白石晃士の最高傑作なのでは?『ある優しき殺人者の記録』※ネタバレあり

初の韓国を舞台とした、白石晃士の『ある優しき殺人者の記録』を見てきました。

まさか白石作品で泣かされるとは思っても見なかった!これはタイトル通り”優しい”映画です。いや、タイトル以上に人を包み込むような優しさを持っている。今作は『オカルト』や「コワすぎ」シリーズなどと同様にPOV式の映画で、90分程度の作品ですが、ワンカット(一部疑似)で撮られています。場面の移り変わりとしては、①路地裏 ②廃アパートの中 ③路地裏パート2 ④繁華街 と殆ど移動しなく、ほぼ②での出来事。

ストーリーは、事故で幼馴染みを亡くしてしまった主人公が、「○○人を殺せば、幼馴染みを甦らせることができる」という神の声に導かれ犯行を及ぼすまでを描いています。神のお告げを実現させる為に、犯人はインタビューアーと日本人カメラマンを招き、その一部始終を撮らせます。本作は過去作への自己オマージュがつまっており、神の声に導かれるという展開やラストシーンは『オカルト』想起させるような展開だったし、密室で人を殺す・拷問するといった内容は『グロテスク』を見ているよう。また、『超・悪人』への目配せ、「コワすぎ!」の劇場版ばりの○○も見せたり、過去作のエッセンスを凝縮して90分にまとめた集大成的な映画である。


POV式で殺人鬼のそばで一部始終を撮るというのは、『ありふれた事件』(92年)という傑作があり、白石監督は『超悪人』でレイプ魔。『オカルト』で気が狂った日雇い労働者。『バチアタリ暴力人間』では暴力人。というように、オマージュを捧げながら、”人が何かに執着する”といったものをひたすら撮ってきた。本作も、そういったオマージュは感じるが、これまでとは一線を画している。それは、このシーンのラストシーンが物語いる。そして、その効果を高めているのは、最高傑作と謳われる『暴力人間』に一番近しい関係にあるのではないか?と感じるからだ。

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ニコ生で白石晃士の『暴力人間』を見た。 - つぶやきの延長線上

前にもブログで書いたけど、『暴力人間』に感じたのは、「生々しさ」である。ただ、あの映画は本当にチープにしか撮れなかったという、一回しか起きることない、ある種の”奇跡”が働いていた作品。白石監督の眼鏡が壊れていたり、暴力シーンで鉄柱にぶつかったり、ドリルドライバーが首もとスレスレに…と言ったシーンは、メジャーでも撮れるだろうが、あの作品にしかない”何か”の力が働いている。それに対して本作は、舞台を外国に移したことで妙な生々しさを際立ている。


今年の始めに黒沢清が『セブンスコード』で、初海外(ロシア)で撮って、どの土地に行っても「”黒沢清”であること」を証明したが、『ある優しき殺人者の記録』ではそう言った凄さというよりも、『暴力人間』とった時のような奇跡的な力が作用していたように感じた。特に、白石監督が話す韓国語と韓国人インタビューアーが日本語を話す妙な生々しさ(リアリティ)。その効果として、”切羽詰まっている”や、”本当におびえているように感じる”と言ったような効果が生まれている。

「初めての場所で映画を撮る」という試みが、今作の”大量殺人鬼を撮る”という題材に見事にマッチし、相乗効果を得るとともに、昨年公開された『あの頃、君を追いかけた』のような青春映画にもなっていると感じた。『あの頃、君を追いかけた』は、高校時代好きになった人との想い出話が未来につながってくるという、典型的なおセンチ映画で、最後にマジで号泣の優しくて最高の映画だったのだが、この映画のラストもそニュアンスが似ている。まあ、なんで青春映画なのか?というのは、完全なネタバレになるので避けますが、とにかく白石監督ファンであれば全員集合!であり、初めて監督の作品に触れる人でも何かしらの満足感を得ることが出来ると思う。

『殺人ワークショップ』 - 上映 | UPLINK

僕は日曜日に見てからずっと興奮していて、「白石監督のベストだ!!!」と言いたくて言いたくてしょうがないのだが、来週には東京のUPLINKで『殺人ワークショップ』が見れるし、気分がコロコロ変わるので慎重に発言しようと思っている。しかし、それくらい凄い映画だし、過去作を内包しつつ新たな境地を見出すというのは、まさに最高傑作と言っていいだろう。これ以上の作品が果たして作れるのか?と思うくらい凄い。そんな映画だーーーー!

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