『アーティスト』を観ました。

あらすじ:1927年のハリウッドで、サイレント映画のスターとして君臨していたジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)は、新作の舞台あいさつで新人女優ペピー(ベレニス・ベジョ)と出会う。その後オーディションを経て、ジョージの何げないアドバイスをきっかけにヒロインを務めるほどになったペピーは、トーキー映画のスターへと駆け上がる。一方ジョージは、かたくなにサイレントにこだわっていたが、自身の監督・主演作がヒットせず……。(yahoo映画より)

感想:本年度のアカデミー賞作品賞受賞作品。ミッドランドスクエアシネマにて。初日レイトショーだったからか、殆ど人が入っていませんでした。オスカーと言っても、サイレント映画なのでなかなかこの映画を求めて観に来てる人以外は、観ようと思いにくいでしょう。さてさて、今年の作品賞のなかでは、スコセッシの『ヒューゴ』かかこれかと2作の戦いでしたね。アメリカ人の撮ったフランスか、フランス人の撮ったアメリカか、どちらも1900年初期の時代を描いているともあってそこそこ話題のある年だったと思います。そしてどちらも犬が出演していました。アーティストのアギーがパルムドック賞を受賞したおかげで、スコセッシじいさんが怒っていましたね。うちの〜のほうがいいに決まってるって(名前忘れた)。僕はヒューゴを観てないので、とりあえずアギーに一票入れときます。可愛かったし。まあ、共通点の多い二作でしたが、決定的に違いがあります。それは、3D VS モノクロ(しかもサイレント)と真逆もいいところの戦いでした。先にも行ったように僕はヒューゴを観てないため、内容を特に比べられません。今のところノミネート作品は、『マネーボール』、『ツリーオブライフ』、『ものすごく‥』しか観てません。(ちなみに『ミッドナイトインパリ』は観るつもりです)まあ、この中だったらダントツ『マネーボール』ですかね。しかし、選ばれたのは、王道の古くて懐かしい映画のアーティストでした。捻りもへったくれもない。去年の英国王といい、近年は凄く保守的な選考しかしませんね。08年に『ノーカントリー』がとったのは何だったのかと。

なんだかアカデミー賞の前談が長くなりましたが、結論から先に言うと、面白かったと思います。映画お約束の綺麗な3パートにわかれてましたね。

■1パート
サイレント映画スターのジョージが活躍する全盛期=栄光
■2パート
サイレント→トーキー映画への時代が流れていき、自主映画を失敗したジョージは破産=挫折
■3パート
ペピーの愛によって、ジョージが再び映画界へ復帰

なんとも王道なストーリーで、最後はみんな号泣しちゃう心温まるストーリー。よくあるネタなので泣きやしなかったが‥‥
正直否定しようとしても、普通に良いストーリーなので馬鹿にするのも馬鹿らしいし特に言いたいこともないんだけど、あえて言えば、サイレントからトーキーに移る描写が弱いんじゃねーのと思った。只、そんなパート入れたら、ややこしくなるし長くなる。それ以上に、そう言うのを伝えたい映画ではないので、そんなことを突っ込むのはナンセンスなんだけど。でも、いいシーンも数々ちりばめられていました。殆ど予告で出てるシーンですけど。(正直予告だけでこの映画は語れます)予告シーンになくていいところは、この映画途中でサイレントじゃなくなるんですよ!ってところ。初めの一回目が、上記2パートの最初のほうですね。楽屋にいるジョージがコップを置くと「コンッ」と音が鳴ります。それで「あれ?あれ?」となり、外の音も聞こえるのに、自分の声だけ聞こえないんですねー。多分、サイレントからトーキーに移っていく様、ジョージが時代に取り残されている様を表現している演出でしょう。この演出はなかなかこじゃれてて、一番いいシーンだし、唯一捻って作ったところじゃないかな。(他にも捻ってたら、僕の読解力不足ですね)それとラストシーンのダンスシーンはかっこいいじゃーんと、微笑ましく観れたし、映画的に悪くないしやっぱり面白かったと思うんです。
只、2010年代に入ってこの映画をオスカーにする必要ないし、いい映画だけど、賞なんぞ取れる力は持ってないと誰もが確証しているんじゃないでしょうか。先に言っていますが、『マネーボール』の方がよっぽど良い映画でしたし、『ファミリーツリー』とか『ヘルプ』とかもありました。でも、原点回帰、懐古厨万歳みたいな映画が選ばれてしまったという、選考した人たちのレベルの低さを露呈する年だったと言わざるを得ない。悪くないけど、もっっと先見据えた映画選ぼうよと感じたレイトショーでした。

評価点:61点

※4月8日追記分
サイレント映画からトーキー映画へというネタで言えば、1950年の映画で『サンセット大通り』という映画があります。この映画は、サイレント時代のスター女優とある脚本家がひょんとしたところから出会い、いろんな事情が噛み合って、女優の家へ住むことになり、気づいたら女優に好かれていき‥‥って少しキューブリックの『ロリータ』に近い展開になります。『ロリータ』は、『アーティスト』ほっこりとしているストーリーですが、『サンセット大通り』は、過去の影響にいつまでも縋っている女優の狂気を描いた映画です。その過去の栄光への憧れが、ある事件を引き金にいつの間にか幻想へ変わっていき、ある意味ではハッピーエンドになるっていう映画です。素晴らしい傑作映画です。デヴィットリンチの『マルホランドドライブ』もこの『サンセット大通り』へのオマージュも含まれているし、気が向いたらレンタルをおすすめします。