『パンズ・ラビリンス』を観ました。(二回目DVD)

あらすじ:1944年のスペイン内戦で父を亡くし、独裁主義の恐ろしい大尉と再婚してしまった母と暮らすオフェリア(イバナ・バケロ)は、この恐ろしい義父から逃れたいと願うばかり自分の中に新しい世界を創り出す。オフェリアが屋敷の近くに不思議な迷宮を見つけ出して足を踏み入れると、迷宮の守護神が現われ彼女に危険な試練を与える。(yahoo映画より)

感想:悲劇的な現実によって感受性の高い少女が、妄想の迷宮に迷い込んでしまうダークファンタジー。よくダーク版のアリスなんていわれるけど、恐らくギレルモ監督は、”ファンタジー”ネタを使ってスペイン内戦が描きたかっただけと思われる。妄想の重病度は別として、同じく少女の妄想を描いた作品と言えば、テリーギリアムの『ローズインタイドランド』、ピータージャクソンの『乙女の祈り』、スペイン内戦と言えば、ビクトルエリセの『ミツバチのささやき』と軽く挙げただけでたくさん作品がある。その中でも『パンズラビリンス』は、ファンタジー要素が強い。しかし、その分スペイン内戦の辛い現実が効いてくるので、「ジャケット可愛い女の子だし、アリスインワンダーランドみたいかな?かりてみよー」なんて借りてみたら、何だこの映画!金返せ!と、思う方々が続出する思うし、実際そういう人がいただろう。

この物語の舞台は、1944年スペイン内戦にて、フランシスコフランコによって勝利を治めたファシズム陣営と、共産主義派のレジスタンス(旧第二共和政になるのかな?)がある森で交戦する数日間を描いている。このスペイン内戦時に主人公のオフィリアの父親が亡くなっているらしい。そして、母親はファシズム陣営の大佐と再婚し、この地で男の子を出産することになる。この映画の”妄想”は、全て主人公オフィリアのものである。父親が戦死し、交戦まっただ中の戦場に放り出され生活するんだから、そりゃあ妄想に走るのもしょうがない。それに、この親父(大佐)は、母親のことをまるで考えていない。自分の息子さえ無事ならそれでいい主義である。そんな最悪の中、オフィリアは不思議な迷宮に迷い込んでいく。そこにはパンと呼ばれる守護神が現れ、自分のことを地下の王女様だといい、危険な三つの試練を与えるのだ。

[オフィリアに与えられる三つの試練]
①森の大樹の幹に住む、カエル?の腹の中から鍵を取り出す。
②豪華な晩餐会場で、一切飲食物に触れず剣?のようなものをとってくる。
③無垢な者の血を捧げる。

この試練の①、②については、オフィリアの妄想の中で展開していく。①のカエルにしろ、②の化物にしろ物凄く気持ち悪い。でも何処かキラキラしている。さすが、アカデミーの美術賞やメイクアップ賞を受賞しているってのがわかるところですね。悲惨な現実も気持ち悪い妄想も美しい映像があって耐えられるもんだなと思った点です。んで、③の試練ってのは、そのままオチに繋がっていくんだけど、このオチが賛否両論。恐らく、アリスインワンダーランドみたいな映画を望んでいる人からすれば、最低!のバッドエンドと言うだろうし、いやあれは、オフィリアちゃんの夢が叶ったんだからハッピーエンドなんだよと言う人もいるだろう。個人的には、はっきりハッピー、バッドエンドとは一概に言いにくいオチだなと思う。だからと言って白黒つけない訳ではないが‥‥。確かに、オフィリアが望んだ世界に行くことは出来たが、観客側から観れば、なんて救いようのない映画なんだと悲しい気持ちになるもんである。だから、”最低のハッピーエンド”とも言えるし、”最高のバッドエンド”でもあるんじゃないだろうか。

[ラストについて]
①オフィリアが死んじゃったのでバッドエンド(観客視点)
②オフィリアの願いがかなったのでハッピーエンド(オフィリア視点)

主人公視点でどんどん映画の世界に入り込んでしまう人は、②の人が多いと思う。(それにしても悲惨だけど)

それと、後一つの考え方として、この物語は、フランコ政権に敗れた旧スペイン第二共和政の人々の祈りのようなことではないかという意見である。オフィリアという主人公の妄想、ラストシーンは、フランコ政権による迫害、食料制限(映画の中でも描かれてましたね)を、受けている人々の願望の王国。その強い想いをこの物語に絡めて表現しているんじゃないだろうか。そういう見方をすると、あれは人々の願望。願望が叶ったということになる。そんな意味で言うと、本当に最低のハッピーエンドだなと思うのである。それにしても、悲惨で悲しい物語には違いないので、人には勧めにくい映画ですね。

評価点:86点