『彼女が消えた浜辺』アスガー・ファルハディ 2009年 118分 ※ネタばれ有り 

浜辺の砂のように、さらわわれて消えてしまった。

[あらすじ]
 テヘラン近郊の海辺のリゾート地にバカンスに訪れた男女の中に、セピデー(ゴルシフテェ・ファラハニー)が誘ったエリ(タラネ・アリシュスティ)もいた。トラブルに見舞われながらも初日は楽しく過ぎ、2日目に事件が起きる。海で幼い子どもがおぼれ、何とか助かったものの、エリの姿がこつ然と消えてしまっていたのだ。(yahoo映画より)

[感想]
 先月観た『別離』の完成度が素晴らしく、同監督の09年作『彼女が消えた浜辺』を観ました。ストーリーは、セピデーの子供の保育園の先生である、エリと呼ばれている女性を含め、男女夫婦グループでリゾートへバカンスに行った先で起こったある事件によって、別の重大な事件が発生するという完璧なまでのミステリー作品です。初めに行っておくと、『別離』もすごかったけど、この映画は予想を遥かに超えてすごかった!
俳優陣の演技、細部まで拘った演出、イランの国柄を象徴したシーンや、ラストシーンにおいてもパーフェクトに近い作品だったと言えます。
 この映画、殆ど登場人物達、特にセピデーの嘘に塗りかためられた映画なのです。冒頭の馬鹿みたいに車で騒ぐ主人公達をみれば、絶対何か起こる感が満載です。その後の管理人?の子供の顔やらを含めても、観ている側に不安を抱かされるような演出がこと細かくちりばめられています。特に、セピデーが1日しか泊まれないのにくればなんとかなるだろと、旅行をキャンセルすることなく、嘘をついて無理矢理旅行に行くシーンは、その後の事件の伏線になっていますし、とてもよく考えられた作品です。結局行き着いた浜辺の宿が、”圏外”ってのも重要なポイントですね。この閉ざされた浜辺で起こった事件により、人々は責任をなすりつけ、嘘を嘘で固められていきます。海で溺れる息子を救うシーンのカメラワークもとてもスリリングだったし、次は何が起こるの?と観ている側を飽きさせませんでした。

結局事件というのは、エリが行方不明になってしまうという事なんですが、誰もがエリが誰だかよく知らないんです。実際は、セピデーだけ知っているという状況。まるで、座敷童のようにグループに紛れ込み、誰だったかわからないよう消えていく‥‥結局、エリは最後どうなってしまったのでしょうか。死んでしまったととるのが一番素直なんでしょうか。それとも、本当に消えてしまったとうけとった方がこのお話にはあっているでしょうか。まあ、どうなったかはあまり重要ではないかと思います。この嘘で塗りかためられた人々は、浜辺の砂のように、さらわれて徐々に真実があらわにされていくんです。どんなに嘘ついても最後はばれるんですねー怖い怖い。そして、セピデーについては、本当に最後まで嘘しか言えない救えない奴でした。こんな奴とは早く離婚した方がいいよきっと。あっでも、イランは離婚しにくいんだったよな‥‥(『別離』より)

 僕が一番好きだったシーンは、婚約者相手とのもみ合いの時の「コーランに誓う!!」と身の潔白をしめしたシーンです。宗教心が強い国では、どんなに嘘っぱち(この映画では本当だけど)な事でも「コーランに誓う!!」って言えばなんでも許される気がしますね。(『別離』でもコーランには逆らえなかったですね)

評価点:88点