囚われ続ける男/デット・コッチェフ『荒野の千鳥足』を見た。
僕は今日はトコトン飲むぞー!って時は意外とセーブしてしまったり、先に誰かが潰れてしまって自分が酔えないことが多い。逆に「軽く一杯飲もうぜ」と何となく誘いにのってしまい一杯どころか”いっぱい”飲んでしまって結局朝まで…というシチュエーションの方が多かったりする。お酒による失敗談は笑い話になりますが、何を間違ったか数日間でお酒による全ての失敗談を、全て体験してしまった男の話を描いた『荒野の千鳥足』を見ました。
『荒野の千鳥足』は「ランボー」のデット・コッチェフ監督が1971年に撮った作品ですが、これまで日本公開されておらず国内版DVDも販売されていませんでした。(海外版はあるようです)それが、何故か2014年に40年以上の沈黙を破って公開決定。名古屋では上映されるかな〜と期待していたらシネマテークさんで上映するとのことで駆け足で劇場へ。
ストーリーは至ってシンプル。オーストラリアの田舎で教師をしている主人公ジョンは、赴任先からシドニーへ行く為にある街に泊まるのですが、街の人の誘い・お酒・ギャンブル・女の誘惑に負けシドニーに行けず、様々な体験をすることになる。
街の住人が全員飲んべえで「俺の酒を飲めんのか!!」といった勢いでどんどん酒を奢られる。なんでこんなにココの住人はおせっかいなんだ?と心の片隅で思いながらも、アルコールの魔力にどんどんハマっていき奈落の底へ落ちて行く…まさに「お酒による失敗談を映画で語ります!」といったもので、お酒、ギャンブル、女、アイデンティティの消失…と思い出すだけ吐き気を催す体験に面を喰らう。
とにかく酔っぱらいのバカ騒ぎをいかにバカっぽく撮るか?といったもので、破天荒でバカなやり取りが続く。
街の住人「もう一杯どうだ?」
ジョン「もうやめとく」
街の住人「じゃあマスター。もう二杯頼む」
ジョン「!?」
コメディのようなやり取りがずっと続くので、バカげた映画苦手な人はNGかもしれませんが、飽きずに最後まで見て行くと、実はちょっと怖い映画だったということがわかる。
ジョンは会う人たちに「この街は初めてか?」と聞かれ上記のやり取りがずっと続いていくのだが、ビールを永遠に飲む、潰れて朝目が覚める、街を出たくても何故か出れない(お酒版『サイレント・ヒル』)…と無間地獄のように、街から逃れられない。映画が進むと、そもそも彼自身がそう言った性質の人間だったことがわかる。彼は女を口説くときに「俺はイギリスに行きたいんだ」と言ってみたり、教師でいながら自分の職業を「○○の奴隷」と呼んだり、シドニーにいる彼女に会いに行くと口では何かをしたいようなことを言うが、実際は現状から逃れることができない檻に囚われた人。結局、街から出ようにも思い通りにいかず、最後は休暇が終わって元にいた街に戻ってくる。どんなに逃げようとも、教育機関にも逃れられない。そして極めつけはラストカットで、1stカット同様に撮られたラストカットがこの映画を円環構造であると物語っている。
それと、動物○護団体がいたらこの映画のフィルムを燃やされるんじゃないだろうかというシーンがあって、カンガルー狩りをするシーンなんですが、恐ろしく生々しい描写が撮影されており(エンドローグ後に「プロのハンターの映像を使っている」といったようなテロップが入る)、まるでロケ先で本当にカンガルーを殺しているように見える。(一部はロケ先で本当に撮っているのだと思うけど)お酒、ギャンブル、女、そして、バイオレンスと問題作の烙印を押された作品と言っていいだろう。なんとなくこれまで日本で上映されなかったのかはわかる気もする。
最後になりますが、僕はこの映画大好きでした。お酒の失敗という教訓映画というよりも、どう行動しようが人には逃れられない何かが存在するんじゃないだろうか?という問いかけのように思えた。まあ、そんなこと考えなくても馬鹿映画として素晴らしい作品ですので、見れる機会があれば見て頂きたい作品です。僕はなんとか海外版のDVDを手に入れようかな〜と検討中です。おわり