映画の到達点は?『オンリー・ゴッド』※ネタバレあり
「この映画の到達点はどこだろうか?」
個人的に映画には到達点が存在すると思う。それは、ストーリーであれば、役者の演技、撮りたい画であったり狙った意識的なもの。例えばミステリー映画だったら、種明かしがわかったその瞬間やそれまでの過程だろうし、アクション映画だったら、アクションそのもの(殴り合う)だと思う。映画を挙げて考えると、昨年僕が好きだった2作品のうち『ザ・マスター』は、支離滅裂な辻褄の合わないようなストーリー構成されているが、エモーショナルな画面の迫力が到達点だったと思うし、『ホーリー・モーターズ』では、一人で様々な役柄を演じるという役者の演技力やストーリー構成は勿論のことだが、「インターミッション」があの映画の到達点だったのでは?と感じる。
映画には様々な狙いが存在する。それぞれの映画の到達点に出会った瞬間、僕は震えるし「この映画見て良かった!」と思う。それでは、今回の『オンリー・ゴッド』の到達点はどこであったのだろうか。
■あらすじ
ビリー(トム・バーク)とジュリアン(ライアン・ゴズリング)兄弟は故郷アメリカから逃げ、タイのバンコクでボクシングジムを経営しながら、その裏でドラッグビジネスに手を染めていた。ある日、兄ビリーが若い娼婦(しょうふ)をなぶり殺しにした末、彼女の父親に殺害される。犯罪組織を仕切る兄弟の母親(クリスティン・スコット・トーマス)がアメリカから急行し……
先に僕の結論を言ってしまうと、『オンリー・ゴッド』の到達点は「神の赦し」である。*1それは、ラスト手前のシーンで、この映画の象徴であるタイの警官チャンがジュリアンの「両腕を切り落とす」瞬間である。
この映画では、罪を犯した者が次々に警官チャンに殺される。彼の強さは次元を超えている。近年で言えば『ザ・レイド』のマッド・ドッグが二人掛かりでやっと倒せるほどの強靭さをもっていたが、チャンはそう言った類の強さを超えている。絶対的な強さだ。それは例えば、RPGゲームでストーリーの為に、絶対に勝てないボス設定の強さでありどんな方法を使っても勝てない。そんな強さを誇っていた。
この強さは、チャンが別次元のものであることを語っていて、正義を執行するもの=神を示している。
さて、何故ジュリアンの「両腕を切り落とす」ことが映画の到達点「赦し」となるのか?それは彼が罪を犯していなければ成立しない。
ジュリアンが犯した罪は彼の母親によって語られるが、「父親殺し」の罪を負っている事である。その為、国を追われバンコクへ逃げ付いたのである。そして、母親が殺され、母親の胎内に腕を突っ込む事で罪を自覚しジュリアンは裁き(両腕を切り落とされる)を受ける事になるのだ。
映画の作り方なんてそれぞれだと思うが、レフン監督が伝えたかったことは「両腕を切り落とす」カットにつきるんじゃないだろうか。
だからそこまでに達するシーンは、まるで神が見ているかのように、非常に客観的な作りをしていたと思う。直接的なゴア描写はなかなか見せてくれなかったり、見せ場も1テンポ遅れて見せたりと、ゴア描写の快感を徹底的に排除していたように感じられた。ジュリアンの母親を殺すシーンでフェティッシュな武器を持ってしても、せいぜい腹を切り裂くくらいだし、中からはらわたは飛び出ない。私たちは見られないが、神はどこかで見ているということを示唆しているということではないだろうか。チャンとの格闘シーンで頻りにボクシングの銅像をカットインさせていたのは、その演出の極みだったと思う。
そして、この映画の特徴として挙げられるのが変態的な画面構成。少しエフェクトをかけたようなドラッギーな赤・青のライティング。重低音を響かせ見る者の緊張感を持たせる電子音BGM*2キューブリック的なシンメトリーな画面構成*3と、観ている者の不安を煽り日常でないものなにか怖いもの。これらは、神が見ている景色を差していたのではなかろうか。
ここまで感想を書いていると、まるで絶賛しているように思われそうだが、『ドライヴ』は最低だったし『ブロンソン』『ヴァルハラライジング』は「なんかノレない」とレフン恐怖症に陥った僕は、正直『オンリー・ゴッド』も全くノレなかった。確かに、タイの街をただ歩いて、突発的に何か起こるってのは面白いと思ったし。バシっと決まったシーンでアクションを撮ろうとしたんだろうなーと思うシーンは山ほどだったんだけど、何故かダサい。(特にファイティングポーズ)そして、あのハッタリBGM。
こればっかりは人それぞれ感性の違いがハッキリする。個人的は神なんかが見てなくていいから「俺らにもっとゴアシーン見せろよ!」と憤りを感じた。
ただ、二点好きなところがあって、一点目は絶対的な強さを誇った「チャン」である。チャンの強さが語られない点はとてもミステリアスで、訳の分からない怖さを感じることができた。それに、冒頭の女がオナニーをするシーンで、彼女が手を股に入れる瞬間。一瞬だがホクロが見えたのだ。これはなんともエロティックである。しかしながら、すぐにホクロを隠してしまったので、もう少し撮ってよ!と言う不満が募ってしまった。
せめて、一回でも行為(ゴア/セックス)そのものを、まともに撮るシーンがあれば90分で収まっているし僕はノレたのだと思う。
僕は嫌いだということは差し置いて好きな人は好きだろうし、こうやって賛否両論がおこるのは「ある意味映画的なのでは?」と思ったりしたので、気になった人はどんどん見ればいいと思います。
*1:原題の『ONLY GOD FORGIVES』から、そのままちょうだいした結論となるが…
*2:音楽担当は『スプリング・ブレイカーズ』のクリフ・マルティネス。