィクションとドキュメンタリーといったていながらも、フェイクドキュメンタリーなのだ。

3人はそれぞれ悩みを抱えている。秋元真夏は演技が上手くいかないこと、罵倒されてもなかなかそれに立ち向かえないこと、「考えていないこと」を思いっきりdisられ悩んでいる。生田絵梨花は3人のなかでいちばん演技が上手いといわれながらも、ただ演じているだけで、本人は頑張っているのに「うまくいかない」と悩んでしまう。橋本奈々未はまるで映画とは関係のない外の世界について悩んでいるようである。彼女ひとりだけ外れている。

物語をだらだら書いていると長くなるので端折って本題に。冒頭に書いた映画のコピー「ぜんぶウソ。っていう、ホント。」について。ぜんぶウソとはこの映画そのものを指す。それはフェイクドキュメンタリー(作り物)ということだ。しかしホントってことは何だろうか。それは映画の性質と「アイドル(偶像)」の本質に関係してくる。映画といった虚構。アイドルといった虚構。どちらも作り物であり、乱暴にいうとどちらもウソっぱちなのだ。いくらフェイクドキュメンタリーといった言葉を重ねてもフィクションには変わりない。いくらアイドルのオフシーンといってもそれはアイドルにしか過ぎない。アイドル自身が虚構なので、アイドルを見ていることそれはウソを見ていることになる。ただ、アイドルは確かに存在している。虚構かもしれないが、演じている彼女たちを見ることが「ホント」なのだ。ウソでありホントの存在。少しややこしいことかもしれないが、映画の本質とも似ている。山下敦弘はそれを理解したうえで、アイドル映画でしかない映画を作り上げた。これはホントに頭が上がらない。

秋元がヤンキー役の2人に罵倒されるシーンがあるが、「一生懸命やってる」くらいしか返せていない。ブス、歌下手、演技下手、ダンス下手と罵られても「がんばっている」としかいえないのだ。これがスポ根モノであれば、「相手を見返してやる」といった展開になるだろうが、そうはならない。それはアイドルが成長を必要しないこと(変わらないこと)、その永遠性こそが価値があるとされているからじゃないだろうか。あと、すごいシーンは、橋本奈々未がアシスタント(大学の先輩)と今後について語るシーン。今後の身の振り方について心情(深層)を語る橋本であるが、先輩の彼女から電話がかかってくることで少し変わってくる。先輩の彼女と話し出すと次第に雨がやんでくる。この変化は橋本の心境の変化を描いているのではないだろうか。映画での水場はその人の精神を語る場になりやすい。心情(深層)から、うわべの付き合い。表層へ帰っていく。彼女が電話を終えると完全に雨が止まっているのがまた素晴らしい。この奇妙なシーンが撮れているからこそ海岸で泣いている彼女がとても美しく儚い存在に見えるのだ。(今見るとファンの人は考えることありそうなシーンですね)

それとギャグもしっかりある。秋元のキスシーンをめぐってマネージャーとトラブルになるが、女性マネージャーよりも偉いマネージャーが来てからの傘が飛ぶシーンや、さんざんスタッフをほめてからの「キスはだめだ」、最後の「秋元!キスシーン。やっていいよっ!」というシーンのバカバカしさが愛おしい。この作品では宇宙人すら出てきてしまうが、この映画においてホントにウソっぽい人は彼だけなのである。

山下敦弘マイ・バック・ページ』以降は『もらとりあむタマ子』と『味園ユニバース』かなと思っていたが、『超能力研究部の3人』もかなり面白かった。『ぼくのおじさん』も期待だなー。乃木坂別にファンでもないんだけど、この3人なら橋本奈々未がいちばん好きですね。面白かった!

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