黒を浄化していく光――heaven in her arms『白暈』(2017)

7年ぶりとなる3rdアルバムをリリースしたheaven in her arms。今年は『黒斑の侵蝕』から10年ということで海外からアナログ盤が再リリースされるなど何かと話題が多い。『黒斑の侵蝕』からのポピュラーなファンだけど、『白暈』そう簡単に売り切れるわけはないとふみグダグダと後回しにしていて今更ながら聴いた。

まず、ジャケットからしてこれまでのHIHAとは対極のようなイメージの配色(青・白)であるが、そもそもタイトルにも「白」と対極のイメージが組み込まれている。それに「暈」だ。「暈」という字は、「太陽や月に薄い雲がかかった際にその周囲に光の輪が現れる大気光学現象のこと」のように、「光」によって私たちの前に存在している。すべての始まりである「黒」の侵蝕から、幻の「月」――「暈」を形成する月であるように――を経由して目に「暈」を見るように、『黒斑の侵蝕』から方向性を変えながらも、『幻月』を経由し『白暈』に至るイメージがつながっていることがわかる。

さて、音のほうはどう変化してきたかというと、2nd『幻月』がポスト/激情ハードコアの路線から、スラッジを取り入れ息苦しさが精神を蝕むよう閉塞感の強いアルバムだった。対してまるでブラックメタルのようなトレモロの嵐が視聴者の耳から脳へと、そして最後には身体全体を震わし、『幻月』で閉塞感のゆえに死んでいった同胞たちへ一瞬の夢のような「祝福」を与える。10年前に始まった「侵蝕」さえも光によって浄化していく。重苦しい黒い音から、ブラック/ポストブラック的な雪崩のようなサウンドへ。クリアトーン、アルペジオ、幾重もに重ねられたギター音が、階層を生みスケールを広げる。

COHOLとのスプリット『刻光』もこの音には一役買っているのではないだろうか。特に『終焉の眩しさ』における狂ったようなファストパートは『白暈』への入り口のようにも思える。単にブラックメタル的な要素を取り入れることで満足することなく、日本的とはまた別のメロディやハードコアでしかないような悲痛な叫びといい個々のポテンシャルが極限まで引き出されアウトプットされている。大人しく聴いておけばよかったと実感した一枚だった。

白暈 (ハクウン)

白暈 (ハクウン)

刻光 (コクコウ)

刻光 (コクコウ)

  • アーティスト: heaven in her arms / COHOL (ヘヴン・イン・ハー・アームズ/ コール)
  • 出版社/メーカー: Daymare Recordings
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: CD
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黒斑の侵蝕

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幻月

幻月

被覆する閉塞

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